プレゼンテーションそのⅩⅢ(13回)現代の作品


1982年1月20日(水)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会







プ ロ グ ラ ム
1.カジミエシ・セロツキ
      ポーランド参加作品 <ピアノのためのア・ピアチェレ>
ピ ア ノ・中野 洋子
2.ヴィトルト・シヤロネク
      ポーランド参加作品 <オーボエソロのための四つのモノローグ>
オーボエ・原田 知篤
5.伊東 英直  <ピアノのためのフラグメント>
ピアノ・窪田 隆
4.藤田 耕平  <DANCE>
フルート・野口 龍
ギター・芳志戸 幹雄
5.石井 基斐  <Bassに寄せて>
コントラバス・永島 義男
6.松葉 良  <ヴァイオリンとチェロのためのデュオ>
ヴァイオリン・梅津 南美子
チェロ・松下 修也
7.塚谷 晃弘  <フルートとピアノのための作品>
フ ル ート・小泉 浩
ピ ア ノ・高橋 アキ
8.山岸 磨夫  <絃楽四重奏曲 Ⅱ>
東京プラームス・カルテット
1st・ヴァイオリン・景山 誠治
2nd・ヴァイオリン・田沢 明子
ヴィオラ・波木井 賢
チェロ・田中 雅弘

曲目解説    田村 進
1.カジミエシ・セロツキ;ピアノのためのア・ピアチェレ

 セロッキKazimierz Serocki(1922~81)はポーランド作曲界の中で中心的な役割を果していたが,昨年1月惜しくも他界した。彼はトルンで生まれ,戦後パリで
ピアノをラザール・レヴィに,作曲をブーランジェに学んだ。彼は12音技法に目を向け,タデウシ・ペイルド(1928~81)と共に現在の前衛的な国際現代音楽祭“ワルシャワの秋’’の実現に力を尽した。点描主義的な「セグメンティ」(1961),偶然性の要素を取入れた「ピアノとフォルテ」(1968),12音技法による管弦楽「ポエジー」(1969)のように,独自の音響と色彩感を持つ音楽を残した。

 この曲は1973年の作で,偶然性によって多様な音響を求めた作品である。曲は3つの部分からなり,各部分は10種類の音型から成立っている。各音型には約6秒とか約11秒とかいうように大体の演奏時間が記されている。ピアニストはこの10種類の音型をどんな順序で弾いても構わない。全体は30種類の異なった音型から成立っているわけだが,演奏時間は6分以上8分以内と指定されている。なお,ア・ピアチェレa piacereとは“お好きなように”という意味のことばである。
2.ヴィトルト・シャロネク;オーボエソロのための四つのモノローグ

 シャロネク Witold Szalonek(1927~)はカトヴィッツェ音楽院で作曲を学び,67年から母校で作曲と理論を教えている。彼は民族的な「クルピア組曲」(1955)で有名になり,12音技法による管絃楽と合唱と朗読の「告白」(1959)で注目された。彼は木管楽器にひそむ色彩的な音の可能性を引出し,音響をいろいろ組合せた作品を書き,ポーランド作曲界の中堅として活躍している。

 この曲は1966年の作で4つの部分からなり,偶然性の手法で書かれている。弱音から強音に至るオーボエの響きを多面的に追求した曲である。本日は時間の関係上2番目の曲を除いて,1,3,4の部分を演奏するが,御諒解頂きたい。
 テンポやリズムなど演奏者に任せられた点は多いが,1は約1分50秒,3は約3分30秒,4は3分30秒以上4分30秒までと,それぞれ演奏時間が指定されている。
3.伊東 英直;ピアノのためのフラグメント

 伊東は1933年福島で生まれ,作曲を松平頼則に学んだ。1953年,20歳のとき,第22回音楽コンクール作曲部門に入選し,その後,音楽文化協議会会員,現音会員として活動してきた。
 主要作品にはヴァイオリンとピアノのための「コエッセCoesse」,フルートとピアノのための「アポカリプセApocalypse」,弦楽四重奏のための「流入」などがあり,寡作だが,注目されている。例えば,「アポカリプセ」はフルート奏者ガッツェローニが欧米各地で好んで演奏し,来日した折にもカニーノのピアノ伴奏で演奏された。この曲はミラノのツェルポニ社から出版されレコード化されているが,日本でもソニーのコンテンポラリー・アルバムに含まれている。また「流入」は,1977年度ISCM(国際現代音楽協会)の入選曲として10月西ドイツのボンで演奏され,1979年には現音の“秋の音楽展”で再演された。

 この曲について作曲者は次のように述べている。
「今回の作品はピアノソロとして昨年作られたものであります。
 曲はいろいろな和音構造とその響きプラス小さなエピソードとしてのフレーズからできている。しかし,その淡い色彩の響きを通して,その向う側にある現代性を感じとって頂けたらと思います。」
4.藤田 耕平;DANCE

 作曲者は,ただ,次のものだけをこのプログラムに記載して欲しいと言っている。

「ギリシャ壷の中のダンス.
石窟に刻まれた男女.
朝の光の中,ショウ・ウィンドウを横切る人々の歩み.
すべて物見える日のうちのダンス.」
5.石井 基斐;Bassに寄せて

 石井は作曲を江崎健次郎に学び,現音会員としても活躍している。主要作品には「金管三重奏曲」,ヴォカリーゼ「囁ぶ」,「打楽器とオーボエのための“LIGHT!……end」,「NOSTALGIE」,「と・り・お」,「あぶせんと・まいんでっと」,「あすの唄」などがある。
6・松葉 良;ヴァイオリンとチェロのためのデュオ

 松葉は1919年東京で生まれ,1940年青山学院大学卒業後,日大芸術科で学び,作曲を池内友次郎と貴島清彦に師事した。立軌会々貝として画壇においても活躍し,詩情に富む色彩豊かな作品は広く注目されている。彼はヨーロッパの古典的伝統に根をおろしながらも,大胆に現代的な技法をとり入れて,独特の風格をもつ抒情性豊かな音楽的表現をつくりだしている。主要作品には弦楽のための「詩曲」,「主題と変容」,交響詩曲「心象風景」,「ピアノのための古典組曲」,「オーボエのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとヴィオラのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとチェロのための“コンポジション”」,「無伴奏チェロのための作品第2番」のほか劇音楽,バレエ,映画音楽などがある。

 作曲者はこの曲について,「今回のヴァイオリンとチェロのためのデュオはロココ的な主題によるディヴェルティメントです。前の曲は幼年時代への郷愁ともいえる極めて前古典派的な手法により,後の曲は現代的な手法によるものです」と述べている。
7・塚谷 晃弘;フルートとピアノのための作品

 塚谷は1919年東京に生まれ,1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが,戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し,それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。交響組曲「祭典」が1950年NHK佳作賞,またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及び個人)を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」,バレエ曲「現代の神話」,「弦楽と打楽器のための組曲」,「フルート・ソロのための4つの小品」,「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」,「ピアノのための2つの前奏曲」,「コントラバスのための三章」のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され,2,3の作品がしばしば演奏されている。

 この曲について作曲者は次のように述べている。
「これは1981年夏の作。従来の2重奏の型を全否定し,フルートとピアノはそれぞれ独立した存在として取扱った。たとえば,それぞれのバートに共通の主題,モティーフは決してみられない。お互に桔抗させながら別次元で協和的につきすすむといった書き方をした。
8.山岸 磨夫;弦楽四重奏曲 Ⅱ――冬の詩(ふゆのうた)――

 山岸は1933年東京で生まれ,1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交響曲「えんぶり」,交響的変容「かるら」,オペラ「ゆや」,交声曲「夕鴫」,「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」,「フルート,ヴァイオリン,ギターのトリオ」,「ギターとフルートのための2つの律と気」(昭和50年度武井賞受賞),「フルート四重奏曲」,「ピアノトリオのための“乱”」,「ヴィオラとピアノのための変容Ⅰ」,「変容Ⅱ」のほか,合唱曲「白鳥帰行」,オペラ「温羅の砦」,「美作民謡による交響曲」などを書き上演されている。このほか,合唱曲「神楽歌」,混声合唱のための浄瑠璃「胸割」など多くの合唱曲がある。このように彼は日本の題材にイメージを求め,平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが,その作品は国内各所でとりあげられるなど,盛んな創作活動を行なっている。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
 「この曲は二つの部分から成り,1は,弦楽器の微妙な色彩,ニュアンス,4人の奏者による僅かなテンポのずれを意とし,2は,幾分速いテンポのなかで,オスティナートによる変秦,音量やテンポの変化を意とした。全体にオーソドックスな音楽への帰着を試みた。副題――冬の詩――は描写ではなく,心象である。

田村 一郎