プレゼンテーションそのⅩⅩⅠ(21回)現代の作品


1991年1月9日(水)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会







プ ロ グ ラ ム
1.イストヴァーン・ラーング・星座
オーボエ・原田知篤
ヴァイオリン・工藤由紀子
ヴイオラ・神田幸彦
チェロ・斉藤章一
2.寺内園生・弦楽のための詩曲「ナルシス」
ヴァイオリン・植村 薫
 〃  ・二橋洋子
ヴイオラ・亀井宏子
チェロ・村井 将
3.藤田耕平・民謡―風の道―
ピアノ・中野洋子
4.山岸磨夫・オーボエ・チェロ・ピアノのためのトリオ
オーボエ・原田知篤
チェロ・斎藤章一
ピアノ・近藤春恵
5.塚谷晃弘・ギター・ソロのための3章
                  1)東調子
                  2)我駒
                  3)―印度旋律に基づく作品―
ギター・長尾和彦
6.伊藤隆太・Duetto No.3 per Shakuhachi e 17 Gen Alla Rosai
十七弦・菊池悌子
尺八・三橋貴風

曲目解説  田村 進(東京音楽大学教授)
1.イストヴァーン・ラーング:星座

 ラーングは1933年生まれのハンガリーの作曲家で、ブダペスト音楽アカデミーでJ.ヴィスキとF.サボーに作曲を学んだ。1958年以降西欧の新技法を吸収しながら独自の音楽を書き内外から注目されてきたが、いまなおユニークな作品を発表し現代ハンガリー作曲界で中心的な役割を果している。

 この曲はオーボエ、ヴァイオリン、ヴイオラ、チェロのための四重奏曲で、1976年ブダペストで出版された。
微分音によるデリケートな音の動きや特殊な奏法による音色が、4つの楽器の相互関係によって多彩な変化を生みだしている。それが、星をちりばめた天空に光り輝く星座を連想させるので、このような曲名をつけたのかもしれない。各楽器、特にオーボエの奏法は難しく、彼の作品中でも難曲の1つだが、それだけに、ききごたえのある作品となっている。
2.寺内 園生:弦楽のための詩曲「ナルシス」

 ピアノを中野洋子と伊達純に、作曲と和声を寺内昭、川井学に学ぶ。
 寺内は1959年千葉に生れ、高校卒業後渡独し、マリアフンタ女史に作曲法を学んだ。代表作には、既出版のピアノ曲集「水の城・イリュージョン」「めざめ・静かな風」「斑鳩」のほか、子供の為のピアノ小曲集として、「メルヘンの国」「小さな夢」「遊園地・宇宙船」(音楽之友社出版)「ピアノでひこうグりムのお話」「ピアノでひこうイソップのお話「ピアノでひこうアンデルセンのお話」(東京音楽社出版〉 などデリケートな感覚と想像力豊かな抒情的作品がある。
日本作曲家協議会会員及び音楽文化協議会会員。

 作曲者はこの曲について次のようにのべている。
 「ナルシスは、その美しさゆえに悲しい宿命の予感を持ち、その震える精神のもろさゆえに死をもってしか、自らの安らぎを得ることのできなかったギリシア神話の青年です。この神話の中の青年は、誰の心の中にもある生への陶酔と死の恐怖、そ′して安息への憧れを水面に映る彼の姿をとおして、私に語りかけてくるようです。曲は、1つのテーマを持ち、そのニュアンスを様々に変容させながら進み、ナルシスの悲しい最後を物語るかのように、消え入るように終ります。
3.藤田耕平:民謡 ―風の道―

 藤田は1945年横浜で生まれ、1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には、2台のピアノのための「八百屋お七の舞台への音楽」、七奏者のための「黙示」、管弦楽のための「星の刻」などがある。
 彼は音の積み重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し、個性的な作品を書いている。ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴイオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1、2位なしの3位に入賞している。「黙示」は1985年2月サンフランシスコでの現代音楽週間で演奏されると共に、NHK・FMより放送された。

 作曲者は今回の曲について、次のように述べている。
 「民謡は(童唄もそうですが)、コンパクトなそのボディにかかわらず、実に多くの表現や表現の技法が含まれていて、いつも感心させられます。民謡の演奏の中での自在な息づかいが、私には、風たちのおおらかな往き来のように感じられます。今夜の私の作品の中では、民謡を原型で表わすということはしていませんが、民謡の持つ自由な在り様を表現できればと思います。
4.山岸磨夫:オーボエ・チェロ・ピアノのためのトリオ

 山岸は1933年東京で生まれ、1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。「主要作品には交声曲「夕鴨」、「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」、「フルートとギターのための気と律」(昭和50年度武井賞受賞)、「弦楽四重奏曲Ⅰ」、「Ⅱ」、「ピアノトリオのための“乱”」、「ヴイオラとピアノのための変容Ⅰ」、「変容Ⅱ」のほか、合唱曲「白鳥帰行」、オペラ「温羅の砦」、「美作民謡による交響曲」、「交響曲美作Ⅱ」「管弦楽のための変容」、「管弦楽のための-序、破、急-」などを書き上演されている。彼は日本の題材にイメージを求め、平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行なっている。現在、作陽音楽大学教授。

 彼はこの曲において、次のように述べている。
「オーボエ、チェロ、ピアノのためのトリオ曲は、Lento-Allegretto,Adagio,Passacagliaの3つから成り、烏、風、水のイメージをもっているが、曲の内容を説明するものではない。
5.塚谷晃弘:ギター・ソロのための3章
                    1)東調子(あづまちょうし)
                    2)我駒(あがこま)
                    3)一印度旋律に基づく作品-

 塚谷は1919年東京に生まれ、1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが、戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し、それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及個人)を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」、バレエ曲「現代の神話」、「弦楽と打楽器のための組曲」、「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」、「コントラバスのための三章」
1981年8月)のほか能に基づく室内オペラなどがある。
日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され、2、3の作品がしばしば演奏されている。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
 「東調子は、浦上玉堂の琴曲に基いて、この曲のエスプリをギター曲として自由に表現しようと試みたもの。
 我駒は、平安時代の古典の曲名と曲にヒントを得た即興的な作品。
 印度旋律による作品は、民族楽器などで奏される旋律を自由にくみ合せた幻想的な曲。87年度武井貰作品の改訂(全音楽譜版)初演。
6.伊藤隆太:Duetto No.3 per Shakuhachi e 17 Gen Alla Rosai

 伊藤は1922年、広島児呉市に生れた。東京大学医学部を卒業し、かたわら作曲を池内友次郎、諸井三郎、高田三郎に学んだ。1950年(昭和25年)第19回日本音楽コンクール管弦楽作曲部門で第1位となったのち、筝曲の分析を開始し、やがて邦楽器を用いた作品も書くようになった。その後、芸術祭、米国現代コンクールなど計12の賞を受けた。このプレゼンテーションにも第4回まで歌曲を発表していたが、第18回から意欲的な作品を発表しつづけている。

 今回の曲について作曲者は次のようにのベている。
 「弄斉(ろうさい)とは寛文年間の僧の名。彼の歌は輸入されたばかりの三味線に載せて流行歌の1つとなり、味線組歌や筝組歌の付物へと芸術化された。1952年、中田博之師に採譜させていただき、師と四家文子女史で文化放送で電波に乗って以来、記憶の中から浮んでは再構成に向った。私の主題と原曲の素材を加えた6変奏を"弄斎風″ としたのは、八橋検校の有機的展開法の運びを背景にもつからである。

田村 一郎