「フルサト」by ハイフェッツ
第29章 ルパン三世~里美王国より愛をこめて
結末へ
四次元の放った一発に恐怖を感じた安倍は腰が抜けて戦意喪失。落ち着き払った立ち振る舞いで、偽リュパン安倍をロープでぐるぐる巻きにした後、リュパンは上着のポケットから赤の太いサインペンを取り出し壁に強い筆圧で大きくこう書きました。
「私リュパン三世は、偽リュパン三世を自らの手で逮捕し警視庁銭形警部に引き渡す。同時に古代里美王国の財宝の謎を明らかにしたうえで偽リュパンからこれを奪い返し『りみ島』へ返還する。さらに、監禁されていた歌姫夏川りみさんを無事に偽リュパンから解放した。以上全て、善良な市民としての心からの行動である。りみ姫様のファンとしての行動でもある。またリュパン三世としての最後の仕事である。本日をもってリュパン三世は泥棒稼業から完全に引退する。」
そして最後に力強くサインします、「警察庁刑事局長寺野真也ことリュパン三世」。
リュパンは満足そうに頷き、四次元に声をかけます。
「じゃあ、行くか!」「おう」
リュパンは最後に夏川りみを振り向きじっと見つめます。夏川りみも見つめ返します。リュパンからの言葉を待つように・・・。
命を懸けて助け出してくれた勇気と強さ、そして知力と行動力。救出劇の中の限られた時間での会話の巧みさ。真也の心の動きはまさに、これまで夏川りみが聞き及んでいたリュパン三世でした。人々の心をわくわくさせる力を持っている、あのリュパン三世そのものでした。
「りみ姫様、これで本当にリュパン三世を辞められる。刑事局長も辞められる。永遠におさらばさ!ありがとう!りみ姫様も自由人になれよ。ファンはきっと分かってくれるさ。」とルパン。
そう言い残すと直ちにあの中年女性の不二子の操縦するお決まりの高速ヘリコプターへ!
「じゃあ、またなー!!」
「りみ姫様ー! お元気でー!」
夏川りみとお宝をのこしぐんぐんとヘリは上昇。小さくなった里美城で点のような金形警部が何か叫んでいます・・。
◇ ◇ ◇ ◇
後日、メディアと国民に対し警察および検察当局が発表した内容は次の通り。
・犯行予告に始まり、夏川りみ誘拐、S氏殺害未遂、里美城強盗・占拠等々の一連の事件に関し、
元警察庁刑事副局長の安倍容疑者を逮捕した(逮捕当日に懲戒免職)。
・夏川りみ氏を無事保護した。
・安倍容疑者の犯罪については当然厳罰を求める。また多くの凶悪事件に関し余罪とみて追及中。
・安倍容疑者はリュパン三世本人ではない。本当のリュパンは今なお国際指名手配中。
・里美王国の財宝の謎については、文化庁による長年の調査の上で発見に至った。サトウキビ文書を再評価し、調査終了後、里美城跡にて一般公開する。
・捜査の過程で、寺野真也刑事局長が殉職した。
マスコミは、今回の逮捕劇に実は本物のリュパン三世が関与したのではないか?と当局を問い詰めます。警察当局があろうことか犯罪の権化たる世紀の大泥棒リュパン三世と取引したのではないか、と。当局の対応は逃げの一手に終始しましたが、新しく刑事局長を拝命した小杉井氏は前任者の遺志をついでリュパンの逮捕に熱意を燃やしています。
あるジャーナリストが夏川りみ氏にインタビューすることを思いつきました。が、四月より長期休養中に入っており、滞在先がつかめず取材を断念せざるを得ませんでした。
今回、捜査の総指揮を取った銭形警部も、これも不思議な一致ですがリフレッシュ休暇を取り海外旅行中。帰国後にも貝のように口を閉ざしたままでした。当然といえば当然です。刑事警察のNO.1がリュパン三世、NO.2がその偽者だったなどということは、口が裂けても言えるはずがありません。
いつしか世間には「リュパン三世はもう死んだ」という風評が飛び交い、人々の関心も薄れていきました。
四次元大介は思います。
「リュパンはそんなに甘くないぜ。刑事局長の肩書き以外にも多くの顔を持つ男だからな」
その四次元も、もうすっかり堅気となり、夢だったペットショップの店主になり、小鳥たちに囲まれてひっそりと余生を楽しんでます。現役時代にリュパンとともに稼いだ資産がいやと言うほどあるのですから。
「やつも今ごろは、りみ姫様の歌を独りで静かに聴いているのだろうな・・・」