「フルサト」by ハイフェッツ
第49章 恐怖の百物語・其の弐
(2007年8月18日)
何年か前、ある地方のホールで行なわれた夏川りみさんのコンサートを聴きにいったときのちょっと怖くなった体験について、今回はお話しましょう。時期はちょうど今のようなうだるような暑さ。そう、7月の下旬でしたか。
では、皆様の納涼となりますかどうか・・・。
☆ ☆ ☆ ☆
○△県でのコンサートチケットが入手できました。ただし一枚だけ。妻には悪いと思いながら一人で、少し遠いですが行くことにしました。コンサートは夜の部でしたのでその日は宿泊して翌日の昼に帰ることと計画しました。電車に揺られて目的地へゆっくりと進んでいくと、私の下車予定駅より三つ手前の駅から、一人の女性が乗ってこられました。
髪は黒く長くストレート、夏らしくパステル調の清楚で明るいワンピースをお召しになった、中々の美人でした。今思い起こしますと、女優の有森也実さんによくにていました。その女性がちょうど私の真ん前の席にお座りになり、しばらくして文庫本を開きました。それを機に私もその女性から目を離し、窓の外をぼんやりと眺めて過ごしました。
目的地の駅に着きました。小さな町の小さな駅です。こんな小さな町でも、夏川さんのコンサートは満席になるのですね。駅からホールまでは歩いてすぐでした。まだ開場まで時間があったことから、駅のそばの小さな喫茶店に入りました。シートに腰掛け、アイスコーヒーが来るのを待つ間に、チケットを取り出し確認しました。
「よしよし、間違いないなと」
すると新しい客が来店です。見ると、先ほどの電車の有森也実さん似の女性でした。彼女は私が手にしていたチケットを見て、
「あら、あなたも夏川さんのコンサートに?」
と親しみある嬉しそうな笑顔で話しかけてきました。
「ということは、あなたも?」
その後少し話が弾み、共に会場に行きました。会場で座席を探します。私のはすぐに見つかったのですが、彼女の座席が見つかりません。困っている様子でしたので、お手伝いしようと彼女のチケットを見せてもらいました。チケットを手に取り、よく見ますが、何故か目がかすんで見にくいのです。
やっと見えたと思ったら驚きました。
座席番号が私の番号と同じなのです。こんなことってあるでしょうか?
主催者にクレームをつけようと思いましたが、もう一度よく確認してみてからと思い、会場スタッフを呼んで、一緒にもう一度しっかりと見て、さらに驚きました。
日付も座席番号も正しいのですが、開催年がなんとその1年前のものでした。
「このチケットは?」
女性に訊ねようとしましたが、いつの間にか女性は姿を消していました。えっ!と思い振り返ると会場スタッフも消えています。周囲をよく探したのですが見当たりません。狐につままれたような気持ちで呆然としました。手元にはその不思議なチケットが残されたまま・・・。
コンサートは無事に終わり何人かのりみ友さんと立ち話した後、宿泊先のホテルへ直行。感動を思い起こしながら遅い夕食(コンビニ弁当)をたべビールを飲み、寝ました。ベッドで開演前の不思議な出来事を思い出しました。例のチケットをもう一度確かめて、サイドテーブルに置き、いつの間にか眠りに。
翌朝、目が覚めてふとテーブルを見ると、チケットは消えていました。一体、昨日の体験は何だったのだろうかと恐ろしくなりました。
夏川さんのコンサートを聴きたくてチケットをとったにもかかわらず、何らかの事情があって聴くことがかなわなかった女性の情念が、たまたま同じ席番号の私の前に形となって現れたのでしょうか?どう思われますか?