「フルサト」by ハイフェッツ


第4章 童神~銀座にて


(2007年2月23日)

 ピアニストN子は現在二九歳。コンサートピアニストとしてのコマーシャルベースに乗った仕事ではないものの、地域に根ざした音楽活動の合間に、自身の研鑽の成果を年に一回ほどのリサイタルで発表したり、さらに生徒も多く、結構忙しい日々を送っています。

 N子は思います。演奏だけすればいいのであればこれほど楽な仕事は無いでしょう。そう、毎日が練習の連続で、この時間を確保することが難しいのです。

 プロ奏者との仕事のほか、地域のアマチュア演奏者との交流の機会も多く、N子はそういった環境の中で知り合ったある男性と結婚しました。夫となった人はアマチュアのバイオリニストで、腕前は駄目だけれども、N子の仕事には理解があり、一応はきちんとした仕事についてサラリーを運んでくる。これほどの好条件は無いのではないか?しかも結構やさしかったりして。

 今日は久しぶりに時間ができたので、N子は銀座へ出ることにしました。目的は、日本一の楽譜在庫を誇るヤマハ銀座本店に楽譜を探しに行くことと、新しい舞台衣装を選びに行くこと。本当は夫と来たかったのだけれど、仕事が忙しいとかで。

 そういえば何か頼まれたっけ?

 N子は思い出しました。「忘れないようにしなくちゃ。童神のCD!」

 CDコーナーに行きましたが、中々見つかりません。というか、歌手名うるおぼえ。「山本~何子だったかな?」
  ここでN子の目にふと飛び込んできたのが「夏川りみ」の名前。名曲「涙そうそう」をヒットさせた沖縄県石垣島出身のかわいい女性シンガーです。N子は好きでした。歌唱力もさることながら、声の美しさは他の流行歌歌手とは比較ならないほどで、別格だと思っています。
「夫はTVもあまり見ないしヒット曲は知らないし夏川りみのことも知らないんだろうなあ」

 よく見ると涙そうそうのCDの横に「童神~ヤマトグチ 夏川りみ」のCDを発見!早速、店員さんにお願いして視聴させてもらいました。

 三線に導かれて、ストリングスが流れ出す・・・そしてボーカル・・・。なんてきれいな声なんだろう!透明感があって、慈愛があって、・・・・。様々な形容詞、美辞麗句を思いつくまま挙げてみて、最後に想うのは一言、「言葉は要らない」。

 歌いだしを聴いた瞬間に、涙が湧き出てくる。本当に何だろう?

 N子は夏川りみのCDを購入し家路を急ぐ。
「この感動を早く夫と分け合いたい!夫に早くこの歌声を聴かせてあげたい!」

フルサト エッセイ 2007


夏川りみさんと遊ぼう