「フルサト」by ハイフェッツ
第56章 もうひとつの邪馬台国~里巫女伝説①
(2007年9月28日)
邪馬台国については江戸時代の中ごろより盛んに研究されてきました。そのころまで日本には「日本は独立国家である」という概念が無かったとされています。
そもそも国家という意識も無かったでしょう。それは長年続けられた鎖国政策によるところもあったでしょうが、やはり大陸から離れた島国であったことがかなり寄与していると思われます。江戸時代に入り、徳川光圀が「大日本史」を編纂し、「日本書紀」「古事記」といった歴史書の再評価が進み、いわゆる「国学」が興りました。
われわれ日本人のルーツは一体何なのか?
そんな素朴で根源的な疑問や好奇心から「国学」はブームとなり、時代のあおりを受けたかのように次々と発見がなされました。縄文遺跡、弥生遺跡、金印、銅鏡、古墳、・・・・・こうしたウェーブがやがて尊王攘夷運動に結びつき長年続いた鎖国体制、そして江戸幕府を倒す原動力になっていきました。
◇ ◇ ◇ ◇
智秋は、昨日も徹夜で文献を読みふけってしまいました。目が覚めたときはすでに朝の9時30分。大急ぎで支度をして研究室へ向かうべく、ソアラを走らせます。車内のステレオからは、夏川りみの「時代」が朗々と流れています。
智秋真介、36歳。夏川大学助教授。教育科目は歴史学、専門は古代史(大和朝廷の王権確立と日本神話の成立との関係)。智秋は日本史全般がとても好きで、とうとう職業にしてしまいました。好奇心は留まるところを知らずに研究に没頭。ついにこの年まで未だ独身。女性とは何か恥ずかしくてお話できませんし、何より古代へのロマンに浸っているほうが楽しいし、ほっとするのです。それ以外では唯一、車の中で夏川りみのCDを聴いて癒されるのみなのでした。
そしてこの日、研究室で思わぬ出会いがあるとは露知らず、智秋は「時代」とともにソアラを走らせるのでした。