プレゼンテーションそのⅨ(9) 現代の作品


1978年1月19日(木)
第一生命ホール
主催:音楽文化協議会




プ ロ グ ラ ム
1.ソプローニ・ユーセフ
      ハンガリー参加作品 <ピアノのためのノート・ページス>
ピアノ 中野 洋子
2.ナトコ・デフチッチ
      ユーゴ参加作品 <ヴィオラとピアノのためのミクロ・チューン>
ヴィオラ 中塚 良昭
ピアノ 久保 春代
3.藤田 耕平
      <オーボエとピアノのためのインプロビゼーション“雅歌”>
オーボエ 原田 知篤
ピアノ 窪田 隆
4.山岸 磨夫
      <ヴィオラとピアノのための“変容”>
ヴィオラ 中塚 良昭
ピアノ 久保 春代
5.松葉 良
      <フルートとオーボエのための作品>
フルート 峰岸 壮一
オーボエ 原田 知篤
6.塚谷 晃弘
      <ピアノのための二つの作品 No.1,No.2>
ピアノ 中野 洋子
7.石井 五郎
      <やさしい歌> 堀口大学「海水浴」,「カラヴァン」,
            尾形亀之助「払の愛している少女は」による
歌 萩野 昭三
ピアノ 古村 義
――全曲初演――

曲目解説   田村 進
1.ソプローニ・ユーセフ;ピアノのためのノート・ページス

 ソプローニ(ハンガリーでは日本と同様,姓を先に書く)は1930年生まれのハンガリーの作曲家で,J.ゲィシュキに学び,現在ブダペストの音楽アカデミーで作曲を教えている。
 彼はポザイ,ドゥルコー,ラーング,ラースローなどと並ぶハンガリーの代表的な中竪作曲家で,管弦楽曲「エクリプセ」,チェロ協奏曲,弦楽四重奉曲,フルートとピアノのためのソナタなど多くの器楽曲を書き,内外から注目されている。彼は当初,ポリフォニックで複雑な手法を用いていたが,次第にセリエルの手法もとり入れて新しい独自の世界を求めている。

 この曲は1975年に書かれ翌年出版された。ノート・ページス,つまり雑記帳とでも言えるような題名で,これは第2集目に当る。30秒にも満たない短い曲を含めて全体は23曲からなっているが,もちろん単なるメモの寄せ集めではない。ピアノによる表現の可能性と彼の音世界を凝縮した形で求めた密度の濃い作品で,演奉にも高度の技巧と集中力が要求されている。
2.ナトコ・デフチッチ;ヴィオラとピアノのためのミクロ・チューン

 デフチソテは1914年生まれのユーゴスラヴィアの作曲家で,ザグレブ音楽アカデミーのピアノ科を卒業後,作曲も学んだ。現在,作曲家及び同校の教授として活躍している。ユーゴでは西欧の新技法と結びついた前衛的作曲家,例えばサカッチ,デトーニ,ケレメンなどが主流を占めているが,他方伝統的な手法に基づいて現代的感覚を求めている作曲家も多く,その指導的位置を占めている人がデフチッチである。彼は特に室山楽やピアノ曲のような小曲で繊細な味を出している。

 この曲は微妙な音の変化をヴィオラに求めたもので,1971年に書かれている。全体は次の4つの部分からなり,短い曲ではあるが,彼の鋭い感覚をみなぎらせた作品である。
1. チューン・アップTUNE UP;
通常の調絃ハートーニーイをロー嬰ヘ-ハ一変ロと変則的に調弦し,ヴィオラだけで奏される。
2. チューン・イン TUNEIN;
通常の調乾となり,後半は弦を軽くおさえたピアニシモで奏される。
3. チューンフルTUNEFUL;
音域を十分にとり,強弱,拍子,テンポに変化をもたせ,ピチカートやグリサンドもまじえて奏される。
4. アウト・オブ・チューンOUT OF TUNE;
開放弦の音をピチカートで示したあと,第3・4弦の音を半音あげて奉するが,しだいに音を微妙に変化させフラジョレットの持味を追求していく。

5.藤田耕平;オーボエとピアノのためのインプロビゼーション“雅歌”

 藤田は1945年横浜で生まれ,1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には「ギター,クラリネット,ピアノのための秋の歌」,「フルート,ブィオラ,ギターのための音楽第2番」,「弦楽四重奏曲」,「二つのフルートのための秋」,舞踊付帯音楽「祈り」,「かんたん」,ヴァイオリンとピアノのために書いた「インプロヴィゼーション」と「庭」などがある。

 彼は音の積み重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し,個性的な作品を書いているが,この曲は曲想の点で昨年発表した「庭」に続くもので,作曲者は次のように述べている。

 「“庭”は静的なたたずまいであったが,これをディナミックな面でより強調させることを今回の曲では心がけています。原田さんのオーボエは最近心なしか音が太くなり,初期のあの天駆けるような清澄さからだんだんと,地に降り来たって,リアルなものになりつつあるように思います。この作品は2つの郡分から成っています。」
4.山岸磨夫;ヴィオラとピアノのための“変容”

 山岸は1933中東京で生まれ,1957年東京芸術大学作曲料を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽郁門で入賞している。主要作品こは交響曲「えんぶり」,交響的変容「かるら」,オペラ「ゆや」,交声曲「夕鴫」,「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」,「フルート,ヴァイオリン,ギターのトリオ」,「ギターとフルートのための2つの律と気」(昭和50年度武井賞受賞),「フルート四重奏曲」,「ピアノトリオのための“乱”」のほか,合唱曲「神楽歌」,混声合唱のための浄瑠璃「胸割」など多くの合唱曲がある。このように彼は日本の題材にイメージを求め,平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いている。

 この曲について作曲者は,「曲は3つの部分から成る。1は序の音楽とし,ゆるやかなテンポの中で,ピアノと ヴィオラの対話風。2はピアノとヴィオラがかみあいながら,テンポ,デュナーミグも常に変っていく。3はゆっくりしたテンポの中で,ピアノとヴィオラの細かい音色の変転と間の増減を主にしたもの」と述べている。
5.松葉 良;フルートとオーボエのための作品

 松葉は1919年東京で生まれ,1940年青山学院大学卒業後,日大芸術科で学び,作曲を池内友次郎と貴島清彦に師事した。立軌会々貝として画壇においても活躍し,詩情に富む色彩豊かな作品を向いている。彼はヨーロッパの古典的伝統に根をおろしながらも,大胆に現代的な技法をとり入れて,独特の風格をもつ抒情性豊かな音楽的表現をつくりだしている。主要作品には弦楽のための「詩曲」,「主題と変容」,交響詩曲「心象風景」,「ピアノのための古典組曲」,「オーボエのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとヴィオラのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとチェロのための“コンポジション”」のほか劇音楽,バレエ,映画音楽などがある。

 彼はこれまで現代的感覚をもつ“響き”をどううちだし,どう発展させていくかという課題に取組み,1974年の「オーボエとクラリネットのための作品」ではセリエルの手法を使ってそれを追求した。1976年1月に発表した「無伴奏ヴァイオリンのための古典的パルティータ」では古典的手法で弦楽器にそれを求めたのだが,今回のこの曲では1974年のイデーを更に発展させて新しい音世界を求めている。

 作曲者はこの曲について,「セリエルの手法を使ってはいるが,出来る限り歌わせることを主体にして書いた。音自体も,セリエルとはいえ,鋭角的でないマイルドな音を使っている。最初に2つの楽器がそれぞれソロであらわれ,最後に二重奏の形をとっているが,全体としてこの曲はメタモルフォーゼである」と述べている。
6.塚谷晃弘;ピアノのための二つの作品No.1,No.2

 塚谷は1919年東京に生まれ,1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが,戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し,それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。交響組曲「祭曲」が1950年NHK佳作賞,またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及び個人)を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」,バレエ曲「現代の神話」,「弦楽と打楽器のための組曲」,「フルート・ソロのための4つの小品」,「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」のほか能に基く室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され,2,3の作品がしばしば演奏され,先年,「金管のための音楽」(1971)はルーマニアでも演奏された。

 この曲について作曲者は「No.1は雅楽を基調とし,とくにひちりきの音をとり入れた幻想曲風のものです。No.2は浦上玉堂の琴譜<伊勢の海>にヒントを得たもので,きわめて自由に展開されていますが,東洋的な間を重んじた曲です」と述べている。
 こういう曲想による同名の曲は1951年にも書かれているが,今回の曲はこれを改訂して新たに中野洋子のために書かれたものである。
7.石井五郎;やさしい歌 堀口大学「海水浴」,尾形亀之助「私の愛している少女は」その他による

 石井は1903年秋田に生まれ,山田耕筰や成田為三に作曲を学び,昭和4年頃から作品を発表している。昭和5年,日本で最初の作曲家連盟が15人で結成されたとき,彼はその1人として名を連らねた。昭和14年の毎日コンクールでは彼の「田園舞曲」が第2位,15年には「交響的序曲」が第1位に入選し,その後彼の作品は多くの注目をあびた。作品には管弦楽や室内楽などがあるが,とくに声楽曲では日本語の持味を生かした詩をとりあげ,鋭い表現をもつ独自の作品を書いている。最近作には「弟英六との告別」,「中原中也“サーカス’’口上,歌,クラリネット,打楽器のために」などがある。

 今回の曲は,「やさしい歌」と題され,心優しい柔和な抒情的表現を追求したものである。作曲者は簡素な歌のなかに,従来の作品とはちがった何か新しいものをひきだしたい」と述べている。

田村 一郎