「フルサト」by ハイフェッツ


第72章 理髪店にて


(2008年1月5日)

 私は年末に理髪店へ予約の電話を入れました。 以前に、このフルサトで取り上げさせていただきました「私の理想の理髪店」。その後もずっと毎月お願いしています。いつも変わらぬ暖かな雰囲気と丁寧なお仕事。ここが本当に好きになりました。

「ハイフェッツです。夕方の五時から大丈夫ですか?」
お母さんが応対してくださいます。
「はい、大丈夫です。五時にお待ち申し上げます。・・・ところでお願いなのですが・・・」
彼女は申し訳なさそうにします。私はちょっとドキドキしながら訊き返します。
「何でしょう?何なりとおっしゃってくださいね」
彼女は少し抑えたような声で、申し出ました。
「先月いらしてくださったときにお持ちになられました、あのアルバムをもう一度聞かせてくださいませんか」

 私は嬉しくなりました。お店にうかがうときはいつも、夏川りみさんのCDを持っていき、BGMとして流してもらっています。先月は、そう。新譜「歌さがし~リクエストカバーアルバム~」を持っていったのでした。

「今回は私のリクエストです・・」と、はにかむように彼女は言いました。

 彼女は、山口百恵世代でしょうか。「秋桜」は山口百恵以外にはありえないと思っていたのが、素晴らしい歌手に出会った、とおっしゃいます。「時代」も「なごり雪」も、ゆったりとしたテンポにアレンジされて、とても聴き心地がいい、とも。彼女はそのアルバムが大変に気に入ったご様子でしたので、私は彼女のためにアルバムを注文したことはもちろん言うまでもありません。

 決して個性的ではないとの見方もあるでしょうが、テンポ設定とアレンジにマッチした歌唱。人々の心に馴染むように入っていく、それが狙いなのだとしたら、私はその狙いは素晴らしいと思います。私の大好きな、いつも丁寧に髪を切ってくださる彼女の心に響いた瞬間を目の当たりにしたのですから!

 詩の素晴らしさ。さだまさしの詩には景色、いや心象風景といったほうがいいでしょうか、誰もが心に閉まっている情景を思い出させてくれる力があるとおもいます。それを優しい風となって伝えてくれる夏川りみさんの声。私も年老いた頃、秋桜の咲く頃に知り合った妻と、共にアルバムをめくりながら懐かしい話をしながら、娘の成長と幸せに涙するのでしょうね。。。そんなことを考えながら、ウトウトとしながら、彼女の仕事と夏川りみの歌う「秋桜」に身を任せていたのでした。

フルサト エッセイ 2008


夏川りみさんと遊ぼう