プレゼンテーションそのⅦ(7回)現代の作品


1976年1月14日(水)
第一生命ホール
主催:音楽文化協議会





プ ロ グ ラ ム
1. カルマール・ラースロー
       ハンガリー参加作品 <ピアノのための四つのカノン>
ピアノ 中野 洋子
2.ゼノ・プァンチェア
       ルーマニア参加作品 <弦楽四重奏曲第五番>
ヴァイオリン 池田 敏美
ヴァイオリン 宮林 優子
ヴィオラ 赤堀 文雄
チェロ 小瀬川 禎彦
(新星日本弦楽四重奏団)
3.藤田 耕平   <二つのフルートのための秋>
フルート 三浦 由美
フルート 大竹 泰夫
4.石井 基斐  <オーボエとシンセサイザーのためのEtc.‥‥‥>
オーボエ 原田 知篤
オペレーター 原田 節
――< 休  憩 >――
5.松葉 良  <無伴奉プァイオリンのための古典的パルティータ>
ヴァイオリン 鳩山 寛
6.塚谷 晃弘  <オーボエのための二つのエスキース>
オーボエ 原田 知篤
7.山岸 磨夫  <フルート四重奉曲>
フルート 湯川 和雄
ヴァイオリン 平尾 真伸
ヴィオラ 梯 孝則
チエロ 小瀬川 禎彦
8.石井 五郎   <三つの歌曲>
メヅォソプラノ 滝沢 三重子
フルート 青木 明
ピアノ 中村 洋子
全曲初演

曲目解説  田村 一郎
1.カルマール・ラースロー;ピアノのための四つのカノン

 カルマール(ハンガリーでは日本と同様,姓を先に書く)は1931年生まれのハンガリーの作曲家で,フルート・ソナタ,オルガンのための二つのフーガ,最近では三つのピアノ小品など主として小曲を手がけ,伝統的形式を使って繊細できめの細かい表現をもつ作品を書いている。

 この曲は1968年に出版された。曲は1.プレリュード,2.スケルツァンド,3.ラールゴ,4.ジーグに分かれている。
2.ゼノ・ヴァンチェア;弦楽四重奏曲第五番

 ヴアンチェア Zeno Van-Ceaは1900年生まれの現代ルーマニアの代表的作曲家である。クルージュとウィーンで学び,戦後はブカレスト音楽院で音楽史と理論の教授,雑誌「ムジカ」の主幹,作曲家同盟副議長をつとめ,音楽学の著書や論文も多い。代表的な作品にはバレエ<プリクリチウ>(1933),オペラ<エディプ王>(1943),管弦楽<バナト狂詩曲>(1950),<交響第3章>(1958),<シンフォニエッタ>(1967)のほか,弦楽四重奉曲5曲,ピアノ曲,声楽曲,大衆歌曲などがあり,いまなお第一線で活躍している。彼の音楽は伝統的なものに根ざしてはいるが,ルーマニア民謡の音構造にしたがい,半音階的な要素と全音階的要素がとけあった独特の強烈なひびきと抒情的美しさのなかにユニークな現代性をうちだしている。

 この曲は1973年に出版された。曲は4つの楽章からなり,演奉時間は約20分ぐらいである。

第1楽章 モデラート Moderato
第2楽章 ジョコーソ・エ・レジェロ Giocoso e legglerO
第3楽章 アデージォ Adagio
第4楽章 モデラート Moderato
5.藤田耕平;二つのフルートのための秋

 藤田は1945年横浜で生まれ,1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には「ギター,クラリネット ピアノのための秋の歌」,「フルート,ヴィオラ,ギターのための音楽第2番」,「ヴァイオリンとピアノのためのインプロヴィゼーション」,「弦楽四重奉曲」などがある。

 この曲は1975年に書かれ,同年12月同じメンバーにより初演されたが,今回はそれに手を加え,若干改訂したものが演奏される。作曲者はこの曲について,「全体は小さな緊張の絶え間ない連続からなっている。題名の秋は必ずしも曲の内容をあらわすものではなく,曲の容量といったものを示している」とのべている。
4.石井基斐;オーボエとシンセサイザーのためのEtc‥‥‥

 彼女は国立音楽大学を卒業し,作曲を江崎健次郎に学んだ。主要作品には「金管三重秦曲」,ヴォカリーゼ「囁ぶ」,「打楽器とオーボエのための“LIGHT!‥‥‥end”」, 「Nostalgie」などがある。

 Etc.はetceteraの略で、文字の上では「その他」とか「‥‥‥など」という意味なのだが,これをどう解釈するかは,すべてこの曲の聴き手にまかされているのであろう。彼女はこの曲については何も触れていない。
5.松葉 良;無伴奏ヴァイオリンのための古典的パルティータ

 松葉は1919年東京で生まれ,1940年青山学院大学卒業後,日大芸術科で学び,作曲を池内友次郎と貴島清彦に師事した。立軌会々貝として画壇においても活躍し,詩情に富む色彩豊かな作品を画いている。彼はヨーロッパの古典的伝統に根をおろしながらも,大胆に現代的な技法をとり入れて,独特の風格をもつ抒情性豊かな音楽的表現をつくりだしている。主要作品には弦楽のための「詩曲」,「主題と変容」,交響詩曲「心象風景」,「ピアノのための古典組曲」,「オーボエのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとヴィオラのためのパルティータ」,「オーボエとクラリネットのための作品」のほか劇音楽,バレエ,映画音楽などがある。

 この曲は1973年の「無伴奉オーボエのためのパルティータ」と1974年の「オーボエとクラリネットのための作品」の系列の上に書かれている。74年の作品ではセリエルの手法を使って前作にみられぬ現代的な感覚というか“響き”をうちだした。この“響き”をさらにどう発展させ展開していくか,そうした課題に取組むなかで彼が目を向けたのが弦楽器の“響き”であった。それをバロックのスタイルによる古典的なかたちのなかで最大限に追求しているのが今回の作品である。スタイルとしては古いが,“響き”としては前作を越えたものをもっている。曲は4つの楽章からなり,各楽章とも一つのテーマで統一されている。

       第1楽章 前奏曲
       第2楽章 メヌエット
       第3楽章 アリアとドゥーブル
       第4楽章 ジーグ
6.塚谷晃弘;オーボエのための二つのエスキース

 塚谷は1919年東京に生まれ,1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが,戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し,それ以来現在まで室内楽を
中心に多くの作品を書いている。交響組曲「祭典」が1950年NHK佳作賞,またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞〈団体及び個人)を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」,バレエ曲「現代の神話」,「弦楽と打楽器のための組曲」,「フルート・ソロのための4つの小品」,「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」のほか能に基く室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され,2,3の作品がしばしば演奏されているが,最近では「金管のための音楽」(1971)がルーマニアでも演奉された。

 この曲について作曲者は,「1は雅楽の篳篥(ひちりき)にヒントを得,2は風俗のなかの旋律を主体としている。そしてオーボエはその素材を新しい技術で展開している」とのべている。
7.山岸磨夫;フルート四重奏曲

 山岸は1933年東京で生まれ,1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カブリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管絃楽部門で入賞している。主要作品には交響曲「えんぶり」,交響的変容「かるら」,オペラ「ゆや」,交声曲「夕鴨」,「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」,「フルート,ヴァイオリン,ギターのトリオ」,「ギターとフルートのための2つの律と気」(昭和50年度武井賞受賞)があり,日本の題材にイメージを求め,平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いている。

 このフルート四重奏曲「フルート,ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロのための2つの詠」と題され,2つの部分に分かれている。この曲について作曲者は,「前半は良い息のフレーズによる音色や表情の変化,後半はリズムとテンポの変化を主とした構成的な曲を作ろうとした2つの歌である」とのべている。なお,詠は音声を良く引いて歌うという意味である。
8.石井五郎;三つの歌曲
 石井は1903年秋田に生まれ,山田耕筰や成田為三に作曲を学び,昭和4年頃から作品を発表している。昭和5年,日本で最初の作曲家連盟が15人で結成されたとき,彼はその1人として名を連らねている。昭和14年の毎日コンクールでは彼の「田園舞曲」が第2位,15年には「交響的序曲」が第1位に入選し,その後彼の作品は多くの注目をあびてきた。このような日本の草分け的な作曲家のなかで,彼のように現在でも積極的な作曲活動を進めている人は数少ない。作品には管弦楽や室内楽などがあるが,とくに声楽曲では日本語の持味を生かした詩をとりあげ,鋭い表現をもつ独自の作品を書いている。

 この曲は3つの部分に分かれ,1は佐伯郁郎の「海は生きている」,2は尾形亀之助の「無題詩」,3は三好達治の「浮雲」の詩によって書かれている。
 作曲者はこの曲について,「海が荒れるところに住む貧しい漁師たちは,よく海に呑まれて死んでしまう。海が見える海岸の高台に彼らの墓があり,そこには卒塔婆が乱立している。この佐伯郁郎の詩はそれをうたったものだが,私はこれを鎮魂歌として書いた。2ではさわやかな少女が散歩にでたときの明るい感じ。3では人間の無情感をだしたいと思った」とのべている。

田村 一郎