「フルサト」by ハイフェッツ
第28章 ルパン三世~里美王国より愛をこめて
対決
「ムフフフフ・・」
不気味な含み笑いのあと、安倍副局長は寺野局長に尋ね返しました。
「貴様こそ正体を明かしたらどうだい? 寺野刑事局長、いや、リュパン三世!」
「・・・!」
これまでにこのような意外性にとんだ出来事があったでしょうか。そしてこんなことが許されるのか?日本の刑事警察のトップがリュパンだったとは!安倍は勝ち誇ったように声を上げて笑い続けます。そして言い放ちます。
「リュパン、あんたはもうおしまいだよ。」
真也ことリュパン三世はゆっくりと夏川りみを振り返ります。真也の顔は疲労感で満ち満ちています。夏川りみは体を硬直させて驚いておびえています。
そして目をあわそうとはしませんでした。裏切りに対する怒りとも諦めともみえるその表情。真介のリュパンにむかつき侮蔑するような、それでいて悲しさが漂う目。有態に言えば犯罪者に向けられる軽蔑のまなざしでした。
「私がリュパン三世だと知ってたのか・・・一体、お前の目的は何だ?」
リュパンは力なく偽ルパン安倍に問います。
「リュパン三世、君はかつて私にとって憧れだった」
安倍は遠い目をしながら歌うように話し始めました。
「あらゆる分野に精通したスーパーマンにして稀代の冒険家、天才的大泥棒にして自由人。リュパン三世の犯罪履歴は、泥棒見習だった私にとって最高の教科書だったよ」
一息入れて安倍は続けます。
「私も曲がりなりにも一人前の泥棒になったよ。その一方で警察官僚として着実に出世し刑事警察NO.2にまでなった。しかしある時、気づいたのだ。上司の寺野真也局長が実はリュパン三世なのではないかとね。泥棒同士、においでわかるのさ。」
「今回の一連の犯罪の目的は?」と、リュパンが訊ねます。
「里美王国の財宝さ。金塊の山がりみ島沖の海底遺跡に眠っているのだ。ちょうどいい。この仕事を利用してリュパンを葬ろうと考えた。刑事局長のリュパンを観察していて私は幻滅したよ。もう泥棒をやめちまっているんだから。夏川りみなんていう歌手にうつつを抜かして、いれあげて、情けない!」
「気をつけろよ。そろそろ本気で怒るぞ」
リュパンは言い捨てます。安倍は無視して話し続けます。
「私は泥棒においてはリュパンに並んだ。追い越すためにはルパンを殺すしかないのだよ。腰抜けリュパンをな!」
安倍は三線『里美姫』を手にし弄びます。
「本気かね?」
リュパンは冷静に問いかけます。この冷静な態度に安倍はやや戸惑います。リュパンは続けます。
「俺の『部下』の金形警部が偽リュパンをまもなく逮捕しに来るぜ。それはそうと、里美王国の財宝について教えてやるよ。金塊なんて、うそうそうーそ!ガセネタだよ。本当の財宝は、お前が持っているお宝の三線の中に隠されてるのさ。」
安倍はあわてて三線の胴体の中を覗き込み、小さな巻物を見つけ取り出しました。安倍は急いで目を通しました。そこには、件のサトウキビの記述が・・・。
「・・・!」
リュパンはさらに追い討ちをかけます。
「この素晴らしい絵を見てみろよ。吉野画伯は里美姫伝説を題材にこの大作『てぃだの恵み』を人生をかけて完成させた。里美王国の民にとって『てぃだ』は里美姫様だったが、画伯にとってはモデルになった奥さんだったんだろうなあ。この絵は、りみさんにそっくりな奥様への愛の証、ラブレターなんだ。財宝なんてありゃしないんだよ!」
安倍は失敗に気づいたようです。
ドアを強くたたく音がします。
「安倍副局長!訊きたいことがあります!開けなさい!逮捕状もあるんだー!」と銭形警部が怒鳴ります。
リュパンは冷たく言い放ちます。「そういうことです。安倍君、あんたは負けたよ」
ついに安倍は逆上しました。不意にピストルを取り出し、夏川りみとリュパン三世に向けて構えます。リュパンはりみさんを背後にかばい、両手を大きく広げ安倍をにらみます。丸腰のリュパン三世・・・。
バァーーーーーン!
四次元大介の狙いが見事に的中し、安倍副局長のピストルをはじき飛ばします。
「四次元~!遅かったなー!冷や冷やしたぜー!」
リュパンは旧友との再会を喜びました。