「フルサト」by ハイフェッツ
第25章 ルパン三世~里美王国より愛をこめて
刑事局長の始動
夏川りみは、目の前に突如現れた男たちに全く見覚えがありませんでした。勿論、何故拉致されるのか全く心当たりがありません。ものすごい腕力で体を持ち上げられたかと思うと、直ちにワゴン車に押し込まれ目隠しをされました。何もかもあっという間の出来事でした。あまりに恐ろしく悲鳴を上げることもできませんでした。車が発車するとともに、腕にチクリとした痛みを感じた後は意識を無くしました。
りみが意識を回復したときとき、どこかの別荘の一室らしき部屋のベッドに寝かされていました。体の節々が痛み頭がふらつきますが、ゆっくりと起き上がり頑丈そうな鉄格子のある窓の外を見ました。
夜でした。真っ暗で何も見えません。物音ひとつしませんが、かすかに波の音が・・・。
「海の近くかしら?」と、りみは感じました。ドアに近づきノブを回しますが、やはり鍵がかかっています。通常のドアでなくて、内側からは開けられないようです。
「ここから出してー!!」
ドアを叩いて大声で何度も叫びますが応答ありません。完全に閉じ込められてしまって途方に暮れてしまいました。
どのくらい時間がたったでしょう・・・。
「特別に選ばれた歌姫であられる夏川りみさん、こんばんは。」
と、ふいに男の声がしました。何所からどのようにして入ってきたのか、おそらく50歳前後の、一見してそうだとわかる仕立てのよいスーツに身を包んだ紳士風の男がそばに立っていました。、その男は穏やかな声で語り続けます。
「手荒なまねをして申し訳ありませんでした。里美王国の財宝を頂戴するためにはどうしてもあなたの力が必要なのです」
「里美王国の財宝?何のことかさっぱりわかりません!早くここから返してください!」
と、りみは気丈に言い返します。そして落ち着き払った紳士風のその男に尋ねます。
「第一、あなたは誰なのです?」
男は答えました。「俺の名は、リュパン三世!」
予告文公開に続く夏川りみ誘拐事件で、リュパン三世は時の人になりました。しかしそれはこれまでのように人々をある種楽しませるものではありません。むしろ恐怖に陥れているのです。なぜなら、リュパンがこれまでに用いたことの無い凶悪な暴力手段に訴えたからです。
躊躇ない暴力。やはり結局は泥棒は泥棒、犯罪者は犯罪者。警察権力に対する明らかな挑戦・報復でしょう。佐野真介刑事局長は「全力を挙げて夏川さんを救い出すのだ!」と警察の威信をかけて指示しました。しかし犯行の手際があまりに鮮やかで手がかりを何一つ残さない。犯行に使われたワゴン車も乗り捨てられ、まんまと検問をすり抜けています。リュパンが新たな行動を起こすのを待つしかない状況となりました。
寺野真也は考えました。
「陣頭指揮は安倍副局長と銭形警部に任せて、私自身で独自に捜査しよう」と。自分以上に確かな捜査をするものはいない、しかも、今回ばかりは何としても自身の手で解決せねばならないという意思があります。
会議終了後、旧友にひそかに電話しました。
「久しぶりだな」
「久しいね、刑事局長殿。」相手は答えます。「リュパン三世君のことでさぞ忙しいだろう?」
「だからこそ俺が行かなきゃならないんだよ、協力頼むぜ」
「勿論さ、まかせてくれよ」
「すまねえな」
静かに受話器を置いた寺野真也は独り、りみ島へ出発しました。