「フルサト」by ハイフェッツ
第118章 りみお姉さんの事件簿〔2〕~放火事件(その2)
(2009年10月2日)
紗江子に翔子、植田夫妻の4人は、テントを設置し終わると、早速、昼ご飯の準備に取り掛かりました。飯盒炊爨にカレー、と定番です。植田夫妻はキャンプなれしているようで、要領よくことを運んでいくので、紗江子はとても安心しました。何より、祥子が2人によくなついて楽しくキャンプを過ごしている様子が嬉しいのです。
「いただきま~す!」
焦げたようなご飯と煙の匂いの強いカレーでしたが、同時に、いつもよりかなり美味しいお昼でした。祥子にとっては、キャンプは初めての体験です。テントも飯盒炊爨も何もかも。非日常というよりは初体験!喜びオーラをみなぎらせる祥子の様子を見て、紗江子は安心しました。祥子は日頃から家の中ですごすことが多く、おとなしい部類に入るのでしょう。本を読んだりピアノを弾いたりはしますが、お友達と外で走り回って遊ぶとかいうことは殆んどしないので、紗江子は少し心配さえしていましたから。
お昼ご飯の片付けを終えた後は、付近を探検に出かけました。植田夫妻の案内で、軽くハイキングです。軽く、と思っていましたが、結構きついな!と紗江子は感じました。しかし祥子はぐんぐんと歩いていきます。いつのまにか少し逞しくなった祥子。紗江子は負けそうです・・・。
途中休憩。少し開けた台地に腰を下ろしました。見晴らしのよさに息を呑みました!
「ヤッホー!」と祥子はしばらくの間、大きな高い声で叫んでいました。残念ながらヤマビコは返ってきませんでしたが。
「りぃ~みぃ~!」と植田さんも負けていません!こちらも残念ながらヤマビコは返ってきませんでしたが。
テントに戻るときには、植田夫妻の指揮に合わせて歌を歌いながら、下りてきました。歌はもちろん、「りみお姉さん」の元気が出るヒット曲でした・・・。途中、夕飯に使える山菜やキノコを採取していきました。
キャンプは自然との共生です。縄文時代に帰ったように、火起こしからスタートです。夕食のバーベキューをたらふく楽しんだ後は、キャンプファイヤーとなりました。植田さんのギターにあわせていろいろな歌を歌いました。楽しかった!
さて、そろそろ寝る準備ですね。紗江子と祥子はもちろん一つのテントに。裸電球のオレンジ色のなかで、祥子はおもむろにリュックからノートと教科書を取り出しました。何やら勉強する様子。
「ママ~。理科の宿題教えて・・・」
「いいわよ~。どれどれ」
どうやら、理科の自由研究の宿題ですね。よりによって夏休みの最後の最後まで手付かずとは! そういえば祥子は理科が苦手でした。
一方、紗江子ママは理科系の専門学校を卒業して、現在は派遣社員として実験補助業務についていますから、小学生の「自由研究」の宿題程度であれば朝飯前です。祥子はどうやらそれを当てにしているらしい。
紗江子は、祥子の理科ノートをぱらぱらとめくりました。学校の授業の板書が几帳面に色鉛筆も使って綺麗に写し取られています。電池の直列回路に並列回路、太陽と地球と星、集光レンズによる光の屈折、などなど、紗江子にとっては懐かしいことを教わっています。
ああでもないこうでもないと、いろいろ考えた挙句に、紗江子と祥子は『キャンプで経験した自然を利用した科学技術について』というテーマにする事にしました。ナニヤラムツカシイタイトルダナ・・・。昆虫採集や雲の形のスケッチ、というものに留まらず、一歩進んで、人類が生きていくために自然をどのように利用してきたか、を体験してまとめよう、というものです。なかなか意義あるテーマに思えます。
よくよく考えれば、火を起こすのだって、かつて縄文人は摩擦熱や火花を利用したわけですね。これも現在の視点で見れば科学技術です。火を使って暖を取ることも食料を加熱することも、そうですね。
スイカを冷やす、というのも、桶などに溜めておいた水につけるよりも小川の流水につけておくほうが効果的なのは何故だろう?
さすがに天気を制御することはできませんが(現在の技術を持ってしても不可能です)、雨や風、暑さ寒さを避けるためにどのような衣服がいいのか、住居はどうか、などまさにそうです。テントを張った場所はどのようにして決めたの?
祥子は、紗江子と夜な夜な語り合いながら、宿題のイメージを膨らませ、ワクワクしていきます。明日からそういう視点でキャンプを続けよう、と祥子は意気込んで布団にもぐりこみました。明日の目覚めを楽しみにして・・・そういえば原始人には時刻の感覚を持っていたのか・・・・Zoo・・・Zoo・・・・
(次章へ続く)