「フルサト」by ハイフェッツ


第22章 夕映えにゆれて


(2007年4月30日)

今回は友人M君の恋のお話です。
人間、恋をしていればいつでも若くいられます。
私はM君を見て改めてそう思いました。

◇ ◇ ◇ ◇

 M君は学生時代からの友人です。一本気で気は優しく勇気があって頑張り屋。そして正義の味方。とても信頼できる男なのですが、残念ながら何故か女性と縁がありません。M君は何度か意中の女性に告白したのですが、そのすべての女性からお付き合いを断られてしまうのです。

 だからといって、女性から嫌われているかといったら決してそうではない。恋の対象としては見てくれない。そういうことです。恋に発展する前での撃沈の連続でM君も半ばあきらめていました。郷里の親に薦められるお見合い相手と結婚するか、あるいはもう一生独身でかまわないと。

 M君がある一人の女性に恋しました。去年の初冬でした。相手の女性は駅前のケーキ屋さんの女性です。甘い物好きのM君が会社の帰りにフラッとその駅前のケーキ屋さんに立ち寄って出会ったそうです。はきはきしていて声がきれいで優しい目をしていて色が白くて笑顔が素敵で・・・。

 若手女優の長澤まさみさんに似ている、とM君はいいます。私はその名を存じ上げませんでしたが、M君に「映画の涙そうそうの主演の人だよ」と教えられナルホドと思いました。

 M君は私に相談するのです。「どうしたら付き合えるようになるのだろうか?」
  M君、それは私に聞くのは間違いだよ、と。何を隠そう私はM君ほど男らしくもないし女性にもてるわけでもない。もてない君なのだから。一足先に運よく結婚したぐらいです。M君にとってはそれが頼りになるらしく、「一度は成功したのだろう?」と。恋愛相談に応じるような柄ではありませんが協力しようということに。

 とりあえずその女性を見に行こうということで、私もそのケーキ屋にひそかにいってみました。実際に見てみると、私の印象では長澤まさみさんというよりも井川遥さんのタイプかなと思いました。

 以降、M君はおしゃれにも気を遣い、最新のヒット曲を勉強し、ドラマも見たりと、涙ぐましい努力を重ねます。

 何のための努力か?M君は会社の帰りに毎日そのケーキ屋に立ち寄り、その「まさみちゃん」と少しお話するのです。その日のちょっと面白い話や流行のドラマなどについて。「まさみちゃん」は楽しそうに聞いてくれるそうです。

 そして最後に、その日のお奨めのケーキを一個だけ買って帰るのです。M君は頑張って毎日毎日三週間ほどそれを続けたそうです。

 いろいろな話をしたそうです。大好きなケーキの話や「まさみちゃん」が好きだという竹内まりやの曲や休日の過ごし方などについて。その中で、「まさみちゃん」には現在特定の彼氏はいない模様ということを感じ取り、M君はついに決心しました。

 12月23日の夜、いつものようにM君はお店に行きます。緊張のせいか、いつもより態度が少しぎこちない。
「Mさん、どうされたのですか? 何かいつもと違うみたい・・。」と彼女は心配そうに尋ねます。
「いいえ、何でもないです。・・・このケーキを2個いただけますか?」
M君は注文しました。
「はい、ありがとうございます。でも今日は1個じゃなくて2個なのですね」
「そう、あなたと一緒に食べるためだよ」

 この後の悲劇は今思い出しても辛いです。
彼女の表情はこわばりうつむいたそうです。奥へ引っ込んで代わりに出てきたのは店長。
「お客様、本人も困っておりますので・・・」

 数日後に打ちひしがれた様子で私に報告に来てくれたM君をつれてカラオケに行きました。仲間数人と。みな楽しく明るい歌を歌って元気付けようと!

 M君は「夕映えにゆれて」を絶唱してました・・・。
「抱きしめた想い」を爆発させていました。

      ◇  ◇  ◇  ◇

 夏川さんの歌には恋愛を真正面から取り上げたものは少ないと思われがちですが、いくつかあります。私はそれらが好きです。これからは恋愛を題材にした楽曲をたくさん歌っていただきたく存じます。私は是非聞いてみたい。同世代の特に女性からも共感を呼べると思います。

フルサト エッセイ 2007


夏川りみさんと遊ぼう