プレゼンテーションそのⅩⅨ(19回)現代の作品


1989年1月11日(水)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会





プ ロ グ ラ ム
1.ヴィトルド・ルトスワフスキ・ザッヘル変奏曲
チェロ・田中雅弘
2.クシシュトフ・メイエル・ ペッツオ・カデリッチオーソ
オーボエ・原田知篤
ピアノ・中野洋子
3.寺内園生・ダフネ
ハープ・木村莱莉
フルート・白尾 彰
4.塚谷晃弘・オーボエ・ソロのための2作品
                         1)ペルシャ陶器によせて
                         2)鶴の巣籠り
オーボエ・原田知篤
5.伊藤隆太・Duetto No.2 Alla yoshizawa
尺八・横山勝也
十七琴・菊地悌子
6.藤田耕平・二奏者のための「螺旋Ⅰ」
オーボエ・原田知篤
オンド・マルトノ・原田 節
7.山岸磨夫・フルート・ギター・チェロのための――かなえⅡ――
フルート・大澤明子
ギター・芳志戸幹雄
チェロ・田中雅弘

曲目解説    田村 進(東京音楽大学教授)
1.ヴィトルド・ルトスワフスキ:ザッヘル変奏曲

 ルトスワフスキ(1913~)は20世紀後半を代表する作曲家の一人で、ポーランドのワルシャワで生まれ、ワルシャワ音楽院でピアノと作曲を学んだ。
 欧米各国の大学や講習会でも教鞭をとるなど、教師、指揮者としても活動している。最近作には管弦楽「ミ・パルティ」(1976)、「ノヴェレッテ」〈1979〉、第三交響曲(1983〉、ピアノ協奏曲〈1988〉などがある。
 この曲は、スイスのバーゼル市の音楽アカデミーの指導者として活動してきたパウル・ザッへルP.Sacherに捧げられ、その生誕70年を祝って1975年に作曲された。

 曲は、この名前に関連したドイツ音名、つまりSは変ホ音、ACHEはイ・ハ・ロ・ホ音、Rはイタリア音名のレ、つまりニ音を使っている。最初にSの変ホ音がffで奏された後にすぐppでゆれ動くような音型がつづき、次いでffでACが奏きれてこれもppの音型に受けつがれ、更にHERがffで現われてくる。このようにSACHERの音による変奏曲ふうの作品である。
 初演は1976年5月スイスでロストロポーヴィッチのチェロで行われた。演奏時間は約5分ていど。
2.クシシュトフ・メイエル:ペッツオ・カプリッチオーソ

 メイエルKrzysztof Meyer(1943~)はポーランドのクラクフに生まれ、クラクフ音楽院で作曲をペンデレツキなどに学んだ。その後パリでも学び、ピアニストとしても活動し、現在、作曲家同盟議長として作曲界で中心的な役割を果している。作品には多くの交響曲、協奏曲、室内楽がある。

 この曲は1982年に作曲され、オーボエ奏者のハインツ・ホリガーに捧げられた。曲は、何か12音技法を思わせるようなカンタービレの旋律で始まり、オーボエとピアノが語るように進められる。時にはこの両者の旋律が模倣ふうに展開されるなど、まさに題名どおり、自由で気ままに書かれている。
3.寺内 園生:デフネ

 ピアノを中野洋子と伊達純に、作曲と和声を寺内昭、川井学に学ぶ。
 寺内は1959年千葉に生れ、高校卒業後渡独し、マリア・フンク女史に作曲法を学んだ。代表作には、既出版のピアノ曲集「水の城・イリュージョン」「めざめ・静かな風」「斑鳩」のほか、子供の為のピアノ小曲集として、「メルヘンの国」「小さな夢」「遊園地・宇宙船」〈音楽之友社出版)「ピアノでひこうグリムのお話」「ピアノでひこうイソップのお話」(東京音楽社出版)などデリケートな感覚と想像力豊かな抒情的作品がある。
日本作曲家協議会会員及び音楽文化協議会会員。

 作曲者はこの曲について次のようにのべている。
 私の持つタフネのイメージのなかに、ベルニーニの「アポロとデフネ」の像がありました。アポロの熱い想いを受け入れることなく、わが身を月桂樹に変えてしまったというデフネの像は、私には、なぜか厳しさよりも先に女性の抱擁力が感じられました。曲の中に、その様な「優しさ」を感じとっていただけたら幸です。
4.塚谷晃弘:オーボエ・ソロのための2作品
          1)ペルシャ陶器によせて
          2〉鶴の巣籠り

 塚谷は1919年東京に生まれ、1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが、戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し、それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及個人〉を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」、バレエ曲「現代の神話」、「弦楽と打楽器のための組曲」、「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」、「コントラバスのための三章」(1981年8月〉のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され、2、3の作品がしばしば演奏されている。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
 第1曲“ペルシャの壷によせて”は、1968年6月の作曲。エキゾティックなミナイ手の壷に魅せられた結果の作。
 第2曲“鶴の巣籠”は、有名な尺八の古曲(横山勝也氏の演奏を参考)だが、オーボエでこの雰囲気をつくりだそうとして苦心した作。第1曲についで、68年に作曲。
5.伊藤隆太:Duetto No.2 Alla yoshizawa

 伊藤は1922年、広島県呉市に生れた。東京大学医学部を卒業したが、作曲を池内友次郎、諸井三郎、高田三郎に学んだ。1950年(昭和25年)第19回目本音楽コンクール管弦楽作曲部門で第1位となったのち、琴曲の分析を開始し、やがて邦楽器を用いた作品も書くようになった。このプレゼンテーションにも会員として第4回まで歌曲を発表してたが、今回は久しぶりの登場である。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
 吉沢風とは――「千鳥の曲」に始まって「古今組」を展開していった思考と作曲技法開拓の道程に魅かれてきた。
 現代の眼からも押しひろげる余地もあることが分ってきた。昨年のLento e allegro(Duetto No.1としたい)で学んだ十七絃とA管尺八の改良による表現力増大にも魅かれる。提示(序と前歌)・手事Ⅰ(Allegro〉・中歌・手事Ⅱ(Allegro)・結尾(後歌)で提示に出現した三つの主題が異った手法で展開する。
6.藤田耕平:二奏者のための螺旋Ⅰ

 藤田は1945年横浜で生まれ、1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には、2台のピアノのための「八百屋お七の舞台への音楽」、七奏者のための「黙示」、管弦楽のための「星の刻」などがある。
 彼は音の積み重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し、個性的な作品を書いている。
 ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴイオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1、2位なしの3位に入賞している。「黙示」は1985年2月サンフランシスコでの現代音楽週間で演奏されると共に、NHK・FMより放送された。

 作曲者は今回の曲について、次のように述べている。
 この作品は、昨年の「ピアノのための“螺旋Ⅱ”(海へ)」と対になる曲で、“螺旋シリーズ”の1部にもなる曲です。今まで続けてきた創作の姿勢に「生命の拡がり」といったことがつけ加えられないかとも思い、シリーズのタイトルとしました。
7.山岸磨夫:フルート・ギター・チェロのための――かなえⅡ――

 山岸は1933年東京で生まれ、1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交声曲「夕鴨」、「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」、「フルートとギターのための気と律」(昭和50年度武井賞受賞)、「弦楽四重奏曲I」、「Ⅱ」、「ピアノトリオのための“乱”」、「ヴイオラとピアノのための変容I」、「変容Ⅱ」のほか、合唱曲「白鳥帰行」、オペラ「温羅の砦」、「美作民謡による交響曲」、「交響曲美作Ⅱ」「管弦楽のための変容」などを書き上演されている。彼は日本の題材にイメージを求め、平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行なっている。現在、作陽音楽大学教授。

 彼はこの曲にいて、次のように述べている。
 かなえは、金属製の三足の容器のことであるが、古代の中国王朝、夏の禹王が九枚の銅を集めて作った銅器を宝とし、王位の象徴としてつかわれたという。この曲はその言葉からくるイメージによった。

田村 一郎