「フルサト」by ハイフェッツ


第76章 なごり雪


(2008年2月13日)

 とても美しい言葉だと思います。伊勢正三さん。夏川さんが歌のチカラなら、伊勢正三さんは詩のチカラでしょうか。このたびのカバーアルバム。全十四曲。曲名を思い浮かべてみます。もうアルバムはかなり聴きましたので、曲名を見ただけで曲がすぐにイメージできます。

 「なごり雪」も勿論そう。そうなのですが、「なごり雪」という文字をみてすぐに曲を思い浮かべるのではなく、なにか言葉の余韻を味わったのちに、心の中で自然に曲が流れだすというか・・・。

 「雪」の付く言葉は数多い。大雪、雪かき、雪だるま、雪合戦、雪下ろし、雪山、雪の結晶・・・。「なごり雪」はどうでしょう。

 「雪」というものに人間の心象を重ねているのでしょうか。終わり行く冬を名残惜しんでいるかのような。それとも冬の終わりのさみしさのなかに春への不安が交差するのか。最後の「雪」を大切に心にしまいたい・・。でも融けてしまうんだ・・・。時がたてば・・・。「なごり雪」とは、何かそんな気持ちを込めた言葉に感じます。

 昨年の秋には、私の耳元で囁くいやな秋風を感じました。ただただ寂しく、訳も無く不安に駆られ涙することがありました。冬の終わりは、その秋に比べると幾分か希望が持てる気がいたします。「去年よりずっときれいになった」という言葉そのものが「ずっときれい」だと思います。

フルサト エッセイ 2008


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