プレゼンテーションそのⅩⅥ(16回)現代の作品


1985年1月16日(水)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会





プ ロ グ ラ ム
1.A.クシャノフスキ   オーボエとトランペットのための3つの作品(ポーランド参加)
オーポエ・原田知篤
トランペット・海保 泉
2.K.ペンデレツキ   クラリネットとピアノのための3つの小品(ポーランド参加)
クラリネット・金 元
ピアノ・中野洋子
3.山岸磨夫  フルートとギターのために
フルート・西畑正三
ギター・芳志戸幹雄
4.石井 五郎  中原中也の詩による「サーカス」
バリトンレジェ・村田健司
クラリネット・黒沢文博
パーカッション・漆畑仁子
5.藤田 耕平  「歌 謡 集」
ソプラノ・村上曜子
メゾソプラノ・星野直子
ギター・柴田杏里
バーカッション・永曽重光
6.塚谷 晃弘 オーボエとピアノのための作品
オーボエ・原田知篤
ピアノ・中野洋子
7.松葉 良 オンド・マルトノ、フルート、オーボエ、バスーンのための「メタモルフォーゼ」
オンドマルトノ・原田 節
フルート・大竹泰夫
オーボエ・原田知篤
バスーン・加藤洋男

 曲目解説  田村 進
1.アンジェイ・クシャノフスキ;オーボエとトランペットのための3つの作品

クシャノフスキAndrzej Krzanowski(1951~)はポーランドのカトヴイツェ音楽院でグレツキに学び,1975
年に卒業したのち,母校で教鞭をとっている。76年マラウスキ・コンクールで優勝し,79年には国際ウェーバー作曲コンクールに入賞した。彼は詩や映像と結びついた特異な音楽を書いており,ポーランド作曲界の中堅として注目されている。
  この曲は1972年に作曲され、74年3月カトヴイツェで初演された。演奏時間は約8分。

 Ⅰはオーボエのピアニッシモで始まるディナミックな曲。
 Ⅱはカンタービレ
 Ⅲはスケルツァンド
2.クシシュトフ・ペンデレツキ;クラリネットとピアノのための3つの小品

 ペンデレツキ Krzysztof Penderecki(1933~〉はポーランドの代表的な作曲家で,最近作にはチェロ協奏曲(1982)やヴィオラ協奏曲(1983)がある。
 この曲は,1958年,クラクフ音楽院卒業直後の作品で同年11月17日作曲家同盟主催のコンサートで初演された。
約3分ていどの短い曲だが,「散文的で鋭く,スケルツォふうの曲――何といったらいいか,とにかく大変注目される作品だ」と書いている。ペンデレツキ最初期の作品として興味深い。

 1はアレグロ,2はアンダンテ・カンタービレ,3はアレグロ・マ・ノン・トロッポ
3.山岸磨夫;フルートとギターのために

 山岸は1933年東京で生まれ,1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交声曲「夕鴨」,「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」,「フルートとギタのための気と律」〈昭和50年度武井賞受賞),「弦楽四重奏曲Ⅰ」,「Ⅱ」,「ピアノトリオのための“乱”」,「ヴィオラとピアノのための変容Ⅰ」,「変容Ⅱ」のほか,合唱曲「白鳥帰行」,オペラ「温羅の砦」,「美作民謡による交響曲」,「管弦楽のための変容」などを書き上演されている。彼は日本の題材にイメージを求め,平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行なっている。

 彼はこの曲について,次のように述べている。「フルートとギターの組み合わせで書くのは11年ぶりのことです。二つの部分から成り,心の内にひめた音をそれぞれ考えてみました。」
4.石井五郎;中原中也“サーカス” 口上,歌,クラリネット,打楽器のために

 石井五郎は1903年秋田に生まれ1978年に他界した。舞踊家の故石井漠は実兄,作曲家の石井歓と石井真木は彼の甥,石井基斐は彼の子供というように,その一族には芸術家が多い。
 彼は山田耕作と成田為三に作曲を学び,昭和4年頃から作品を発表した。昭和5年,日本で最初の作曲家連盟が15人で結成されたとき,彼はその1人として名を連らねた。昭和13年パリに留学して作曲を学び,昭和14年の毎日コンクールでは彼の「田園舞曲」が第2位,15年には「交響的序曲」が第1位に入選した。作品には管弦楽や室内楽などがあるが,とくに声楽曲では日本語の持味を生かした詩をとりあげ,鋭い表現をもつ独自の作品を残した。
 特に戦後は,彼にとって,日本語のもつ躍動的な生命力と美しさを生かした歌曲を書きたい、書かねばならない,そういう意欲に燃えた日々であったと言ってよい。
晩年の代表作には「草野心平の詩による蛙の歌」(1971〉,「津軽の方言詩による三曲」(1973〉,「弟英六との告別」(1974),「三つの歌曲」(1976〉,「サーカス」〈1976)などがある。

 彼は音楽文化協議会の設立にも中心的役割を果した一人であった。したがって,このプレゼンテーション」では,彼の作品を未発表あるいは既発表であるとを問わず,今後引続きとりあげる予定である。

 今回の曲は石井が少年時代に木下サーカスなどの曲馬団にとりつかれ,前口上付きの空中ブランコに胸を躍らせ,むやみに騒ぐ観衆の様子も面白かった頃のイメージに基づいて書かれている。中原中也の詩は短いので,これに作曲者自身が書いた口上を付け,更にサーカス楽団がよく使ったクラリネットも配して曲全体の雰囲気をもりあげている。
5.藤田耕平;歌謡集

 藤田は1945年横浜で生まれ,1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には「二つのフルートのための秋」,2台のピアノのための「八百屋お七の舞台への音楽」,七奏者のための
「黙示」などがある。
 彼は音の積み重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し,個性的な作品を書いている(ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴィオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1,2位なしの3位に入賞している。

 作曲者は今回の曲について次のように述べている。
「今まで出合った自分にかかわりの深い言葉を,改めて手の内に入れてみようと思う。それらは多分,僕をはるかに越えてずっと広がっていると思うが‥‥‥。全体は小さな部分をいくつか集めたものです。」
6.塚谷晃弘;オーボエとピアノのための作品

 塚谷は1919年東京に生まれ,1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが,戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し,それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。交響組曲「祭典」が1950年NHK佳作賞,またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及個人)を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」,バレエ曲「現代の神話」,「弦楽と打楽器のための組曲」,「フルート・ソロのための4つの小品」,「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」,「コントラバスのための三章」(1981年8月,イギリスのマン島における国際コントラバス大会で演奏され好評だった)のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され,2,3の作品がしばしば演奏されている。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
「1984年夏の作品,この作品にとりかかる前に,私の耳には日本の古代の音楽と巷のさまぎまなひびきが交錯していた。ピアノは伴奏でなく,独立した存在としてとりあつかわれている。」
7.松葉  良;オンド・マルトノ,フルート,オーボエ,バスーンのための「メタモルフォーゼ」

 松葉は1919年東京で生まれ,1940年青山学院大学卒業後,日大芸術科で学び,作曲を池内友次郎と貴島清彦に師事した。立軌会々員として画壇においても活躍し,詩情に富む色彩豊かな作品は広く注目されている。彼はヨーロッパの古典的伝統に根をおろしながらも,大胆に現代的な技法をとり入れて,独特の風格をもつ抒情性豊かな音楽的表現をつくりだしている。主要作品には弦楽のための「詩曲」,「主題と変容」,交響詩曲「心象風景」,交響詩曲「祈りの叫び」(NHK委嘱),「弦三重奏曲」,「オーボエのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとヴィオラのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとチェロのための“コンポジション〃」,「無伴奏チェロのための作品第1番」のほか劇音楽,バレエ,映画音楽などがかる。

 作曲者はこの曲について,
「この作品は3つのセリーを使用してそれぞれの管楽器
の特性を生かし乍らオンド,マルトノの持つ色彩と音色
を追求したものです」と述べている。

田村 一郎