極近未来ジャーナル by Rei Kosugi


写真集『りみ』  -scene 4 撮影・涙そうそう-


極近未来ジャーナル9
「写真集『りみ』  -scene 4 撮影・涙そうそう-」
                            (2007/06/19 06:04)
10/6/07 夜
東京都 武蔵村山市民会館

登場人物
歌手
夏川りみ
友人知人
多数
観客
満員
写真家
荒木経惟
助手
I 君

設定
オープニング後、大声で「ただいいま~! みんな ただいいま~」と挨拶するりみに、鳴り止まぬ拍手、「おかえりー」「おかえりなさい」の声々・・・でコンサートははじまった。
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従来の曲につづき、これまでの「歌さがし」で出会った中から
皆がよく知っている曲も、はじめての曲も含め数曲を、
夏休み(?)のエピソードを交えて紹介したあと
りみ
「え~、今日のコンサートにスペシャルゲストが来ています。 吉川忠英さんです。」

拍手に迎えられ忠英さんがステージに    (りみと握手)
忠英
「スペシャルというより、なんか僕は常連ゲストみたいですね。」  (会場がドッと沸く)
りみ
「このあとは忠英さんが司会をしてくださるそうです。」とマイクを渡す。
忠英
「皆さん、今晩は、 えー、今日は土曜日ですし、三日早いですけどみんなで今夜、ここでりみちゃんの誕生日をお祝いしようと思いますが いかがでしょう?」
観客
大きく拍手    (りみ ニコニコ)
忠英
「では、今夜の本当のスペシャルゲストをご紹介します。 「想い風」のアルバムの収録に参加していただきました、琉球エイサー会の皆さんです。そして他にもりみちゃんにお祝いしたい人たちが来ています。」

エイサー会の面々がステージに登場、全員揃ったところで左端から次々にくるりと廻ると全員の打掛の背中には

「H」「 A」 「P」「 P」「 Y 」  
「B」「 I」「 R」「 T」「 H」「 D」「 A」「Y」
「りぃ」「みぃ」
     (拍手)

そして再び、向き直るや、忠英さんの「ワン、トゥー」ですぐに「祭りのあと風」が始まった。
太鼓と囃子のリードのあと
りみ
♪ まーつりのぉー あーとかぜぇー  にぎわうー ・・・・(スタンドマイクで歌うりみ)

忠英さんがギターを爪弾きつつ舞台監督に目配せする。
やがてセットの陰から、一人、二人、と次々と人が出てきてエイサーの囃子に加わっていく。

古謝さんと佐原さん、BIGINの三人に大島さん、パーシャクラブの面々、ほかたくさんの沖縄の音楽仲間たち、
なんとキロロの二人共が子供を抱いて来ている。
さらに、リトルハンズをはじめこれまでいっしょにステージをやってきたバンドメンバー達や歌い手が続々と 
良子さん、コブクロのコンビ、次からつぎから入ってくる。
宮沢和史さん、竹善さん、辛島さん、岩井 証夫さんも三井社長も、ゴスペラーズの全員 最後には、吉永小百合さんが北野武と一緒に入ってきた。

ステージはりみの友人たちで埋まってしまった。 

みんな普段着だった。堂々と歌うりみにみんな目を細めて手拍子と囃子をおくる。
どよめく客席と背後にただならぬものを感じていたが、きっちり歌い終えたりみは振り返って大きな目をさらに見開いた。 
沖縄から何人か来るよとは知らされていたが、他の人たちは本当にサプライズだった。
りみ
「わぁ、みんな・・」  言葉が続かない。
忠英
「これね、三井さんが言いだしっぺなんですよね。とにかくおかえりなさい会をやんなきゃって走り回って。
それがタケシさんに伝わったらあとはもうイモヅルみたいに・・・」 (笑)
タケシ
「いやあ りみちゃん休業って聞いた時はさ、どっか外国行ったっきり帰んないんじゃないかって心配したんだよ。
でもさ、こうやって元気に戻って来て安心したよ。」

ちょっと改まって

「りみちゃん おかえりなさい。誕生日おめでとう。」ドンドン…
(オバサンと続けるつもりがりみの目にまっすぐ見られるといつもの毒舌が出てこない。思わず)
「きれいになっていくけど、いよいよこれからが旬だね。みんなで応援します。」
(ステージと観客を見回し)
「見てくれ、今ここにいるみ~んなりみちゃんが大好きです。
りみちゃん 誕生日オメデトウ!」

(大きな拍手)  (忠英さんにうながされて )
りみ
「ありがとうございます。みんな、ほんとにほんとにありがとう。」(つまりながら)
「今日が・・ わたし又生まれかわったつもりで今夜からまたがんばります。 ありがとう」

(みんなの大きな拍手が鳴り止まぬうちに忠英さんの 「ワン、トゥー」で ゴスペラーズがスローテンポで

“Happy birthday to you~“ とリードする。
忠英さん 客席にも手を拡げ促すと会場は総立ちで歌う。

♪ Happy birthday to you~

コンサート会場の全員が歌って自分一人が聴くというのはりみには初めてのことだった。
身についた性で自分も一緒にうたっていたけれど、~Dear のあとで声が止まり、かわりに涙が出てきた。

隣のミーコ姉がりみの背中に腕を廻し、左から良子さんが両手で肩を抱くものだから涙から嗚咽になった。
そんなりみの頭をうしろから栄昇がグシャグシャに撫ぜる。

歌はもう一度繰り返され。Birthday girlは頬を両手に埋め、なりふりかまわず泣いた。

(バースデーソングが終わり満場は割れるような拍手と歓声、貰い泣いている人がほとんど。)
りみ
(涙声でつまりながら)「みんな、ほんとにほんとにありがとう。 わたし、ずっと歌ってきてほんとにほんとによかった。
ありがとう。ありがとうございます」( 舞台と、客席へ向かって深々とお辞儀する。)

(拍手がやまない。会場にいる全員が酔ったような感慨に浸されている)

やがて、忠英さんのキューで「涙そうそう」がはじまった。後に伝説となったライブ版「涙そうそう」がこの夜さくらホールにいるすべての人の歌声で紡ぎ出されていった。
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I君はこの夜のことをフラッシュバックのように思い出す。
荒木も泣いていた。が矢継ぎ早の指示が飛んだ。
カメラチェンジ、バッテリーパック、フィルム交換、レンズ交換、脚立の移動。
ロールに時刻を書き入れる暇もない。準備していたバッテリーパックも予備のフィルムも総て使い切り、カメラの一台はモータードライブの加熱の余り動かなくなった。
はっきり覚えているのは、最後に写真家の呟いた「撮れた。」という一言だった。

■極近未来ジャーナル by Rei Kosugi


夏川りみさんと遊ぼう