「フルサト」by ハイフェッツ
第101章 りみお姉さんの事件簿〔1〕~銀行強盗(前編)
(2009年1月28日)
木下佳代は今日もせわしなく働いています。ゴーヤ銀行の窓口業務を担当してまもなく一年が経とうとしています。年度末の異常なほどの忙しさは初めての経験でした。今日は比較的ゆとりがあったとはいえ、やはり押し寄せる客は中々途切れませんでした。
午後2時近くになって、ようやく窓口が落ち着いてきた頃を見計らって、佳代は昼食に出ることにしました。昼休みとして許されている45分間の間は、少しぼんやりして心を休めるのが、いつもの過ごし方でした。
同僚の夏川奈緒をさそって、いつものカフェへ赴きます。ここは昼ご飯になりうるサンドイッチなどが、値段の割に比較的量が多く味も上々で、おしゃれな雰囲気と相まってOLや主婦に人気がありました。しかし、佳代が昼食をとる時間帯は客が少なく、快適な時間を過ごせるのでした。
2人が昼食を終え、銀行への道を急ぎました。もうあと10分しかないわ。銀行のエントランスをくぐる瞬間、佳代はいいようもない違和感を感じました。何かが違う・・・しかし奈緒は気にとめずに、さっさと入っていきました。奈緒に続いて佳代が入ろうとした瞬間、
パァ~ン、パァ~ン、パァ~ン!
爆竹を耳元で鳴らされたときのような激しい爆音に、佳代は思わず立ちすくみました。前を歩いていた奈緒は耳を抑えて尻餅をついていました。
どけ!という強い叫び声とともに、2人組みの男が突進してきます。男は2人ともタイガーマスクの覆面をしていました!
銀行強盗だ!っと思った瞬間、佳代は男の一人に激しくぶつかられ、床に転倒しました。打ち所が悪かったのか、息が詰まり意識が遠のいていくのが分かりました。
「佳代!佳代!大丈夫?」と遠くで叫ぶ声が次第に大きくなり、声の主が奈緒だとわかったとき、佳代は状況を思い出しました。そうだ!銀行強盗!
気を失っていたのは、ほんの3分ほどだったようです。すでに多数の警察官が現場検証を行っていました。強盗が押し入った直後、支店長のすばやいボタン操作ですぐにセキュリティーが作動したので、警官がすぐに駆けつけることができたのです。
しかし犯人グループはそれを上回る手際のよさ。用意周到でした。ライフルを掲げて威嚇しながら窓口内部に滑り込み手際よく札束をボストンバッグの中に放り込んでいき、あっという間の早業で5分ほどですぐに立ち去ったのでした。しかも帰り際に威嚇発射して!
現金5千万円が見事に奪われましたが、けが人などの被害はありませんでした。佳代が軽い打撲傷を負った以外は。ただ、犯人グループが所持しているライフルは本物で、威嚇のために発射された弾丸は合計3発。すべてオフィスの天井を貫通していました。出会い頭に佳代や奈緒が撃たれたかもしれないことを考えると、ぞっとするのでした。
すぐに検問が張られたため、犯人逮捕は時間の問題かと思われました。
ところが警察のすばやい対応にもかかわらず、犯人グループは網に引っ掛ることもなく、まんまと逃げてしまいました。手がかりを全く残さなかった犯人グループ。どのようにして逃げたのか?