「フルサト」by ハイフェッツ
第6章 花になる
(2007年3月7日)
昨年末、我が家で小さな忘年会をやりました。メンバーは、連れ合いのN子の同業の友人M子さんとS子さんに、私と一歳四ヶ月になる娘の合わせて5人。、こういう場合の私の役回りといえば、彼女たちを家に迎えても恥ずかしくないよう部屋をきれいに掃除しておくことと、彼女たちが心置きなく楽しみたっぷりとお酒が飲めるように往復の運転手を務めることです。
この時は更に、ピアニストでもあるN子さんが2週間後に演奏会本番を控えていたことから、指を怪我する恐れのある包丁などは一切使用禁止。ですから調理も私担当です。つまり全部なのです。メニューは役得ということで私の大好物の「きりたんぽ鍋」にしました。
「皆様、今年も一年お疲れ様でした。ありがとうございました。来年もこれまでと変わりなきお付き合いをどうぞよろしくお願いいたします」
「乾杯~!」
皆さんどんどん飲んで食べておしゃべりして楽しくくつろいでおられます。いいことです。きりたんぽ鍋も評判よさそうです。私は運転手なので食べることと子守と鍋奉行を遂行です。
おっと、大事なことを忘れていた。
もうひとつの重要な役割がありました。それは音楽担当。雰囲気作りのためにBGMを選定し流すのです。もっともこれは必要不可欠なものではなく、純粋に私の趣味なのですが。
いろいろなCDのあとに、ふと目に付いた夏川りみのシングルコレクションをかけてみました。
「夕映えにゆれて」のマイナーメロディから入ります。BGMなので音量は控えめに。でも始めてすぐにS子さんが「何ていう歌手?」と尋ねてきます。こういうときが私は大変幸せです。うんちく披露の時間です。
誇らしげに「夏川りみですよ」と。
その後も宴会は続きますが、S子さんはCDが気になるみたいでライナーノートに時々目を落としています。
S子さん、
「この花になる、っていうの、いいですね」
「そうでしょう」と私。
S子さんには、結婚を予定している男性がおられるのですが、この男性がちょっと浮世離れしてます。夢に向かって邁進するのはいいのですが、生活とか収入とか全く関心ないようです。三〇代半ばでまだ学生しておられます。
「でも私、応援するの」
宴会は次第にS子さんの人生相談の様相を呈してきます。BGM担当としてはここで一気に夏川りみタイムに!。
がんばれ
いつの日か花になる
印象的なリフレインが夏川りみのひたむきで透明な声で響きます。私はその男性とはお会いしたことはありませんが、好感を持ってます。いい夫婦になってほしいと心から願います。
だいじょうぶ!負けないで!がんばって!夢を追う人間には頑張ることしか許されていない。でも私応援するからね、というS子さんの想い良くわかります。
いつの日か花になって欲しい、そう思います。
S子さんに嘆願され、CDはお貸ししました。でも今になってもCDが帰ってこないのです。S子さんも浮世離れか?でも夏川りみの微笑みに免じて許します。
りぃみぃサイン入りCDだけど許します。