「フルサト」by ハイフェッツ


第111章 いのちの音


(2009年6月19日)

 今日は少し悲しいことを書きます。

 お読みいただいている皆様、「そうちゃん」をご存じですか?

 神奈川県に在住の中澤夫妻の息子さんです。2007年8月に生まれました。しかし1歳を迎える目前に拡張型心筋症という、海外での心臓移植でしか助かる道はないという難病であることが発覚しました。移植手術をうけるための費用は莫大で1億6000万円以上とされます。ご両親はじめ関係者の気持ちは想像を絶するものであったと思います。

 私にできることは何かを考えてみました。大金持ちならば、かなりの支援ができるでしょう。でも私はそうではない。不況の中、日々の生活もいつ脅かされるかといった、一介のサラリーマンでしかありません。できることといえば、ほんの少しだけ募金に協力することと、ビラ配りを手伝って少しでも多くの人に呼びかけること。

 11月に妻が演奏会を開くというので、受付に「そうちゃん」のビラを置きました。何人かの方が募金に協力してくださいました。しかし同時に、理解を訴えることの難しさも痛感することにもなりました。

 

 そうちゃんは、多くの人に愛されながら昨年2008年12月に永眠されました。わずか500日間の短い「いのち」でした。生き延びようと一生懸命にがんばったのですが、そうちゃんの心臓はもう限界だったのでした。

 

 昨年から今年に掛けて、命について考えることが多かった様に思います。友人の死、先輩の死、親戚の死。これからそういうことが増えていくのかなと思います。私もそういう年になってきたということでしょうか。自分自身の寿命についても考えてしまいます。

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 夏川りみさんは、コンサート活動を通じて「いのちの大切さ」を訴えています。小さなことから始めてみよう、とりみさんはおっしゃいます。確かに効率は悪いかもしれない。しかしまずは心に訴えよう。それがいつかムーヴになっていくはずです、と。

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 医療改革が叫ばれて久しい。医療技術の進歩とともに、バックアップ体制の整備が急務となっています。医療行政の根幹が問われてきています。医療費の問題、リハビリや介護の問題に加え、臓器移植に関する課題もウエートを占めていると思います。患者たちの「いのちの音」を聴きつつ、日々医療に取り組んでおられる方々には、本当に頭が下がります。

 その一方で臓器移植は脳死という難しい問題は人権擁護とも結びつき、がんじがらめになっていることも承知しています。また、途上国での臓器売買といったダークな視点も看過できません。かわいそう、というだけで募金するなという厳しい声も聞きました。しかし、忘れてはならないのは「いのちの音」だと思っています。

フルサト エッセイ 2009


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