「フルサト」by ハイフェッツ
第107章 さる沖縄料理店との出会い~前編
(2009年3月25日)
私はインターネットでグルメ検索をしていました。宴会幹事としての職務なのです。とはいえ、参加人数の確定や予約、参加費の集金といった雑務が苦にならなければ、幹事特権発動でお店を選べる楽しさがあります。
今回は、沖縄出身の若手職員が異動する、ということで職場での送別会をとりおこなうこととなりました。私は沖縄料理店を探すこととしました。理由は、やはり新職場へ送り出される社員に喜んでもらおうと考えたから。というのは表向き。私が食べたいから、というのも表向き。真の理由は、上司であるH部長を黙らせるためなのです!
H部長は、沖縄料理を日頃からコケにしているのです。「山羊なんて人間の食うものじゃない」とか「ソーキそばなどと称して変なソバを食わせる」とか、何か発散しているとしか思えない。さもなくば、沖縄料理好きの私と、そして同職場の同じく沖縄料理好きのY課長をいじめているのかもしれません。
私は、送別会という機会を利用し、このH部長をおちょくることにしました。要は、彼の嫌いな沖縄料理のみでコースを設定し、心ゆくまで味わってもらおうということなのです。そして、文句いわずに沖縄料理を食べ、しかも「美味い!」という言葉を引き出すところまで行けば、私の完全勝利となります。
そんな意気込みをもって、お店の探索をしていました。交通の便や値段・お店の広さなどでかなり絞られます。それでも5軒程度のお店をピックアップしました。そして、まずは電話対応を確認します。それで信用できそうなところかどうかをある程度判断します。徹底してお店のことを聞きだします。
何が一番得意か?
他の店に負けないと自信を持っている点は?
サーターアンダギーはあるのか?
山羊は食べさせてくれるのか?
こうした問いかけに対する応対で落としたお店あり。結局、3軒のお店に出向いて見ることにしました。やはり、お店の選定の前には、自分自身の舌で確かめてみないと!
梯子はできないので、3日間かけて食べ歩きました。1軒目は洒落た感じのお店でしたね。静かな雰囲気で、沖縄料理店なのにモダンジャズやJ-POPSが流れています。私の受けた感覚では、若いカップルにぴったりですね。現に、お一人様の私に対して、ほかの客は4組で、みな男女のカップルでした。私の部署は「どんちゃん騒ぎ大好き」ですから、ここはNGとしました。H部長の大声でほかのお客様のご迷惑になってはいけないし。料理の味も私の基準を満たすものではなかったし。
2軒目は論外でした。接客態度がだめでした。味以前の問題。マニュアル通りの対応しかせず、融通がききません。なかなかいい店は見つかりませんね。
さて、3軒目。実は、電話で話した感じから、とても好感をもったお店です。駅からも近く、最も期待しているお店でした。さて、わくわくしながらお店の前に着きました。6時を少し過ぎたくらい。少し早いですが、それは実際に宴会を始める時刻の込み具合を見るためです。電話では「下見に行きますよ」とは言っていないので、一見の客に対する応対も判断できますし、すいている時間帯のほうがお店の人と話しやすいし。
店は、首里城を想起させる赤く彩られた看板とエントランスですぐにわかりました。ドアを開けて入ると、まだお客はまばらです。そう広くないフロアは30人ほどのキャパでしょうか。奥のテーブルに数人でワインを飲んでくつろいでいる団体さんがいる以外は一人の客がいただけです。お店は、まさに沖縄!といった内装でしたが、くつろぎやすい家庭料理のお店だと知れました。
いらっしゃいませー!という元気な女の子が、きれいで広いテーブルに案内してくれて、そして注文を取りに来ました。きちんと膝をついてメモを取る姿は好印象です。比較的すいているのをいいことにメニューについて詳しく聞きまくります。意地悪しているのではなく、その女の子がメニューを熟知しているかどうか、大切なポイントだからです。一連のやりとりで、このお店に対する印象がぐっと高まりました!
とりあえず、ゴーヤーチャンプルーにご飯をつけてもらいました。そしてその「Jちゃん」という名のホール係の女の子のお薦めという「海ブドウのサラダ」を追加。厨房では中年の渋い料理人が黙々と仕事しています。待っている間、ぼんやりとお店の中を見回しました。壁にはサインが飾ってありました。沖縄出身の元世界チャンピオンや有名野球選手、そしてなんと横綱の白鵬のものも!・・・でも夏川りみさんのはありませんでしたね。
料理が運ばれてきました。・・・旨い!
いうことなしですね。ゴーヤーは処理が上手で苦みがなく、しかし食感が心地よい。食べれば食べるほど健康になりそうです。海ブドウはぷりぷりして新鮮でしたね。一口食べて、沖縄のウージの森に迷い込んだかのような錯覚を覚えます。ご飯もおいしく炊けているし、つけてもらったスープの出汁が絶品でした。この出汁ならきっと、ソーキそばもおいしいのだろうな、と思いました。私の気持ちとしては、この時点でもうこのお店に決めていました。
追加でラフティとオリオンビールを味わった後、さらにソーキソバを注文すると、Jちゃんだけでなく、厨房の調理師までもが「まだ食べるの?」と一瞬おどろきます。驚くなかれ、私の胃袋はすごいのだ。ソーキソバは期待にたがわず、素晴らしいものでした。何杯でも食べられますな!
奥の席の団体さんが、先ほどから気になります。中央に座っている女性が気になるのです。夏川りみさんにとてもよく似ているのです。年輪とサイズは少し違いますが・・・。沖縄の方だなとは思いました。そういえば、次第に店が忙しくなってきたようです。お客が増えてきました。沖縄の方と思しきお客様も来店されていましたね。
私はJちゃんを呼んで、宴会の相談をしました。コースの説明をしてもらいましたが、ここでも私はリクエストします。「かならず山羊をいれるように!」とね。さらにいろいろなことを言っていると、Jちゃんは店長を連れてきました。店長さんとはなんと、先ほどの団体さんの真中でワインを気持ちよく飲んでおられた、あの夏川りみさん似の女性ではないですか!
「ごめんなさいね、少し酔ってますけれど」と前置きして「お客様、お昼に電話いただいた方ですよね」とママさん。声でわかりましたよ、とおっしゃいます。そしていろいろな打ち合わせをして、本決まりとなりました。宴会の日は、このお店の2階で夜の8時から三線のライブを開催するということでしたので、宴会終了後にライブを満喫するというオプションも付けました!いい下見ができたと思います。
帰り際に、店長ママさんにいいました。「ママさん、はじめて店の門をくぐったときから思っていたのですけれど。夏川りみさんに似てるといわれるでしょう?」
店長ママさんは照れ笑いして顔を隠しながら、「少しね~。でも私はデブのおばちゃんですよ~」
いえいえ、かわいいですよ。わたしはそう言いながら、このお店とは長い付き合いになるな、と確信にも近い思いをいだいたのでした。