「フルサト」by ハイフェッツ


第48章 恐怖の百物語・其の壱


(2007年8月11日)

 百物語をご存知でしょうか。夏の風物詩のひとつでしょう。人里はなれた場所にある小さな部屋に数名が集まり各自が持ち寄った怪談を楽しむ会です。蝋燭を百本ともし、ひとつのお話が終わるたびに一本ずつ消していく。会が進むにつれ次第に暗く怪しい雰囲気に包まれます。話の提供者も、話し方に工夫を凝らし聴き手をうんと怖がらせるように準備してくるのです。

 はじめは面白がっていた参加者も次第に目は恐怖に釣りあがり、何かにとり憑かれたように体が痙攣するほどに異常をきたす場合もあります。
そして、百話目の話が終わり、最後の蝋燭が消されたとき、予想もしない何やら恐ろしいことが起こるのです・・・。

 今回の「フルサト」では私の幼少期のころ体験した恐ろしい事件を、お話したいと思います。あっ、ご心配なく。百個も話しませんよ。三つくらいですから・・・では、皆様の納涼となりますかどうか・・・。

 ☆  ☆  ☆  ☆

 小学校低学年のころ同級生の夏川佐和子ちゃんとよく一緒に虫取りして遊びました。カブトムシ、アゲハ、バッタ、カマキリなど大好きでした。それにちょうど今の時期くらいからトンボがたくさん飛んでいましたね。でもお盆のこの時期には「トンボは採ったらあかんぜぇ」と祖母に強く言われていました。

 なんでも、ご先祖様たちがこの時期だけあの世から帰ってくるのですが、それがトンボの背中に乗ってやって来るとされていたからなんだそうです。ですからトンボを捕まえて残酷にも羽なんか毟ったりしてしまうと、ものすごい罰が当たる!と言われたのです。

 そんなことはすっかり忘れて私は佐和子ちゃんと虫取りに夢中。そしてついにトンボに手を出したのです。
次々と捕まえる私に夏川佐和子ちゃんは不安げに「やめようよぅ・・・」と。
「大丈夫って。あんなの迷信迷信!」
「でもぅ・・私、怖いよ・・・」
とうとう泣き出してしまいました。

 今の私なら「ごめんね」と素直に謝って慰められるのですが、意地っ張りの子供でしたから、「弱虫!」といって一人でトンボ採りに熱中。気がつくと佐和子ちゃんは一人でお家に帰ってしまっていました。私はちょっと後悔しながらも、捕まえた20匹くらいのトンボを草の弦でつなげて、ネックレスのようにして首にかけて得意げに家に帰ったのです。この様子を見た祖母は腰を抜かしました。怒るどころか驚きと恐怖で言葉にならなかったようです。勿論、私は親戚縁者や周囲からしこたま怒られました。

 その日の夕方、あたりが薄暗くなったころあいに、迎え火をたきました。帰ってくるご先祖様が道に迷わずに家にこられるように、火をたいて目印にするためです。新聞紙を丸めてマッチで火をつけるのですが、なぜか火が付かないのです。

 不思議に思って新聞紙が湿っているのかと取り替えるのですが、やはりだめです。祖母が丸めた新聞紙を開いてみると、何と黒焦げのトンボの死骸が中から出てきたのでした。

 祖母はこの日、2回目の腰抜かしとなりました。私は子供心にぞっとしたのを覚えています。

 ところが、もっとぞっとすることがあったのです。

 翌日、謝ろうと思って夏川佐和子ちゃんに電話したのです。すると、何と病気で寝込んでいるというではありませんか!原因不明の高熱を出してぐったりしていたそうです。
「何だか、うなされているんですよ。」とお母様が心配そうにおっしゃいます。
「大きなトンボが次々と襲ってくる、なんて言っているのですよ」

恐怖の百物語


夏川りみさんと遊ぼう