「フルサト」by ハイフェッツ
第45章 翼をください~勇気ひとつを友にして④
(2007年7月7日)
第二幕
幽閉されてから三ヶ月たちます。今のところ命だけは助けられましたが、全く自由の無い生活。しかも、いつ処刑されるかわかりません。外出禁止は勿論、部屋からさえ出られません。けれどもこの三ヶ月の間に、里美手(りみてぃ)は悲しみのどん底から強い意志で立ち直りました。つらいけれども、生きていかなければならないのです。
今までに世に送り出した数多くの三線。その子たちは、多くの奏者により大切に歌われていますが、楽器の定期的な調整は必要なのです。里美手を必要とする人たちが数多くいるのです。
里美手は、小さな窓から覗く遠い空の上に浮かぶそれをぼんやりと眺めています。。
「おい、里美手」
娘に、父天海手(あまてぃ)はため息混じりの声をかけました。その呼び声に、里美手が振り返ります。
「なんですか?お父さん?」
こちらを振り返った乙女は、それは美しい顔をしていました。軽くウェーブがかかった黒色の髪に、全てを見透かすほどの澄んだ真っ直ぐな瞳。その唇からこぼれる声のよさには女神すら嫉妬するほどです。薄桃色の琉球装に身を包み、振り返った乙女はふんわりと笑顔を浮かべて父の言葉を待っていました。
「里美手、そんなに空ばかり見ていては、目が悪くなる」
「もう少しだけ。もう少しだけ見ていたいの」
そういいながら、里美手は、空に浮かんだそれを見つめていました。
「一体何をそんなに見ているんだ?」
父の言葉に、里美手がその顔を空に向けたまま答えました。
「天に浮かぶ女神」
【芭蕉布・夏川りみさん歌唱】
やがて天海手をゆっくりと振り返り里美手は真顔で言いました。
「お父さん、親不孝をしてごめんなさい。でも、自分のすることに間違いがあったとは決して思いません」
その力強い言葉に、天海手も里美手の揺るぎない信念を感じたのです。里美手は続けます。
「本当にいいものは多くの人々の心を捉えると思います。少なくとも権力で独占するのは許せない。私は大勢の人に聴いて貰いたいの。そして聴いてくれた人の心にたとえ小さくてもやさしさを伝えたいの」
天海手は、いつの間にか成長し三線製作の腕も自身を凌駕していき、人間的にも強くなっていく娘を目の当たりにし、心の中で喜びそして涙しました。そして嘆き悲しむのをやめ、迷宮美里城の隔離塔から出るための方法を考えました。親子二人で知恵を出し合い、いろいろな方法を考えました。
「里美手、何かいい方法はないものか」
行き詰まり考え疲れた天海手が、里美手に尋ねました。そこで、里美手は少し考え込んで、こう答えました。
「鳥の羽をいっぱい集めて、膠で固めて大きな翼を作って、それで空を飛んでみるというのは?」
なるほどと思った天海手は、その日から膠を集め鳥の羽を集め、それを翼の形に固めました。里美手はそれを手伝いながら、どこか嬉しそうに歌うのです。
【ゆいま~る・夏川りみさん歌唱】
歌う里美手のその瞳は、恋をするものの瞳にも似ています。天海手は、里美手の心にそれほどまで熱く想う人がいたのかと、愛する娘をその人のもとへとたどり着かせるために、昼も夜も寝ずに翼を作ることに専念しました。勿論里美手も、天海手と同様に、翼をつくるのに心をこめていました。そして、風の穏やかなある日、漸く二対の翼ができました。
間奏曲【翼をください・山本潤子さん歌唱 夏川りみさんも途中から加入し二重唱に】