プレゼンテーションそのⅩⅤ(15回)現代の作品


1984年1月17日(火)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会





プ ロ グ ラ ム
1. W.ルトスワフスキ  <オーボエとピアノのためのエビターフ>
オーボエ・原田知篤
ピアノ・中野洋子
2. T.シコルスキ  <フルートとピアノのためのモノデイアとセクエンツア>
フルート・大竹春夫
ピアノ・中野洋子
3.石井 五郎  独白(フトリシャベゴト), 情話(イロバナシ), 煙草(エッブグ
バリトン・友竹正則
ピアノ・平尾はるな
4.山岸磨夫  <フルート,チェロ,ピアノのために>
フルート・西畑正三
チェロ・花崎 薫
ピアノ・上岡敏之
5.藤田耕平   <草木図>
フルート・大竹泰夫・大森義和
ギター・芳志戸幹雄
ヴイブラフォン・永曽重光
ヴイオラ・東  義直
6.石井基斐  <NOSTALGIE,2つの声と友竹辰の詩による>
ソプラノ・滝沢三重子
バリトン・友竹正則
7.塚谷晃弘 <コントラバスとピアノのための二章>
              第1章 〈大鳥譜) 第2章(春鶯囀)
コントラバス・永島義男
ピアノ・中野洋子
8.松葉 良 <弦楽トリオのためのメタモルフオーゼ>
ヴァイオリン・梅津南実子
ヴイオラ・中塚良昭
チェロ・松下修也

曲目解説  田村 進
1.ヴィトルト・ルトスワフスキ;オーボエとピアノのためのエビターフ

 ルトスワフスキWitold Lutosねwski(1913~ ) は20世紀後半を代表する作曲家の一人で,ワルシャワで生まれ,ワルシャワ音楽院でピアノと作曲を学んだ。欧米各国の大学や講習会でも教鞭をとるなど,教師,指揮者としても多面的に活動している。最近作には管弦楽「ミ・パルティ」〈1976〉,「ノヴェレッテ」〈1979〉,オーボエとハープと管弦楽のための「二重協奏曲」(1980)がある。

 この曲は1979年に作曲され,1980年1月3日,スコットランドの作曲家アラン・リチャードソンAlan Richardson(1904~1978)を記念したロンドンのコンサートで夫人のオーボエ奏者ジャネット・タラクストンによって初演された。単一楽章の作品で演奏時間は約5分。
2.トマシ・シコルスキ;フルートとピアノのためのモノディアとセクエンツァ

 シコルスキTomasz Sikorski(1939~ )は現代ポーランドの中堅作曲家の一人で,ワルシャワで生まれ,ワルシャワ音楽院で父のカジミエシ・シコルスキに作曲をジェヴィエツキにピアノを学んだ。その後パリやアメリカでも学び,ニューヨークで電子音楽の作品を発表した。
最近作にはピアノ曲「アウトグラフAutograf」(1980)や「ユーフォニアEufonia」(1982)や管弦楽「オートポートレトAutoportret」(1983)があり,音色の変化を求めたユニークな作品を書いている。

 この曲は1966年に作曲され,1972年11月西ドイツのブラウンシュペイクで初演された。点描ふうの簡素な作品で,モノデイアはフルートだけ,セクエンツァはピアノだけで演奏される。前者の演奏時間は2分から3分の間,後者は1分から1分30秒の間と指示されており,テンポは演奏者の選択に任せられている。
3.石井五郎;独白,情話,煙草

 石井五郎は1903年秋田に生まれ1978年に他界した。舞踊家の故石井漠は実兄,作曲家の石井歓と石井真木は彼の甥,石井基斐は彼の子供というように,その一族には芸術家が多い。

 彼は東京の大成中学卒業後.山田耕作や成田為三に作曲を学び,昭和4年頃から作品を発表した。昭和5年,日本で最初の作曲家連盟が15人で結成されたとき,彼はその1人として名を連らねた。昭和13年パリに留学して作曲を学び,昭和14年の毎日コンクールでは彼の「田園舞曲」が第2位,15年には「交響的序曲」が第1位に入選した。その後彼の作品は多くの注目をあぴた。作品には管弦楽や室内楽などがあるが,とくに声楽曲では日本語の持味を生かした詩をとりあげ,鋭い表現をもつ独自の作品を残した。

 特に戦後は,彼にとって,日本語のもつ躍動的な生命力と美しさを生かした歌曲を書きたい,書かねばならない,そういう意欲に燃えた日々であったと言ってよい。晩年の代表作には「草野心平の詩による蛙の歌」(1971),「津軽の方言詩による三曲」(1973),「弟英六との告別」(1974),「三つの歌曲」(1976),「サーカス」(1976)などがある。

 彼は音楽文化協議会の設立にも中心的役割を果した一人であった。したがって,この「プレゼンテーション」では,彼の作品を未発表あるいは既発表であるとを問わず,今後引続きとりあげる予定である。
 今回は3曲とりあげた。「独白」は1973年,「煙草(エ・ツプグ)」(一戸謙三詩)は1980年に初演された。「情話」は遺作で今回が初演,作曲年は不明である。
4.山岸磨夫;フルート,チェロ,ピアノのために

 山岸は1933年東京で生まれ,1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入貧している。主要作品には交声曲「夕鴨」,「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」,「フルート,ヴァイオリン,ギターのトリオ」,「フルートとギターのための気と律」(昭和50年度武井賞受賞),「弦楽四重奏曲Ⅰ」.Ⅱ」,「ピアノトリオのための"乱"」,「ヴィオラとピアノのための変容Ⅰ」,「変容Ⅱ」のほか,合唱曲「白鳥帰行」,オペラ「温羅の砦」,「美作民謡による交響曲」,「管弦楽のための変容」などを書き上演されている。彼は日本の題材にイメージを求め,平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行なっている。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
「フルートを含むトリオは,前から書きたかったものの
一つであり,今回思いきって書いてみた。私の気持のな
 かでは,アルカイックな音楽をと思って近づきたかった
 のだが‥‥‥」
5.藤田耕平;草木図

 藤田は1945年横浜で生まれ,1970年東京芸術大学作曲
科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主
要作品には「二つのフルートのための秋」,2台のピア
ノのための「八百屋お七の舞台への音楽」,七奏者のた
めの「黙示」などがある。
 彼は音の積み重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に
微妙な音色の変化を追求し,個性的な作品を書いている。
ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴイオッ
ティ国際音楽コンクール作曲部門で1,2位なしの3位
に入賞している。

 作曲者は今回の曲について「草木の織りなす様々な響きを聴きとること」と述べている。
6.石井基斐;NOSTALGIE,2つの声と友竹辰の詩による

この曲は1974年に,この念のために同じ奏者により初演されたものを,今回新たに改作した。
7.塚谷晃弘;コントラバスとピアノのための二章(第一章・大烏譜 第二章・春鶯囀)

 塚谷は1919年東京に生まれ,1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが,戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し,それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。交響組曲「祭典」が1950年NHK佳作賞,またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及び個人) を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」,バレエ曲「現代の神話」,「弦楽と打楽器のための組曲」,「フルート・ソロのための4つの小品」,「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」,「コントラバスのための三章」(1981年8月,イギリスのマン島における国際コントラバス大会で演奏され好評だった)のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され,2,3の作品がしばしば演奏されている。

 この曲について作曲者は次のように述べている。
「この曲は1983年の夏に作曲した。第一章,副題大鳥譜(おおどりの子)は,古代の風俗譜の曲名だが,直接の関係はか-。この曲名から私なりの音楽的イメージを得て2つの楽器に託したわけである。たとえば大烏のはばたく前の姿,あまかけようとする姿勢,大樹にいこい,はばたく勢などを思い浮べる人もあろうし,またそのことも自由なのだが,なんらの描写的意味はない。
 第二章,春鶯囀は古典の琴曲の名前から得たもので,やはりひとつのヒントで描写ではない。前章とは心よい対照をもたせた。コントラバスとピアノは,それぞれ自由にひらめき,ピアノは“伴奏”の役割をもつものでも決してない」
8.松葉 良;弦楽トリオのためのメタモルフォーゼ

 松葉は1919年東京で生まれ,1940年青山学院大学卒業後,日大芸術科で学び,作曲を池内友次郎と貴島清彦に師事した。立軌会々員として画壇においても活躍し,詩情に富む色彩豊かな作品は広く注目されている。彼はヨーロッパの古典的伝統に根をおろしながらも,大胆に現代的な技法をとり入れて,独特の風格をもつ抒情性豊かな音楽的表現をつくりだしている。主要作品には弦楽のための「詩曲」,「主題と変容」,交響詩曲「心象風景」,交響詩曲「祈りの叫び」(NHK委嘱),「弦三重奏曲」,「オーボエのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとヴイオラのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとチェロのための“コンポジション”」,「無伴奉チェロのための作品第1番」のほか劇音楽,バレエ,映画音楽などがある。

 作曲者はこの曲について,「ヴァイオリンソロに始まり,ヴァイオリンとヴイオラ,ヴァイオリンとチェロ,弦楽トリオに有機的に発展します。主題は内省的なセリーを用い,メタモルフォーゼしながら弦楽器の持つ可能性を追求しました」と述べている。

田村 一郎