江の島鎌倉古今俳句集


江の島鎌倉古今俳句集

昭和十一年五月五日印刷
昭和十一年五月十五日発行

著作者 発行者 飯田九一
横浜市神奈川区白楽十番地
印刷者 石川福次郎
印刷所 花東社
横浜市神奈川区反町四番地

発行所 横浜市神奈川区白楽十番地(飯田方)
神奈川県郷土文芸協育

江の島に関連した前半36ページ分を掲載

古俳人の前書きには晝島或いは晝の島又は絵島或いは繪の島と書し、榎島、榎の島とも作るり。成るべく原本のままによれり。

江の島(夏の部)


夏草や島に気を増白蛇散
言水
一夜ふた夜の旅寝もいつこよからんと語り合て
江の島もえぞ忘られぬ鰹時
旨原
墨染に浦の鰹の蜑懀まん
文鱗
はつ茄子小魚のなき日の光かな
榎島に拝み寝入りや夏木立
望水
島涼し汐うちあはすうへの月
蘭更
島涼し波引わけて歩わたり
吐月
鯵釣りやあぢに世渡る岩の上
鳥醉
砂による月を濁すな砂鱛
未陌
江の島や月に浮き立つ鵜の頭
萬立
琵琶聞かぬ日もうつむくや百合の花
柳居
夏草や案内に出るは何童子
竹外
島神や時の花には海松の房
鷺貫
此島やたくさんさうな金銀花
抱雪
海士の子は猿にも似たり海月取
敲水
波すゞし江の島うかぶ青畳(盆石巸)
也有
江の島や河傘さしかけし夏肴
巣兆
江の島や月は甘日の青あらし
一具
魚飛ぶや爼板石に掃除波
午月
江の島の夕立みせよ茶一杯
澧水
休みなく浪の音して明け易き
多代女
いざ此所に泊りて聴かん郭公
古帳庵
この句碑 境内にあり古帳庵、古帳女二句を録す
二親に見せたし鰹生きてゐる
古帳女
琵琶の撥に銀杏拾はん青あらし
永機
月涼し徐に聞く琴の曲
九江
この句碑江の島宮境内にあり。雪門にして東枝門、震柳居四世江戸深川の生れ、渡邊諦三と呼び、晩年片瀬に住。
江の島や薫風魚の新しき
子規
江の島に遊ぶ支度や夏羽織
帷子や江の島に来て鼻冷ゆる
守水老
舟遊び江の島廻り月出でぬ
華園
江の島の裏道まはる茂り哉
観魚
江の島の外ゆく舟の日傘かな
花蓑
遊船や岩本楼の裏につく
みどり女
江の島の橋の往き来や土用浪
青峰
江の島へ足跡もなし五月雨
疎山
黒栄の潮気にして船待ちし
輸水
青嵐桶の蠑螺の角ちゞめ
木々涼し相模の国の一つ島
月人
島山のいたゞきくびれ草清水
容太
落睴尚若葉の島へ畳む浪
勇生
荒潮の風をまともに夏帽子
稍造
島山のけしきかはりぬ夕立晴
塋風
岩洞に魚の寄り居る若葉哉
多喜人
江の島へまくらがりなる橋涼し
抜山
向ひ合ふ店も旅館も水打てり
柳山
網すくや島の祭の明日といふ
拓水
崖際の白き日覆や休み茶屋
みの介
江の島や岩がくれなる日がらかさ
渓水
鵜立つ岩屋の煗掃除浪
呂博
江の島の浪や岩戸の煤拂
亀文
青蔦ににごらで清し掃除浪
一晴
鏤めし貝引きのこせ掃除浪
禹玉
掃除波:俳句の季題集中に江の島掃除浪(掃除浪)と云ふあり。夏季地文の部に出せり。掃除浪とは陰暦四月一日(陰暦にては四月五月六月、陽暦にては、立夏より立秋までを夏季とす)激浪相博って、この江の島の窟を洗ふ。之れ天女の汚穢を嫌ふ故なりと。