プレゼンテーションそのⅩⅧ(18回)現代の作品


1987年7月4日(土)
草月会館ホール
主催:音楽文化協議会







プ ロ グ ラ ム
1.エドヴァルト・ボグスワフスキ ムジカ・ノットゥルナ
オーボエ・原田知篤
ピアノ・近藤春恵
2.寺内園生・ヴァイオリンとピアノのための詩曲「プシュケの肖像」
ヴァイオリン・堀 正文
ピアノ・林 絵理
3.松葉 良・オンドマルトノのための詩曲“はるかなる声”
オンドマルトノ・原田 節
4.藤田耕平・ピアノのための「螺旋Ⅱ」――海へ…――
ピアノ・窪田 隆
5.塚谷晃弘・オンドマルトノと7人の奏者のためのImages
フルート・大竹泰夫
オーボエ・原田知蔦
ドラムセット・杉山智恵子
第1ヴァイオリン・西川玲子
第2ヴァイオリン・吉川秋子
ヴイオラ・神田幸彦
チェロ・森沢 泰
オンドマルトノ・原田 節
6.山岸磨夫・チェロとピアノのための変容――Ⅱ誄 しのびごと――
チェロ・松下修也
ピアノ・平井修二
7.伊藤隆太・レントとアレグロ
尺八・横山勝也
十七絃・菊地悌子

 曲目解説   田村 進(東京音楽大学教授)
1.エドヴァルト ボグスワフスキ:ムジカ・ノットゥルナ

 ボグスワフスキは1940年生まれのポーランドの作曲家である。カトヴィッツェ音楽院でシャベルスキに作曲を学び、ウィーンでハウベンストック・ラマティにも学んだ。「オーボエ協奏曲」が、1971年、ユネスコ作曲コンクールに人選し、1975年には声楽と管弦楽のための「エポケーション」が、全ポーランド作曲コンクールで第1位を獲得した。
 主要作品には、管弦楽「ノットゥルノ・カプリチォーソ」、「フルート、オーボエ、ギター三重奏曲」などのほか、ピアノやフルート用の独奏曲がある。披は作品の形式的構成に気を配り、楽器のテクニックを駆使し、固有の音色を求めた音楽を書いている。この曲は1974年に作曲され、1976年にイタリアのシェーナで、ローター・ファーバーのオーボエ、ドナ・ブルンスマのピアノにより初演された。

 曲はピアニッシモのオーボエで始まるが、休止符も厳格に3秒あるいは5秒などと時間を指定され、消え入るようなピアノとオーボエの響きと共に曲想の重要な担い手となっている。弱音で表情豊かに歌われるオーボエにつづいて、曲はしだいに力を増していくが、強弱の対比やテンポの変化には披のデリケートな感覚がうかがえる。
2.寺内園生:ヴァイオリンとピアノのための詩曲「プシュケの肖像」

 ピアノを中野洋子と伊達純に、作曲と和声を寺内昭、川井学に学ぶ。
 寺内は1959年千葉に生れ、高校卒業後渡独し、マリア・フンク女史に作曲法を学んだ。代表作には、既出版のピアノ曲集「永の城・イリュージョン」「めぎめ・静かな風」「斑鳩」のほか、子供の為のピアノ小曲集として、「メルヘンの国」「小さな夢」「遊園地・宇宙船」(音楽之友社出版)「ピアノでひこうデリムのお話」(東京音楽社出版)などデリケートな感覚と想像力豊かな抒情的作品がある。
日本作曲家協議会会員及び音楽文化協議会会員。

 作曲者はこの曲について次のようにのべている。
 「プシュケは、蝶の羽を背中につけ、愛の神エロスから愛されたローマ神話の美女で、“魂〃 の象徴でもあります。この曲は、ヴァイオリンとピアノとが純粋に理想的な、深いいとおしみの中で昇華されることを願ったものであり、音による一つの肖像画として感じとっていただけたら幸せです。」
3.松葉 良:オンドマルトノのための詩曲“はるかなる声”

 松葉は1919年東京で生まれ、1940年青山学院大学卒業後、日大芸術科で学び、作曲を池内友次郎と貴島清彦に師事した。立軌会々員として画壇においても活躍し、詩情に富む色彩豊かな作品は広く注目されている。彼はヨーロッパの古典的伝統に根をおろしながらも、大胆に現代的な技法をとり入れて、独特の風格をもつ抒情性豊かな音楽的表現をつくりだしている。主要作品には弦楽のための「詩曲」、「主題と変容」、交響詩曲「心象風景」、交響詩曲「祈りの叫び」(NHK委嘱)、「弦三重奏曲」、「オーボエのためのパルティータ」、「ヴァイオリンとヴイオラのためのパルティータ」、「ヴァイオリンとチェロのための “コンポジション”」、「無伴奏チェロのための作品第1番」のほか劇音楽、バレエ、映画音楽などがある。

なお、オンド・マルトノはフランスのモリス・マルトノ(1898~1980)が発明した電子鍵盤楽器で1928年に公開。音は3つのスピーカーから発せられ、この組合わせで様々な音色を作る。しかし単旋律しか弾けない。音域は5オクターブから7オクターブ。

 作曲者はこの曲について、「オンド・マルトノのための詩曲は1970年がんのため亡くなった友人広渡一郎君の詩による歌曲「黄昏れる雨の町」の最初の数小節を用いてレクイエムになればと願って作曲したものです。」と述べている。
4.藤田 耕平:ピアノのための「螺旋Ⅱ」――海へ・・・――

  藤田は1945年横浜で生まれ、1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には、2台のピアノのための「八百屋お七の舞台への音楽」、七奏者のための「黙示」、小管弦楽のための
「星の刻」などがある。
 彼は音の積み重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し、個性的な作品を書いている。
 ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴイオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1、2位なしの3位入賞している。「黙示」は1985年2月サンフランシスコでの現代音楽週間で演奏されると共に、NHK・FMより放送された。

 作曲者は今回の曲について、次のように述べている。
「海の持つ豊能さと多様さが表現されることを願いました。曲は1つの楽章で、できています。」
5.塚谷晃弘:オンドマルトノと7人の奏者のためのImages

 塚谷は1919年東京に生まれ、1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが、戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し、それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞〈団体及個人〉を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」、バレエ曲「現代の神話」、「弦楽と打楽器のための組曲」、「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」、「コントラバスのための三章」(1981年8月、イギリスのマン島における国際コントラバス大会で永島氏により演奏され好評だった。また今秋ウィーンで発表される予定である。)のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され、2、3の作品がしばしば演奏されている。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
 「この曲は今年の春作曲された。一定の標題や観念のもとでなく、自然に作曲していくうち、いろいろなイメージがわきでて、私を活気づけてくれた。そこでImagesと題名をつけたわけである。」
6.山岸磨夫:チェロとピアノのための変容――Ⅱ誄 しのびごと――

 山岸は1933年東京で生まれ、1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交声曲「夕鴨」、「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」、「フルートとギターのための気と律」(昭和50年度武井賞受賞)、「弦楽四重奏曲I」、「Ⅱ」、「ピアノトリオのための“乱”」、「ヴイオラとピアノのための変容I」、「変容Ⅱ」のほか、合唱曲「白鳥帰行」、オペラ「温羅の砦」、「美作民謡こよる交響曲」、「管弦楽のための変容」などを書き上演されている。彼は日本の題材にイメージを求め、平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創
作活動を行なっている。

 彼はこの曲について、次のように述べている。
 「チェロの音色は大変好きなものの一つで、松下さんには、この曲を含めて三曲も初演していただいた。誄は古代から貴人の死を悼んで、追憶する詞であるが、天武帝の子、高市皇子の死を悼んで、柿本人麿が詠じた長歌は、万葉集のなかでも、最も長い歌の一つであり、又、壮大な叙事詩のおもむきもある。
“掛けまくも忌々しきかも云はまくもあやに畏き……眞木立つ不破山越えて……が原の行宮に……”
 チェロとピアノに現代の語部を考えてみた。」
7.伊藤隆太:レントとアレグロ

 伊藤は1922年、広島県呉市に生れた。東京大学医学部を卒業したが、作曲を池内友次郎、諸井三郎、高田三郎に学んだ。1950年〈昭和25年)第19回日本音楽コンクール管弦楽作曲部門で第1位となったのち、琴曲の分析を開
始し、やがて邦楽器を用いた作品も書くようになった。

 このプレゼンテーションにも会員として第4回まで歌曲を発表してたが、今回は久しぶりの登場である。この曲について作曲者は、「十七弦と尺八という珍らしい組合せで伝統を拡大した楽式と音を持つ」作品であると述べている。

田村 一郎