「フルサト」by ハイフェッツ


第27章 ルパン三世~里美王国より愛をこめて


てぃだの恵み
 金形警部は考え込んでいました。何故リュパンは今度のような事件を起こしたのか。
「まず第一にあの予告状だ。これまでの手口からするとサービスやボランティアで予告なんかはしない。つまり盗むためには予告しておく必要があった、ということか。大胆にも刑事局長の部屋へ忍び込んだのも理由があるはずだ。刑事局長が品川プリンスの最上階に宿泊していたことを知っていたのは極わずかでそれも警察関係者のみ。警察への挑戦と大きく捉えるのでなく、刑事局長個人への恫喝ではなかったか。リュパンが狙った里美王国の財宝とはそんなに価値のあるものなのかも疑問だ。実体がないのだから。夏川りみ誘拐についても動機は何なんだ?」

 財宝うんぬんなどは荒唐無稽すぎて金形警部は考える気になりません。何より、マネージャーS氏への暴力は従来のリュパンからは考えられない手口です。

 あらゆる可能性を考慮し排除していった結果残ったものが、例え突拍子も無いものであっても真実なのです。金形警部の心に、一つの真実が浮かびました。まさかと思いつつも、確信に近いものを抱きながら、里美城跡に向かいました。腹心の手勢数人を連れて。

「大丈夫ですか?痛いところありませんか?」
夏川りみに起こされてやっと気づきました。暗いがわずかに光がどこかからか入っているようです。暗さに目が慣れるまで、真也はりみさんと少し話をすることが出来ました。りみさんの歌に夢中なことや、ラストライブでも声援を贈ったことを告白しました。りみさんは嬉しそうに「ありがとう」と。

 二人は立ち上がりゆっくりと明かりのあるほうへ歩いていきます。地下の廊下のようです。時々躓いたりしながらゆっくり進みます。その間、真也は自身の過去の活躍について面白おかしく話します。また、駆け出しの頃に学術や冒険・スポーツの分野で、かつて世界的活躍をしたことなどを感動的に話しました。りみさんは嬉しそうに耳を傾けます。
(この人、警察官とは思えない。・・・そう、私も知っている誰かを思い起こさせる・・・)

 真也は、現在起こっている状況についても話しました。
「信じられないことですが、どうもリュパン三世は本当に財宝があると思い込んでいるらしいのです」
「あら、その財宝のことなら私、知ってますよ」
「えっ!」驚いて立ち止まりました。
「里美城跡博物館の吉野画伯の『てぃだの恵み』をご覧になったでしょう?」とりみさん。
「吉野画伯は実は私の曽祖父なんです。里美姫のモデルとなった女性は奥様、つまり私の曾祖母ですよ。そっくりでしょ?」
二人は再び歩きはじめます。りみさんは続けます。
「その吉野画伯は郷土史家でもあり、里美王国の財宝について詳しく調査した結果、見つけたんです。」
「それは何だったのです?」
「サトウキビですよ。」
「サトウキビ?」
「ええ、サトウキビ。里美王国の当時は砂糖は本当に貴重品でした。日本や琉球にはなかったので中国大陸から高いお金で少量を輸入していたんです。弱小な里美王国が生き残るために、安く大量に砂糖を生産することで経済的な優位性を発揮しようとしたのだと思います。里美王国の当時の科学者たちが品種改良の研究を重ねて漸く新種を開発したんです」
「それが財宝?」
「その新種のおかげで里美王国は豊かになりました。民の生活と産業を潤したのです。でも結局、隣国に滅ばされたのですけれど」
「では財宝とは砂糖なんですか?」
真也はやや拍子抜けの感がしました。
「がっかりしました?王国ではその新種のサトウキビのノウハウを文書に書き記し門外不出の技術としたそうです。それが王国を守ることになると考えたんですね。この文書を曽祖父が発見し歴史学会でも発表したのですよ」
「すると秘宝でも何でもないわけですね」
「はい。一部のトレジャーハンターみたいな人たちは、そうじゃない、必ず金塊があるはずと思っているみたいですが、もしそんな財産があったら王国は民のために使ったし、第一に侵略者たちが放置すると考えるのは人が好すぎるでしょう?」

 二人は大きな扉の前にたどり着きました。鉄でできた古い頑丈な扉です。しかし扉には錠のようなものが見当たらず開けるのにしばらく苦慮します。が、真也はここでも知力と行動力を発揮しパズルを解くように扉を開けることに成功しました。

 そして・・・そこは、なんと里美城跡美術館のあの一室でした!壁には『てぃだの恵み』が。りみさんは絵を懐かしそうに愛しそうに眺めます。
「里美姫さまは民の暮らしの向上を願ってサトウキビを残したんですね。ほら、人々を包む黄金の光。これは決して金塊ではなくてぃだの光を照り返すサトウキビ畑なんですよ」

「デートはそこまでだ!」と、突然男の声が!
50歳前後で一見してそうだとわかる仕立てのよいスーツを着た紳士風の男が現れました。りみさんは真也に告げます。「あの男がリュパン三世です!」
真也はニヤリとして頷き、その男に言いました。
「漸く正体を見せたね、安倍副局長!」

ルパン三世~里美王国より


夏川りみさんと遊ぼう