「フルサト」by ハイフェッツ
第26章 ルパン三世~里美王国より愛をこめて
救出開始
寺野真也がりみ島へ上陸して最初にしたことは食事でした。腹が減っては戦できぬ、という理由だけでなく、そこは勿論情報収集。琉球料理の店に入りお酒を飲みながら世間話風にいろいろな話を聴きます。勿論、警察官という身分は明かさずに。
聞き込みの結果、本土の人間らしい男3人が最近頻繁に里美城跡近辺をうろついていることや、うちリーダー格は50歳前後で一見してそうだとわかる仕立てのよいスーツを着た紳士風の男であることが判明しました。しかも里美城跡近くの広い別荘にその3人組は滞在しているらしい。
店を出たらすっかり暗くなっていました。真也は里美城近くのその豪邸別荘の周辺を入念に歩きました。中の様子を伺いながら。夏川りみが監禁されている可能性があります。また、「リュパン三世一味」の出入りがあるかもしれません。
豪邸別荘の中央に天守閣のようにそびえる4階建ての最上階の窓にはよく見ると鉄格子が。明かりはなく中を伺うことはなりませんが、非常に怪しい。夜明け近くまで監視しましたが動きはありませんでした。
翌朝、里美城跡博物館を視察しました。充分な警備です。館長の説明を受けながら奥に進みます。正面の壁には一枚の大きな200号ほどの油絵が・・・。
大勢の人々が描かれています。女性も男性も子供も、人々の表情は生き生きと描かれ、ある人は天を見上げ涙し、ある人は手を合わせて祈り感謝し、地面に頭をこすりつけ、喜び、飛び上がり・・・。みな一様に幸せをと感謝を表しているようです。描かれている時代は中世のようです。
そして絵の中央で人々の中心に描かれているのが、モルフォチョウ様の不思議な色彩を放つ青い衣装に身を包んだ一人の女性。三線を弾きながら歌っている姿です。驚くべきことに夏川りみのそのものです。そして人々の周囲は黄金色の光に包まれています。
絵の隅に「Yoshinoya1907」とサインがあります。画題は「てぃだの恵み」。館長に尋ねると、「吉野良平画伯です」
なるほど明治時代に活躍した吉野良平画伯なら、描かれている女性は夏川りみ本人ではありえない。1907年と製作年が明示してあるとおり。ではこの絵の元になったエピソードか何かあるのですか?館長は答えます。「それは里美姫伝説ですよ」
何世紀も昔、この地りみ島に里美王国という小国がありました。琉球王朝と中国王朝さらに大和王朝という巨大勢力に囲まれ常に侵略の恐怖におびえる小国でした。何度も王朝の滅亡の危機にさらされましたが、その都度何とかしのいできました。
それでもついに滅亡の時を迎えます。最後の王となったのは夏川里美姫でした。
里美姫は王国の歴史の中で時代を越えて幾度も登場する女帝であり、実在の人物かどうかは疑わしい点あるものの、歴史の節目節目で登場し伝説を残しています。この最後の里美姫のとき、三線を弾いて歌を歌い、王国民の幸せを願ったそうです。その姿は美しく天女のようであったとされています。王国民の幸せのために、その歌に財宝のありかを歌いこんだとも実際に地面いっぱいに黄金を敷き詰めたともいわれます。以上が里美姫伝説だそうです。
警備完璧だったにもかかわらず、肝心の三線はリュパン三世によってすでに盗まれていました。
◇ ◇ ◇ ◇
監禁中、夏川りみの身の回りの世話をしていたのは中年女性一人。はじめは緊張しましたが、次第に打ち解けていろいろ話すようになりました。女性は自分のことは殆ど話さず、りみの話すことをほほえましそうに聴くだけでしたが。
いつものように食事を用意したあと、その女性が言いました。
「りみさん、ついに逃げるときが来たわ」
りみは驚いて訊きます。「逃がしてくれるの?」
女性は微笑んで答えます。「その気になればいつだって逃げ出せたわよ」
不意に頑丈だったドアが音もなくあけられ、男が一人身軽に入ってきました。驚いて身構える夏川りみに男は警察手帳を開いて提示しながら自己紹介しました。
「りみ姫様、お助けに参りました。警察庁刑事局長の寺野真也と申します。」
続いて真也は、マネージャーS氏は一命を取りとめ快方に向かっていることを説明し、必ずここから解放しリュパンを逮捕すると明言しました。りみはほっと安堵したような表情を見せました。「ありがとうございます」
女性は二人を残し先に部屋を出ます。逃げ道を先導してくれるようです。そして、寺野真也と夏川りみが部屋を出ようとしたそのとき・・・・・・床が大きく開き、二人は深い落とし穴に落とし込まれてしまいました。