「フルサト」by ハイフェッツ


第57章 もうひとつの邪馬台国~里巫女伝説②


(2007年10月5日)

 智秋が研究室に到着するとすぐに吉田教授に呼ばれました。なんでも新しい研究テーマに取り組むにあたり、助手を入れたので紹介したいとのこと。東大を主席で卒業した新進ジャーナリストで、年齢は二六歳だといいます。吉田教授は智秋の恩師であり、この奈良盆地の中央に立地する夏川大学の教授にして、日本古代史の知る人ぞ知る権威の一人として学会でも出版業界においても、一目も二目もおかれる存在です。

 ただ、学究肌で研究への姿勢が厳しいことや、学生の就職の面倒見があまりよくないことなどから、学生の人気は全くなく、現在この吉田研究室には吉田教授と智秋助教授しかいない。今年の春に大学院生を大手出版社に送り出したあとは、学生はいなくなりました。

 とはいえ、かつての卒業生はみな吉田教授の指導を耐え抜いたひとかどの研究者、それぞれの世界において異彩を放つものも多いのです。そして吉田教授は研究を離れると、実はやさしく味わい深い紳士でもあったのです。

 教授室にはいって、その新しい助手を紹介されたとき、智秋は思わずアッと声を上げそうになりました。
「朝田新聞社の内田美奈子でございます。この度、吉田先生のご研究に参加させていただくことになりました。」
内田美奈子はモデルかタレントと見まがう美人でした。

 色が白い。印象的な切れ長で大きな目で、黒い瞳が澄んでいました。夏川りみと若い頃の吉永小百合を合わせたといったところでしょうか。スタイルも抜群でした。清楚で良い印象の白のスーツを着ていましたが、厚手のウールの生地でも隠しきれないほど、胸のふくらみが豊かでした。ぴっちりしたスカートを通して腰の線が優美でした。
「助手というのはあなたですか」

 その後は、吉田教授と美奈子と智秋の3人で研究テーマの打ち合わせ。研究室の専門は大和朝廷の成立にまつわる論証・検証なのですが、学外のジャーナリストをメンバーに加えるということで、少し大胆に幅を広げたいというのが吉田教授の狙いです。
「歴史学的な細かな検証よりも、自由な発想で大胆な仮説を導いてほしい。ひらめきをふんだんにね。そこで『徐福』に焦点をあててほしい。」
智秋は少し驚きました。『徐福』については勿論一通りのことは知っていますが、はっきり言ってまともな研究の対象にはなっていません。御伽噺に近いかもしれません。

 吉田教授は智秋の心を見透かしたように続けます。
「『徐福』についてはあまり研究が進んでいない。文献や資料も少ないから検証しにくい。が、その分だけ大胆な仮説を立てて進めるはずだ。案外、古代日本を作ったのは『徐福』かもしれんよ。」
吉田教授は美奈子に言います。
「この仕事なら、あなたに向いてるよ。」
『徐福』研究をスタートさせることになり、3人は近くの居酒屋で決起集会。『徐福』についてのレクチャーの様でもありましたが。心も和んでリラックスできたところで、美奈子が智秋にそっと耳打ち。
「『徐福』って良いですね。とても楽しみです」

 新しいテーマと新しい共同研究者の出現に、智秋は踊り出すような気持ちでした。

里巫女伝説


夏川りみさんと遊ぼう