プレゼンテーションそのⅩⅩ(20回)現代の作品


1990年1月11日(木)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会







プ ロ グ ラ ム
1.クシシュトフ・メイエル・フルート独奏のためのソナタ
Fl.・大竹泰夫
2.寺内 園生・鳳凰堂と雲中供養菩薩八態
     鳳凰堂(前奏曲)
     雲中供養菩薩 Ⅰ天蓋をもつ Ⅱ舞姿 Ⅲ未敷(ミブ)蓮華をもつ
               Ⅳ舞姿 Ⅴ横笛を吹く Ⅵ拍板(ハクバン)をもつ
               Ⅶ蓮華をもつ Ⅷ桴(バチ)をもつ
Pf.・中野洋子
3.山岸磨夫・8楽器のためのコンテェルティーノ
Fl.Ob.Fg.Hrn.2Vn.Vla.Vc.・横浜ノネット
4.藤田耕平・湿原
3Vnl.2Vla.Vcl.CB.・横浜ノネット
5.松 葉 良・ミゼーレーレ―プラーハにて―
オンド・マルトノ・原田 節
6.伊藤隆太・Concerto per Shakuhachi e 17 Gen Alla Kikuoka
尺八・三橋貴風
十七絃・菊池悌子
Ob.Fg.Hrn.Vnl.Vnll.Vla.Vcl.CB.・横浜ノネット
7.塚谷晃弘・無伴奏混声合唱のためのLm
合唱・日本合唱協会 指揮・山岸磨夫

横浜ノネット/Fl.大竹泰夫 Ob.原田知篤 Fg.加藤洋男 Hrn.飯笹浩二 Vn.工藤由紀子・西川玲子・本田淑美 Vla.神田幸彦・加藤由貴夫 Vcl.晦野敏明 CB.斉藤 順

 曲目解説   田村 進(東京音楽大学教授)

 この含も1968年12月第1回以来、第20回を迎えるに至った。途中、新しい会員が加わったとはいえ、作曲家のグループでこれほど長く続いているのも珍しい。しかも毎年数回、全員が集まって内外の作曲動向や作品について研究し、意見を交換しあっている。この会の人達は、既存の考えや権威にとらわれない自由な考えを持っている。当初、本国でも無名だったシュミットやポザイなどの作品に注目して、これをとりあげたため、本国の注意を喚起したという例もある。このようにこのグループは、常に前向きな姿勢で作曲活動に取組んできたからこそ、今日まで続いてきたのである。しかも、このグループのまわりには多くの日本の演奏家達もいる。これらの演奏家たちの好意的な支えがなければ、やはりこの会は存続できなかったろう。私も創立以来、このグループに共感をもつ一人として、今後の発展に期待している。
1.クシシュトフ・メイエル:フルート独奏のためのソナタ

 メイエルKrzysztof Meyer〈1943~)はポーランドのクラクフに生まれ、クラクフ音楽院で作曲をペンデレツキなどに学んだ。その後パリでも学び、ピアニストとしても活動した。また、最近まで、作曲家同盟議長もつとめ、作曲界で中心的な役割を果している。作品には多くの交響曲、協奏曲、室内楽がある。

 この曲は1983年に出版された。曲は2つの部分に分かれている。第1部はレント、センプレ・モルト・ルパートと記されたゆっくりとした曲だが、たえずテンポはゆれ動き、強弱の対照、レガート、トレモロ、グリッサンドの技巧も要求されたうえ、演奏時間も約4分15秒と定められている。なお、ここでは普通のハ調フルートで奏される。第2部は、プレストの急速な曲ではじまり、ピッコロで奏される。やがて、曲はノーノ・モッソとなって、また普通のフルートで奏されるが、音も高くフォルテの音型が続き、しかもテンポもプレスティシモからアダージョへと動いていく。次いで曲はポコ・ピュウ・モッソとなり、アルト・フルートで奏され、静かに全曲を閉じる。この第2部は約7分と定められている。この作品は、各種のフルートの音色を対比させ、変化に富んだ曲となっているが、演奏も容易ではない。しかし、そこにこの曲の面白さがあり、ヨーロッパ各国で広く演奏されている。
2.寺内園生:鳳凰堂と雪中供養菩薩八態

 ピアノを中野洋子と伊達純に、作曲と和声を寺内昭、川井学に学ぶ。
 寺内は1959年千葉に生れ、高校卒業後渡独し、マリア・フンク女史に作曲法を学んだ。代表作には、既出版のピアノ曲集「水の城・イリュージョン」「めざめ・静かな風」「斑鳩」のほか、子供の為のピアノ小曲集として、「メルヘンの国」「小さな夢」「遊園地・宇宙船」(音楽之友社出版〉「ピアノでひこうデリムのお話」「ピアノでひこうイソップのお話「「ピアノでひこうアンデルセンのお話」(東京音楽社出版)などデリケートな感覚と想像力豊かな抒情的作品がある。
 日本作曲家協議会会員及び音準文化協議会金員。

 作曲者はこの曲について次のようにのべている。
 「鳳凰堂の内部には、52体の雲中供養菩薩彫像群があります。その姿は多趣多様で思い思いの表情を持ち、変化に富んでいます。そのなかの入つの表現から感じられる「響き」を描いてみました。
3.山岸磨夫:8楽器のためのコンチェルティーノ

 山岸は1933年東京で生まれ、1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。「主要作品には交声曲「夕鴨」、「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」、「フルートとギターのための気と律」〈昭和50年度武井賞受賞〉、「弦楽四重奏曲Ⅰ」、「Ⅱ」、「ピアノトリオのための”乱”」、「ヴィオラとピアノのための変容Ⅰ」、「変容Ⅱ」のほか、合唱曲「白鳥帰行」、オペラ「温羅の砦」、「美作民謡による交響曲」、「交響曲美作Ⅱ」「管弦楽のための変容」などを書き上演されている。彼は日本の題材にイメージを求め、平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行なっている。現在、作陽音楽大学教授。

 彼はこの曲において、次のように述べている。
 「私が月の殆どを過している津山市〈岡山県、人口8万7千人)は、古い城下町であり、郊外には、鶯、かっこう、ほととぎす、ふくろう・・・・・・多くの鳥達、川もあり、螢が飛び、沢蟹が遊ぶ美しい山々にかこまれた盆地である。
 冬は毎朝霧が立ち籠めるが、夕方の山々を背景にした美しさはかくべつである。ここも都市化が押し寄せ、マンションが乱立し、人口の割には、多過ぎる車が走り廻る。この作品はこれらの事と直接関係はないが、書いている過程でこれらのことが、幾度となく、頭を過ぎさったことであった。
4.藤田耕平:湿原

 藤田は1945年横浜で生まれ、1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には、2台のピアノのための「八百屋お七の舞台への音楽」、七奏者のための「黙示」、管弦楽のための「星の刻」などがある。
 彼は音の積み重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し、個性的な作品を書いているソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴィオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1、2位なしの3位に入賞している。「黙示」は1985年2月サンフランシスコでの現代音楽週間で演奏されると共に、NHK・FMより放送された。

 作曲者は今回の曲について、次のように述べている。
「“湿原”は一つの状態にあるように見えます。それは次にはあふれ、次には枯れるといった変動の直中にあり続けるように思います。それは又、生き物の存在に似た、いとおしさすら感じさせます。
5.松葉 良:ミゼレーレ ―プラハにて―

 松葉は1919年東京で生まれ、1940年青山学院大学卒業後、日大芸術科で学び、作曲を池内友次郎と貴島清彦に師事した。立軌会々員として画壇においても活躍し、詩情に富む色彩豊かな作品は広く注目されている。彼はヨーロッパの古典的伝統に根をおろしながらも、大胆に現代的な技法をとり入れて、独特の風格をもつ抒情性豊かな音楽的表現をつくりだしている。主要作品には弦楽のための「詩曲」、「主題と変容」、交響詩曲「心象風景」、交響詩曲「祈りの叫び」(NHK委嘱)、「弦三重奏曲」、「オーボエのためのパルティータ〉、「ヴァイオリンとヴイオラのためのパルティータ」、「ヴァイオリンとチェロのための“コンポジション”」、「無伴奏チェロのための作品第1番」のほか劇音楽、バレエ、映画音楽などがある。
なお、オンド・マルトノはフランスのモリス・マルトノ(1898-1980)が発明した電子鍵盤楽器で1928年に公開。
音は3つのスピーカーから発せられ、この組合わせで様々な音色を作る。しかし単旋律しか弾けない。音域は5オクターブから7オクターブ。

 作曲者はこの曲について、次のようにのべている。
 昨年の夏、プラハの町を訪れた時、その町並の風景は異様な程美しかった。いしだたみのある町を歩いている時、その美しさの中に流れる一まつの影の如き暗さは何であったのだろうか。
 チェコの子供達の夜と霧と題された絵と詩の残された小さな美術館を訪れた時ゲットーで亡くなったアレナ・シンコヴァーと推定される一人の少女の詩を発見した。

  オルガに

    お聞き
    もう汽船の汽笛が鳴っている
    私たちは見知らぬ港に
    出帆せねばならない
    お聞き もう時間なの
    風は遠くの歌を歌っている
    ただ空を眺め
    スミレのことを考える
    お聞き もう時間なの
6.伊藤隆太:Concerto per Shakuhachi e 17 Gen Alla Kikuoka

  伊藤は1922年、広島県呉市に生れた。東京大学医学部を卒業したが、作曲を池内友次郎、諸井三郎、高田三郎に学んだ。1950年(昭和25年)第19回日本音楽コンクール管弦楽作曲部門で第1位となったのち、琴曲の分析を開始し、やがて邦楽器を用いた作品も書くようになった。
その後、芸術祭、米国現代コンクールなど計12の賞を受けた。このプレゼンテーションにも第4回まで歌曲を発表していたが、第18回から意欲的な作品を発表しつづけている。

 今回の曲について作曲者は次のようにのべている。
 「菊岡風とは、京手事物の作曲技法を拡大したものである。改良された17絃とA管尺八の表現力の増大、管弦楽曲数曲を含む邦洋楽器の組合せによって、二重協奏曲とした。前唄〈緩)・手事2段〈速)・後歌(緩)から成り、尺八と17絃に提示された伝統的音型による2主題と絃による間奏部主題で展開する。
7.塚谷晃弘:無伴奏混声合唱によるLm

 塚谷は1919年東京に生まれ、1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが、戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し、それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及個人)を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」、バレエ曲「現代の神話」、「弦楽と打楽器のための組曲」、「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」、「コントラバスのための三章」(1981年8月)のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され、2、3の作品がしばしば演奏されている。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
 「男声と女声の、歌詞のない音響のからみあい、あらがい、むつみあうことによって織りなす、まんだらのようなもの、ただしそのプロセスを心にえがきながら、作曲された。昨年冬から今年春にかけての作。

田村 一郎