プレゼンテーションそのⅩⅦ(17回)現代の作品


1986年7月2日(水)
草月会館ホール
主催:音楽文化協議会







プ ロ グ ラ ム
1.J.ソブローニ・ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番(ハンガリー出品)
ヴァイオリン・西川玲子
ピアノ・為本典子
2.寺内 園生・ピアノのためのアラベスク
ピアノ・志村 泉
3.塚谷晃弘・コントラバス・ソナタ(全1楽章)
コントラバス・永島義男
ピアノ・菊池百合子
4.松葉  良・オンドマルトノ,フルート,オーボエ,バスーンのためのコンポジション
オンドマルトノ・原田 節
フルート・大竹泰夫
オーボエ・原田知篤
バスーン・加藤洋男
5.山岸磨夫・ヴァイオリン,チェロ,ピアノのためのトリオ――Ⅲ
ピアノ・庄司真生子
ヴァイオリン・庄司真澄
チェロ・宇野哲之
6.石井基斐・耳に貝をあてると海の音
バリトンレジェ・村田健司
ピアノ・白石 准
打楽器・漆畑仁子
7.藤田耕平・時は,雨のように・・・
オンドマルトノ・原田 節
オーボエ・原田知蔦
弦楽合奏・横浜合奏団
指 揮・清水 肇
 
曲目解説  田村 進
1.ソブローニ・ユーセフ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番

 ソプローニSoproni Jozsef(ハンガリーでは日本と同様,姓を先に書く)は1930年生まれのハンガリーの作曲家で,J.ヴィシュキに学び,現在ブダペストの音楽アカデミーで作曲を教えている。
 彼はポザイ,ドウルコー,ラーング,ラースローなどと並ぶハンガリーの代表的な中堅作曲家で,管弦楽曲「エクリプセ」,チェロ協奏曲,弦楽四重奏曲,フルートとピアノのためのソナタなど多くの器楽曲を書き,内外から注目されている。彼は当初,ポリフォニックで複雑な手法を用いていたが,次第にセリエルの手法もとり入れて新しい独自の世界を求めている。
 この曲は1979年に書かれ,1983年に出版された。このソナタは全体として動きも速く,高度の技巧を必要とする難曲だが,現代的な溌刺とした作品である。曲は4つの部分からなっている。

Ⅰ. ヴィヴァーチェ ヴァイオリンのハーモニックスと刻みこむような上行音で曲が始まる。
Ⅱ. ヴィヴァーチェ 12音ふうのヴァイオリンのソロで始まり,ピアノはこれをトリルで色どり,次いでポリフォニックに綾織りなしていく。
Ⅲ. アダージョ 点描ふうなヴァイオリンのソロで始まる。やがてレント・マ・ノン・トロッポとなり,ピアノが空虚5度の和音(イとホ音〉 を淡々と弾きつづけていく。
Ⅳ. アレグロ・ヴィヴァーチェ トリルを伴うヴァイオリンの速い動きにピアノも多彩に生き生きとポリフォニックに展開される。

2.寺内 園生:ピアノのためのアラベスク

 ピアノを中野洋子と伊達純に,作曲と和声を寺内昭,川井学に学ぶ。
 寺内は1959年千葉に生れ,高校卒業後渡独し,マリア・フンタ女史に作曲法を学んだ。代表作には,既出版のピアノ曲集「永の城・イリュージョン」「めざめ・静かな風」「斑鳩」のほか,子供の為のピアノ小曲集として,「メルヘンの国」「小さな夢」「遊園地・宇宙船」(音楽之友社出版)などデリケートな感覚と想像力豊かな抒情的作品がある。日本作曲家協議会会員,なお,本年から音楽文化協議会会員となる。

 作曲者はこの曲について次のようにのべている。
「アラビアの唐草模様に似た心の紋を,美しいままに,それを越えたものに昇華させたく思いました。曲は3つの章から成っています。
3.塚谷晃弘:コントラバス・ソナタ(全1楽章)

 塚谷は1919年東京に生まれ,1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが,戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し,それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。交響組曲「祭典」が1950年NHK佳作貧,またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞〈団体及個人)を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」,バレエ曲「現代の神話」,「弦楽と打楽器のための組曲」,「フルート・ソロのための4つの小品」,「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」,「コントラバスのための三章」(1981年8月,イギリスのマン島における国際コントラバス大会で永島氏により演奏され好評だった。また今秋ウィーンで発表される予定である。)のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され,2,3の作品がしばしば演奏されている。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
「古典的なソナタ形式を改めて意識しながら,自由にくみたててみました。各楽器がそれぞれの特色を以て活動できる形にしました。主題提示部の前に,躍動的なイントロをおき,第一主題はバスで,第二主題は主としてピアノがうけもちますが,いづれも雅楽的な音型を意識したものです。展開部は長く,きわめて自由。再現部はごく短くコーダとタブリます。,85年暮から,86年春にかけての作。
4.松葉 良:オンドマルトノ,フルート,オーボエ,バスーンのためのコンポジション

松葉は1919年東京で生まれ,1940年青山学院大学卒業後,日大芸術科で学び,作曲を池内友次郎と貴島清彦に師事した。立軌会々員として画壇においても活躍し,詩情に富む色彩豊かな作品は広く注目されている。彼はヨーロッパの古典的伝統に根をおろしながらも,大胆に現代的な技法をとり入れて,独特の風格をもつ抒情性豊かな音楽的表現をつくりだしている。主要作品には弦楽のための「詩曲」,「主題と変容」,交響詩曲「心象風景」,交響詩曲「祈りの叫び」(NHK委嘱),「弦三重奏曲」,「オーボエのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとヴイオラのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとチェロのための“コンポジション”」,「無伴奏チェロのための作品「第1番」のほか劇音楽,バレエ,映画音楽などがある。

 作曲者はこの曲について,次のようにのべている。
「このオンド・マルトノ,フルート,オーボエ,バスーンのためのコンポジションは一つのセリーとその変形を用い作曲されているが,オンド・マルトノと管楽器による音色を追求した一つのメタモルフオーゼである。
5.山岸磨夫:ヴァイオリン,チェロ,ピアノのためのトリオ―Ⅲ―

 山岸は1933年東京で生まれ,1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交声曲「夕鴨」,「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」,「フルートとギターのための気と律」〈昭和50年度武井賞受賞),「弦楽四重奏曲I」,「Ⅱ」,「ピアノトリオのための“乱”」,「ヴイオラとピアノのための変容Ⅰ」,「変容Ⅱ」のほか,合唱曲「白鳥帰行」,オペラ「温羅の砦」,「美作民謡による交響曲」,「管弦楽のための変容」などを書き上演されている。彼は日本の題材にイメージを求め,平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行なっている。

 彼はこの曲について,次のように述べている。
「昨年ピアノトリオ―Ⅱ―を発表したばかりで,又,ピアノトリオを書きたいというのは,余りひらめかなく,気もとがめることであるが,書き残したこと,書ききれなかったことを,もう一度思い返して,新しい衝動にかられて書いてみた。曲は,ゆっくりした二つの部分から成る。
6.石井基斐:耳に貝をあてると海の音

 石井は作曲を江崎健次郎に学んだ。現音会員でもある。主要作品には「金管三重奏曲」,ヴォカリーゼ「嚆ぶ」,「NOSTALGIE」などがある。この曲について

 作曲者は,次のように述べている。
 「子供の詩によるこの曲の表題を通して私の内にある響きを音にしてみました。
7.藤田耕平:時は,雨のように・・・

 藤田は1945年横浜で生まれ,1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には,2台のピアノのための「八百屋お七の舞台への音楽」,七奏者のための「黙示」,小管弦楽のための「星の刻」などがある。
 彼は音の積み重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し,個性的な作品を書いている。ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴイオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1,2位なしの3位に入賞している。「黙示」は昨年2月サンフランシスコでの現代音楽週間で演奏されると共に,NHK・FMより放送された。また「八百屋お七…」は来年5月,西ドイツで演奏される予定である。

 作曲者は今回の曲について,次のように述べている。
「雨はそれ自体の時を持ちながら,同時に時の持つ意味を無にしてしまう。そんな雨と,時のかかわり合いを肌に感じながら・・・。」

田村 一郎