「フルサト」by ハイフェッツ
第96章 海中都市リミュランテスを救え!⑲
(2008年12月19日)
エピローグ(1)
2008年、あっという間に桜の季節です。藤田は今日も尾行です。会社役員の旦那が浮気をしているようなので証拠を掴んでこいという世田谷の奥様からの依頼です。浮気調査に身元調査、素行調査。面白くはない仕事ですが、実入りをコツコツ稼いでいくことも大事ですね。
間抜けな会社役員を尾行しながら、藤田はほんの数ヶ月前の事件を思い出していました。今回の一連の事件に関わったことで、それまで全く知らなかった事柄に触れることが出来ました。石垣島の珊瑚礁破壊問題、製薬会社の思惑、天然ガス油田にからむ利権争い、海中都市への想い、敗戦後の占領政策が生み出した歪み。そういったことに目を瞑って生きるのか、真正面から向き合うのか。いや、そんな難しいことではなく、一人ひとり日常の中で何かができるのではないか?
そう、テイク・ザ・アクション!
先週末、事件後初めて佐和子と会いました。東京九段坂のコンサートホールで「夏川りみ歌さがしの旅2007~2008」を一緒に聴きにいきました。思えば佐和子との出会いも、夏川りみのコンサートがきっかけでした。懐かしい思いを心にとどめつつ、「涙そうそう」「花」「花咲く旅路」などを心ゆくまで味わいました。会場の熱気は夏川りみへの暖かい声援となり、それを受けてステージから届けられる歌声によって、それぞれの聴衆の心に愛がともります。
コンサート後に眺めのよいレストランで食事しました。いろいろな話をしました。
「佐々木常務の件、残念でしたね」
と藤田は優しくねぎらいます。佐和子は表情を一瞬曇らせましたが、すぐに明るく
「もう大丈夫ですよ。佐々木常務から頂いた言葉、テイク・ザ・アクション!を多くの人に訴えていきますから!」
と応じました。彼女の目には光るものがありました。
スケベな会社役員の旦那が若い女性と接触しました。簡単な仕事でした。若い女性は秘書室の女性でした。絵に描いたような不倫オフィスラブでした。
さて、仕事は終了!さっそく次の仕事に取り掛からねば!次はなんと、行方不明のペットのていだ君(アメリカンショートヘア)を探してほしいとの依頼です。依頼者は、皆さんご存知のさる有名女性歌手。シャーロックホームズならば、明智小五郎ならば、十津川警部ならば、浅見光彦ならば、どう解決する?
今はちょうど夕食時。腹が減っては戦にならぬ。藤田はすぐそばにあった定食屋へ駆け入り、注文しました。「アジフライ定食とソーキソバをセットでお願い!」
エピローグ(2)
『地球人の習性に関する調査結果報告書』 報告者:オオミミ(地球名)
【調査目的】
太陽系第3惑星は銀河系において生物生育環境に極めて適した稀有な惑星である。われわれは数万年に渡りこの惑星を調査・観察してきたが、地球近年の文明・科学技術の高度化に伴う急激な変化を正確に評価・把握する必要があると判断した。今回は幾つかの実験を伴う調査を行い、その結果の概略を中間報告するものである。その中で軌道修正が必要と判断した場合について措置を行なったので、それも合わせて報告する。
【従来の見解】
地球史の分類で言うところの超古代・古代・中世・近世・近現代それぞれにおいて調査団を派遣し、人類の習性について観察してきた。得た技術を高度な文明にまで発展させる学習能力は特筆すべきものがある。しかし精神的な発達段階という点においては、まだまだ宇宙レベルではないと判断する。不必要な貧富の格差を生み出したばかりか、個人的な意見の相違や国家間の利益不一致などの解決のために武力を用いるという、もっとも品格にかける手段に訴えることをやめる気配がない。
【サンプル】
今回は、人類が生息する地域のうち、温帯性気候と呼ばれる比較的快適な気候条件下にあり、かつ、高度な文明を有する共同体(「日本」という国家に該当する)の中からサンプルを抽出し、下記実験に示す各種刺激に対する応答等を特に詳細に観察した。
【実験ステージ】
われわれは地球調査を目的として超古代に石垣島近海海底に都市(通称:リミュランティス)を建設した。以降の調査はすべてここを基地としており、今回もこの「リミュランティス」を用いた。
【実験1】
海中都市の存在をそれとなく匂わせ、場合によっては調査員が地球人の姿で出現したところ、特異な反応を示した。地球人は、海中都市は「あの世」であり調査員を「神」と認識し、畏敬の念を示すことが分かった。また、調査員が女性の場合には「里美姫」として特に人気を集める傾向も判明した。以上のように、必ずしも対等な関係を築けないことから、まだ地球人のレベルがわれわれに追いついていないことを示す端的な結果ではないか?
【実験2】
世界経済の行き詰まりに端を発して地球規模の戦争が勃発した。地球人がどのような方法で戦争を軟着陸させるかを観察していたところ、極めて危険な大量破壊兵器を用いるという解決方法を選択した。このことから、地球人の凶暴さや見境のなさが露呈した。そして改めて確認できたことは、地球人の特質の一つである「困ったときの神頼み」という特質は古代から現在まで変化しないということであった。地球人の自己中ぶりが現れていないだろうか?悲しむべきは、巻き添えとなって命を落としたヒロシマ・ナガサキを始めとする一般の人民の犠牲であり、宇宙より心より冥福を祈るものである。
【実験3】
地球人政府に一時的に預けておいた採集標本3種(宇宙石の結晶・珊瑚飾り・モルフォ蝶の琥珀化石)を取り返すことに成功した。地球人は単純な策略にすぐに引っ掛るお人よしであることも分かった。振り込め詐欺という地球レベルのケチクサイ犯罪行為が蔓延しているが、宇宙レベルから見ると、何故だまされるのかがさっぱり分からない。奇奇怪怪な現象である。
【実験4】
海中都市の秘密をリーダー層に意図的に漏らし反応を観察した。その結果、古代から現代にいたるまでの大多数のリーダーは私利私欲に走り秘密を独占しようとした。そこで実験領域を「庶民」といわれる下層民に広げてみたところ、近年になって、その悪用を曝露し平和利用を訴えようとするサンプルが現れた。地球人の度重なる悪事に対する自浄作用といえるのではないか。さらにそれに同調しようというかつてない動きも見られ、地球人の精神性に成長の兆しが見えてきたと思われる。
【実験5】
地球人自身のエネルギーの浪費による地球環境の悪化について、地球人の解決能力を観察した。その結果、自主的な解決能力は宇宙基準で言えば皆無であることが分かった。相変わらず化石燃料に依存し省エネが進まない状況であるばかりか、地域による貧富の格差が問題をますます難しくしている。しかしながら「庶民」の中から有能なサンプルが出現し、環境回復のために草の根的な運動を開始する動きも頻繁になってきていることは、評価するべきであろう。
【実験6】
この実験は実験1の関連実験である。調査員の一人を「夏川りみ」という名前で地球に派遣し30数年に渡り経過を観察した。その結果、地球人は「夏川りみ」の特性を充分に把握しその能力の発揮に喜びを示した。この結果、地球人はわれわれの持つ音楽的要素を理解する能力を有することが判明した。しかも徐々にではあるがその傾向は地域性を脱し広がりを見せていることも良い傾向であるといえる。もっともこれは派遣調査員「夏川りみ」の資質によるところが大きい。したがって地球人の美的感性が「夏川りみ」の派遣でさらに磨かれていると思われる。もうひとつの特記事項を挙げておく。地球人は「微笑み」と呼ばれる顔面筋肉状態に特に弱いことも判明した。また「微笑み」を作り出す「ほっぺ」とよばれる部位に特に興味を示す「フェチ」が存在することがわかった。
【実験7】
地球人が派遣調査員「夏川りみ」に対してどのようなイメージを抱いているかについてヒアリングするために、「ファンクラブ」を設立し反応を観察した。その結果、予想を上回る個体数の地球人が集まり、それぞれが「夏川りみ」に対し強い関心を持っていることが分かった。地球ではこれを「愛」「LOVE」と表現している。愛情表現の仕方は様々であるが、特にポートレート製作や三線演奏等に関して芸術と呼べる段階にまで昇華させたサンプルも複数名見られた。その作品はわれわれのレベルを凌駕しており、地球人の芸術的感性は宇宙最高レベルにあると判断してよい。しかしその一方で、フルサトと称する駄文長文を書き連ね悦に入っているメタボ野郎が一名出現したことを付け加えておく。
【結論】
上記の一連の実験の結果、地球人の進化のレベルを概ね把握することができた。
地球人のレベルはわれわれが想像し期待してきたレベルよりもはるかに低く、銀河宇宙連盟の正会員として推薦するにはまだ力不足と判断する。地球人の当面の課題は、自らの命の源である地球環境を大事にする心と方法論を身につけること、精神性の向上、恒久平和な社会の構築に尽きる。
一方で、下層構成員の精神的成長が著しく注目すべきことである。特に一部に見られた環境に対する姿勢、芸術に対する理解は、今後に期待を抱かせるには充分な成果と考える。地球人のレベルを引き下げているのは実はリーダー層、ごく一握りの権力者ではないかとのパラドックス的な見方も可能である。いまいちど、経過を観察し慎重に判断する必要があると考える。
概して、われわれは地球人の将来に大いに期待したい。現在のところ未熟な点は多々見受けられるものの、宇宙のリーダーとなるであろう素質を備えていると考えている。そのためにまず、貧富・地域格差の解消および環境問題の解決を優先して取り組んでもらいたいというのが願いである。
しかしその結果、地球人がわれわれの期待に反して誤った方向へ暴走を始め、収拾がつかなくなった場合には、超宇宙兵器銃アインシュタインを用いて一瞬にして地球を破壊する準備があることを確認しておく。
【今後の方針】
地球人の習性に関する調査を継続していく。その一環として今回の事例を、フルサト『海中都市リミュランティスを救え!』という題名で小説化して密かに公開(ネット提供)し、地球人類の反応の経過を観察するものとする。
以上、報告を終える。
オオミミはこれより帰還する。到着までは150年。愛船「リミュータ号」とともに一面大銀河の中を「2008年宇宙の旅」とシャレることとする。
(『海中都市リミュランティスを救え!』完)