「フルサト」by ハイフェッツ


第34章 童神


(2007年5月26日)

 病院に着くと、妻N子はベッドで苦しんでいました。私はN子の腰や背中をマッサージしてできるだけ痛みを和らげてあげようとします。
「大丈夫だからね、何も心配要らないよ。」

 助産婦さんはちょっと怖い感じです。「しっかりしなさい!」と叱られます。
夕方まで膠着状態が続きましたが、いよいよ分娩台の上へ!ここで私の役割は終わり。あとは助産婦さんとお医者さまにお願いです。私は分娩室から追い出されました。

 その時に、助産婦さんとお医者さまの優しい目が、大丈夫だと無言で告げてくれました。心配するな、あとはまかせてくれ、と。ですから私はこの時点で安心しました。微笑んでお願いしますと。

 そして、なんと、ものの3分ほどで赤ん坊の産声が!

 助産婦さんが各々の指の数を確認してくださっている間、私はどきどきしていました。幸運なことに五体満足な女の子です。少し小さ目ですが元気な産声を上げてました。

 私は化学品メーカー勤務で危険な薬品を日常当たり前のように扱うことから、その影響が赤ちゃんに出ないようにと、それだけが願いでありました。N子はそれまでの苦しそうな表情とは別人のようにすっきりと笑顔です。

 生まれたばかりの我が娘を初めて腕に抱きながら、出産前に妻とともに聴いた曲、生まれてくる子のために聴いた曲を思い出しました。その歌を私が声に出して歌うと、助産婦さんはびっくりしたように私を見てました。

   「童神」  歌唱 by ハイフェッツ

フルサト エッセイ 2007


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