「フルサト」by ハイフェッツ


第17章 音楽室でのそよ風


(2007年4月14日)

 私の趣味がヴァイオリンであることを以前書きました。今回はそのヴァイオリン練習中にそよいだ風についてです。

 平日は単身赴任の技術系サラリーマンでして、練習は全くできません。帰りが遅いこともありますが、会社の独身寮に住まわされているために自由が利かないのが大きな要因です。したがって練習は金曜日の夜に家族の待つ自宅に帰ったあとの週末のみとなっています。これでは中々巧くなりません。でも好きなので何とか続けております。

 ある金曜日、仕事が比較的早く終えることができたため、家路を急ぎ夜八時くらいから練習を始めることができました。自宅の一室を防音完備の音楽室としているため多少時刻が遅くなっても大丈夫です。
「今日はたっぷり練習するぞー!」と気合を入れてはじめます。

 最初に音を出す瞬間!いつも感動します。何の音から、どの弦から弾こうかと思いを巡らすだけで心躍ります。大げさかもしれませんが、これはある種の暗示・儀式のようなもので、練習に集中し意味のあるものにするために必要だなと経験的に見出したものです。

 普段練習をサボっているために楽器と体がばらばらです。それを一体化するのを念じるかのように基礎的な動きをトレーニングして、同時に耳を鍛え慣らしていきます。今夜はベートーヴェンの「スプリングソナタ」を弾くことにしました。ご存知の方いらっしゃることと思います。楽曲のタイトルが示す通り、まるで春の情景を音であらわしたかのごとき美しいメロディラインが魅力的です。これを聴き手が「春だな・・」と感じることができるように演奏するために奏者はみな苦心します。

 私も何度弾いても雰囲気が出ず、何度も何度も試してみますがつかめません。音色と歌いまわし。ついに、ついに、うとうとと始めてしまいました。日頃の疲れか、集中力欠如か、うたた寝を始めてしまったのです。
うたた寝しながらも腕は動かしメロディーは弾いています。自分の出している音を、どこか遠くから聴いているような不思議な感覚の中で夢を見たようです。

「風をさぁ~、風を感じるように弾くといいからねぇ~」
皆様も大好きな、かのアイドルの元気な声が聞こえます。
どうやって感じるの?
「ほほにさぁ~、春のそよ風がやさしくほほをなでるのをイメージしてさぁ~」
なるほどぉ!実践してみよう!
うたた寝状態のまま弾いてみます。んん~!あまり変わらない。
「感じ方がたりないよぉ~、もっともっとオーバーに!」

 はっと気がついて夢から覚めました。
すぐに私の楽器ケースの内側に見えるように飾ってある夏川さんの写真を見ました。夏川さんがウインクして微笑んだように見えました。ベートーヴェンの美しいメロディを何度も何度も繰り返し弾いたために脳の中でアルファ波が発生し催眠効果が出てしまったのでしょうか、夢の間は気持ちよさで満たされました。

 顔を洗って、夢のレッスンを受講した効果を確認すべく、また練習を再開しました。

フルサト エッセイ 2007


夏川りみさんと遊ぼう