「フルサト」by ハイフェッツ
第82章 海中都市リミュランテスを救え!⑤
(2008年4月11日)
5.再会
藤田は東京駅の新幹線のりばのホームにいました。既に青木佐和子の姿を確認しています。佐和子はグレーのスーツに身を包み、女性には珍しくアタッシェケースを手にしています。さすが、博士号を持つビジネスウーマンといったところです。本当にチャーミングな美人なだけに重そうなアタッシェケースとのギャップに驚きます。おそらく中にはノートPCの他、発表に必要な資料が詰まっているのでしょう。
新幹線がホームに到着しました。佐和子と藤田の座席はグリーンなのでこの時間は比較的空いています。佐和子が窓際のシートに腰を下ろし落ち着いたのを見計らって、藤田は佐和子の隣、通路側のシートにゆっくりと座りました。空いているはずのグリーン車両なのにと不審に思ったのでしょうか、佐和子はちらりと藤田の方を見ました。そして小さく「あっ」と驚きの声を上げました!その表情は不審と怯えとが同居したものでした。
「おや、また会いましたね、奇遇ですねと言いたいが違うんです。そう、あなたを追いかけてきたんですよ、青木佐和子さん」
と藤田はやさしく話しかけます。
「佐和子さんとお呼びしていいですか?私は佐和子さんを助けようとしているのですよ。実はあのあとパーティに・・・・いや、その前に自己紹介ですね」
藤田は懐から手品師のような手付きで名刺を取り出し佐和子に渡しました。佐和子は躊躇いながらそれをうけとり、目を落しました。
「探偵事務所フジタリサーチ、藤田玲司・・・私立探偵さんなんですか?」
佐和子は少し驚いて尋ねます。
「そうです。難事件を今までに何度も解決してきました。あなたを襲った二人の男たち、そして彼らを操る日本のやくざ、そして仲間の中国人女性にも既に会いましたよ。そうそう、その女性はもう既になくなっていますがね」
藤田はさらりと言ってのけましたが、佐和子は驚きで声も出ません。
それから藤田は昨夜の佐和子との出会いに始まった一連の出来事をわかりやすく、身振り手振りを交えて、ときにはオーバーな表現を含ませながら話しました。パーティーでの拉致、別荘からの脱走、罠にはまって警察に逮捕されてしまったこと、そして釈放されてこうして再び出会えたこと。
話の最後に藤田はこう締めくくりました。
「以上が、昨夜以来に私が知ったことすべてです。お聞きの通り、私にはわからないことが多い。情報が不足しているからです。辣腕弁護士の杉谷氏は何者なのか?佐和子さんとの関係は?そもそも何故あなたが狙われたのか?」
藤田は再び懐に手を入れて、今度は白いハンカチをそっと取り出しました。それを佐和子のまえで開いて見せました。ハンカチに挟まれていたのは、佐和子が藤田の車に置いて行った赤いハイビスカスでした。
「このハイビスカスと同じようにあなたの心は情熱であふれていますね。」藤田はやさしく囁きました。「あなたが大好きな『月の虹』に託した願いは一体何なのですか?教えてもらえませんか?きっとあなたの力になりますから・・」
佐和子は目にうっすらと涙をためながらも首を縦には振りません。
「探偵さんには無理なんです。もっと大きな力、私たちにはどうすることもかなわない勢力と戦わないといけないのですから」
しかし藤田は断言します。
「戦いには必ず勝ちます!そしてあなたを助けます!」
「警察の力でも解決できないんですよ?」
「それでも必ず勝てます!戦いましょう!」
沈黙がしばらく続きました。新幹線は米原を通過したところ・・・。佐和子は考えていましたが、ついに言いました。
「私、藤田さんのこと、ばかみたいに信用しちゃいますよ・・・」
すべてを信頼しともに戦うことを決意した魅力的な笑顔でした。