プレゼンテーションそのⅩⅩⅦ(27回)現代の作品


1997年1月7日(火)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会







プ ロ グ ラ ム
1.E.パワシュ・「ミニアチュリ」
ピアノ・中野洋子
2.塚谷 晃弘・「オーボエとピアノのための作品」
オーボエ・原田知篤
ピアノ・中野洋子
3.寺内 園生・「Mind」
チェロ・伊藤耕司
4.山岸 磨夫・ソプラノ・フルート・ピアノのためのトリオ ―二上山残照―
ソプラノ・佐々木典子
フルート・西畑正三
ピアノ・落合 敦
5.伊藤 隆太・Duetto No.9 alla「根曳の松」
尺八・三橋貴風
十七絃・菊地悌子
6.安生 慶・メゾソプラノ・チェロ・ピアノのための枯野」
メソソプラノ・阿部祐子
チェロ・雨田光弘
ピアノ・雨田のぶ子
7.藤田 耕平・「海の歌」
ハープ・島崎説子
クラリネット・金  元
ヴィオラ・神田幸彦

曲目解説  田村 進(東京音楽大学教授)

 「プレゼンテーション」も1968年以来、海外の準会員も含めて、会員の初演曲をほぼ毎年発表し、今回で第27回を迎えた。1995牛10月、急逝した全員の塚谷晃弘の未発表の作品を、今回も、追悼演奏として、上演することにした。会の代表である松葉良は、立軌会合員として画壇の重鎮的な存在となって活動しているが、プログラムの表紙の絵は、今回のコンサートのために描いたものであり、今後も毎回描くことになっている。
1.E.パワシュ・「ミニアチュリ」

 エドヴァルト・パワシュ (1936~)はポーランドのグダニンスク近郊で生まれ、ワルシャワ大学音楽学部で、学んだ。1965年項から作品を発表し、1970年代には各種の作曲コンクールに入賞して、広く注目されるようになった。
 彼は、、当時の前衛的なホーランド音楽の潮流のなかにあっても、伝統的な音楽やポーランド民謡に目を向け、そこからインスピレーンョンを得て、変化に富む多様な響きをもつ音楽を追求した。この曲は、こういう彼の作風を示す初期の作品で1970牛に作曲された。
 その後、現在に至るまで、披は一貫して、こういう独自の作曲技法による洋楽を追求しているが、これが“停滞した前衛音楽”に代る新しい、ポーランド音楽への道を拓くものとして、評価されている。
 この「ミニアチュり」はテンポも、音型も、表現も、響きも異なる11曲からなり、最後に、これらの音型の一部をひとまとめにした曲が付いているが、本日はこの11曲だけを演奏する。各曲とも短く、演奏上、高度の技巧を要する難曲である。

Ⅰ 和声的でディナミックな曲。
Ⅱ pで始まり、4度音程が多い両手のこまかい動き。
Ⅲ 右手の変ニ音を中心とした曲。
Ⅳ FFで始まるディナミックな曲。
Ⅴ ppで始まるレガートの曲。
Ⅵ 波うつような速い曲。
Ⅶ pで始まる対位法ふうの曲
Ⅷ 左手は低音を打鍵したままで右手は速いスタッカート。
Ⅸ テンポや強弱の変化に富む曲。
Ⅹ FFで始まり、リズムの変化による右手の変ホ音の連
  打。
ⅩⅠ モルト・ルパートの曲。
 2.(故)塚谷晃弘(追悼演奏)・「オーボエ・ソロのための作品

塚谷晃弘氏は1995年10月13日急逝した。1968年、この「プレゼンテーション」の創設に力を蓋し、それ以来、多くの傑作を残してきた。
 彼は1919年東京で生まれ、1942年東京大学を卒業。在学中から諸井三郎に作曲を学ぶ。戦後1949年に「新作曲派協会」に参加。1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及個人)を受けている。主要作品には「弦楽と打楽器のための組曲」、「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」、「コントラバスのための三章」(1981年8月)のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され、2、3の作品がしばしば演奏されている。

1985年1月16日のプレゼンテーションⅩⅥにおいて初演されたもので、会場は奇しくも今夜と同じ東京文化会館小ホール。演奏者も同じく原田知篤と中野洋子。この曲について、今夜のプログラムには作曲者自身の言葉として、「1984年夏の作品、この作品にとりかかる前に、私の耳には日本の古代の音楽と巷のさまぎまなひびきが交錯していた。ヒアノは伴奏でなく、独立した存在としてとりあつかわれている。」とある。
3.寺内園生・「Mind」

 ピアノを中野洋子と伊達純に、作曲と和声を寺内昭、
川井学に学ぶ。
 寺内は1959年千葉に生まれ、高校卒業後渡独し、マリアフンク女史に作曲法を学んだ。代表作には、既出版のピアノ曲集「水の城・イリュージョン」「めざめ・静かな風」「斑鳩」のほか、子供の為のピアノ小曲集として、「メルヘンの国」「小さな夢」「遊園地・宇宙船」(音楽之友社〉「動物の大行進」(音楽の友社・CDフォンテック〉「ピアノでひこうグリムのお話」(東京音楽社)「マザーグース」(全音・CDフォンテック)などデリケートな感覚と想像力豊かな抒情的作品がある。
 日本作曲家協議会会員及び音楽文化協議会会員。

 作曲者はこの曲について次のようにのべている。
 Mindには、広い意味がありますが、この曲では「心」「精神」「思考」「意思」といった心の動きをイメージして書きました。
4.山岸磨夫・ソプラノ・フルート・ピアノのためのトリオ ―二上山残照―

 山岸は1933年東京で生まれ、1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交声曲「夕鶴」、「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」、「フルートとギターのための気と律」〈昭和50年度武井嘗受賞)、「弦楽四重奏曲Ⅰ」、「Ⅱ」、「ヴイオラとピアノのための変容I」、「変容Ⅱ」のほか、合唱曲「白鳥帰行」、オペラ「温羅の砦」、「交響曲Ⅰ」、「管弦楽のための変容」、「二台のピアノとオーケストラのための協奏曲」「管弦楽のための前奏曲」などを書き上げ上演されている。彼は日本の題材にイメージを求め、平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行っている。現在、作陽音楽大学教授。

 彼はこの曲について、次のようにのべている。
 「奈良児の南西にある二上山は、古代人にとって奥津城であり、西方浄土ヘの道であると言われていた。飛鳥の、蘇我氏の邸宅の跡といわれている、甘檀丘からみる二上山の落日は、雄岳、雌岳の鞍部に太陽が落ち、その壮麗さと神秘さは言葉では言い尽せない。飛鳥時代に、天武天皇の皇子、大津皇子は、帝の死の殯もすまないうちに、謀反ありとの理由で刑死させられた。大津の墓は、今も二上山の雄岳にある。この事件は、時の皇后が、その実子草壁皇子と大津との後継者争に楔を打ったのではないかともみられている。その直前、大津は、伊勢の斎宮であった姉の大伯皇女を訪れている。この出来事に関わる二人の歌が、万葉集、懐風藻に残されている、それらを軸に構成した。」
5.伊藤 隆太・Duetto No.9 alla「根曳の松」

 伊藤は1922年、広島県呉市に生まれた。東京大学医学部を卒業し、かたわら作曲を池内友次郎、諸井三郎、高田三郎に学んだ。第19回目本音楽コンクール管弦楽作曲部門で第1位ののち、琴曲の分析から邦楽器の作品も書き、芸術祭、米国現代コンクールなど計12の賞を受けた。
プレゼンテーションにも第18回以後、意欲的な作品を発表している。

 今回の曲について作曲者は次のようにのべている。
 『琴曲「根曳の松」(三津橋勾当作曲)を出発点とした。原曲は2つの特性をもつ。1つは歌の部分が3つの手事部分を挿み、2つは歌詞の背景に使われた「伊勢神楽」が導入部の音型から、手事に使われた「巣籠地」が年み出される。これらと別の見方をすると、楽式はロンドソナタ形式に近いが、主題の展開法は手事物の伝統的手法である。一方、「神楽」そのものの構成法は組曲風の配置である。今回の二重奏曲はこれらの考え方を総合した新しい形とし、伝統的な話法が現代の耳にも受け入れられるような工夫を加えて曲が展開するように心がけた。原曲は中能島欣一帥に教わった。』
6.安生 慶・メゾソプラノ・チェロ・ピアノのための枯野」

 安生は1935年東京に生まれ、成城学園より桐朋学陶音楽科に進み、管楽器を専攻。卒業後、作曲を棚瀬正氏に師事。日本現代音楽協会全員。
 主要作品には「風影一二胡とオーケストラのために、ViolinとPianoのための挽歌」、「彩画-ViolaとPianoのための幻想曲」、「弦楽四重奏曲」、「8Violaのための詩曲」、「彼方からの風景-Harpのために」、「CelloとPianoのために(♯2)」、「ピアノのための諾詩曲」、M・Sqo.Pfのための「枯野」このほか歌曲「黄泉のくに歌」(詩・花輪莞爾〉、および「酒呑童子」(詩・花輪莞爾)、などがある。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
 『古事記の「枯野」は、古くからある巨樹伝説の一つを歌ったもの。
 大樹が切られて船に生まれ変り、長く重用された後、朽ちて塩を採るために焼かれ、その焼け残りで琴が作られ再び転生する。一つの生命が育ち、やがて減ろび、姿を改ためてまた新らしい生命を持つという、宇宙の循環のようなものをそこに感じる。
 「塩に焼く」のは、生命の母体である海の精を抽出するようで、長く功のあったこの船への、惜別の念をこめた丁重な儀式でもあろうか。そこで焼け残った木で作られた琴の奏でる音色は、遠く海の底迄しみ渡って行き、海中の藻の葉もこれに応じて揺れ動くさまを想いたい。曲は、声、チェロ、ピアノによる三重奏の形をとり、前半は古事記の前書きの部分(一部省略)を用いてや、叙述風に、後半は「枯野」の詞で、声と二つの楽器が互いに織りなしながら、様々な空間を揺れ進んで行けるように、と思って書いている。』
7.藤田 耕平・「海の歌」

 藤田は1945年横浜で生まれ、1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。
 彼は音の積重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し、個性的な作品を書いている。
ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴイオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1、2位なしの3位に入賞している。「黙示」は1985年2月サンフランシスコでの現代音楽週間で演奏されると共に、NHK・FMより放送された。また、オーボエ・オンドマルトノ・弦楽合奏のための「時は、雨のように・‥…」が、1996年春にNHK・FMより放送された。

 作曲者は今回の曲について次のように述べている。
 「この曲は、一部は昨年夏に書き上げ、今夜と同じ奏者によって演奏されている。今回は、未完の部分を補って全曲を完成した。海原にゆれる小さなヨットと、それを取り巻く海の情景を構想して作曲した。」

田村 一郎