プレゼンテーションそのⅩⅩⅨ(29回)現代の作品


1999年6月14日(月)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会







プ ロ グ ラ ム
1.ウチュク・ピアノのための「ソナチナ」
ピアノ・中野洋子
2.寺内園生・「静かな風」「めざめ」
ピアノ・久元祐子
3.塚谷晃弘・「ピアノのための作品 No.1・No.2」
ピアノ・中野洋子
4.伊藤隆太・Duetto No.11,1999
尺八・三橋貴風
十七絃・菊地悌子
5.安生 慶・「山辺に向いて」 -ViolaとPercussionのために-
ヴィオラ・武生直子
バーカッション・安江佐和子
6.山岸磨夫・オーボエ・ヴァイオリン・ピアノのためのトリオ ―夜の詩―  
オーボエ・原田知篤
ヴァイオリン・工藤由紀子
ピアノ・金 詠子
7.藤田耕平・-樹-
ピアノⅠ・井上郷子
ピアノⅡ・横島 浩


曲目解説    田村 進

 「プレゼンテーション」も1968年以来、海外の準会員も含めて、会員の初演曲をほぼ毎年発表し、今別で第29回を迎えた。1995年10月、急逝した会員の塚谷晃弘氏の作品を、追悼の意を込めて、上演することにした。会の代表である松葉良は、立軌会会員として画壇の重鎮的な存在となって活動しているが、プログラムの表紙の絵は、前回司様、今回のコンサートのために描いたものである。


1.ユリウシュ・ウチュク・ピアノのための「ソナチナ」

 ウチュクは1927年牛まれのポーランドの作曲家で、クラクフ音学院でヴィエホヴィチに学んだ。その後、パリでブーランジェにも学び、バレエ、交響曲、室内楽など各分野の作品を書き、スイスなど内外で多くの賞を得た。特にオラトリオ「アッシジの聖フランチェスコ」(1976)は注目された。又、バレエ「ニオベ」(1972)、オペラ「デミウルゴス」(1990)など多くの舞台用の作品でも注目されている。更に多くの合唱曲や声楽曲には現代的で生き生きとしたポーランド的な叙情性や明るさが見られるが、このような声楽曲の特色は多くのピアノ曲にも見られ、特に「子供の即興曲」(1965)や「4つのソナチネ」(1970)などは現在でも広く親しまれている。

 本日演奏される「ソナチナ」は、この「4つのソナチネ」の第4曲目で、ピアノの“現代的な音の響き”を追求したものである。


2.寺内園生・「静かな風」「めざめ」

 ピアノを中野洋子と伊達純に、作曲と和声を寺内昭、川井学に学ぶ。
 寺内は1959年千葉に生まれ、高校卒業後渡独し、マリアフンク氏に作曲法を学んだ。主要作品には、ピアノ曲「アラベスク」「Shadow影」ヴァイオリン曲「Active」などのほか子供の為のピアノ小曲集として、「メルヘンの国」「小さな夢」「遊園地・宇宙船」(音楽之友社)「動物の大行進」(音楽之友社・CDフォンテック)「マザーグース」(全音・CDフォンテック)などデリケートな感覚と想像力豊かな叙情的作品がある。
 日本作曲家協議会会員及び音楽文化協議会会員。

 作曲者はこの曲について次のようにのべている。
 『このたびは、私が以前に書いた曲の中から2曲を選びました。いずれの曲も1982年に苦いたもので、「静かな風」では、静かな中に揺らぐような心象風景を、「めざめ」では、心の中に一筋の光を追い求めて、やがて大切なものにめざめていくさまをイメージして書きました。』


3.塚谷晃弘・ピアノのための二つの作品No.1・No.2

 塚谷晃弘氏は1995午10月13日急逝した。1968年、この「プレゼンテーション」の創設に力を盡し、それ以来、多くの傑作を残してきた。
 披は1919年東京で生まれ、1942年東京大学を卒業。在学中から諸井三郎に作曲を学ぶ。戦後1949年に「新作曲派協会」に参加。1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及個人)を受けている。主要作品には「弦楽と打楽器のための組曲」、「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」、「コントラバスのための三章」(1981年8月)のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした披の現代的表現は海外からも注目され、2、3の作品がしばしば演奏されている。最近では、1997年12月末、スウェーデン・ラジオ局で、オーボエ・ソロ「古伝巣篭」(1989年第19回で発表)が増澤正晃氏のオーボエで放送
されて好評だったため、今後塚谷の作品を放送局やコンサートでも取上げる予定という。

 この作品は、1978年第9回のプレゼンテーションで初演された。当時、彼は、この曲について「No.1は雅楽を基調とし、とくにひちりきの音をとり人れた幻想曲風のものです。No.2は浦上玉堂の琴譜〈伊勢の海〉 にヒントを得たもので、きわめて自由に展開されていますが、東洋的な間を重んじた曲です」と述べている。
 こういう曲想による同名の曲は1951年にも書かれているが、この曲は1978年新たに中野洋子のために書かれたものである。


4.伊藤隆太・DuettoNo.11,1999

 伊藤は1922年、広島県呉市に生まれた。東京大学医学部を卒業し、かたわら作曲を池内友次郎、諸井三郎、高田三郎に学んだ。第19回日本音楽コンクール管弦楽作曲部門で第1位ののち、琴曲の分析から邦楽器の作品も書き、芸術祭、米国現音コンクールなど計12の賞を受けた。
プレゼンテーションにも第18回以後、意欲的な作品を発表している。

 今回の曲について作曲者は次のようにのべている。
 『尺八と十七絃の二重奏曲を毎年1曲づつ書き続けた10年間は、出発点とした手事物を構造上の特性を眺め、それより先をどうするかを考え続けてきた。やがて、これらの曲には共通の展開法の姿もあることが分かってきた。今回から展開法の中から、1つ2つを選びながら曲を組立ててゆくことにした。この曲では、緩やかな前歌から開始して、手事が2ケ所になる構造をもつ。手事では投合わせ(初段を独奏したのちに、二段を独奏し、段では、初投と二段が重なる)の手法をとる。曲が展開するにつれ、前の一部分を省略して、その直後から新しく展開を進める。琴曲のもつ律旋陰音階にもこだわらないことにした。』


5.安生 慶・「山辺に向いて」  -ViolaとPercussionのために-

 安生は1935年東京に生まれ、成城学園より桐朋学園音楽科に進み、管楽器を専攻。卒業後、作曲を棚瀬正氏に師事。日本現代音楽協会会員。
 主要作品には「風影-二胡とオーケストラのために、ViolinとPianoのための挽歌」、「彩画-ViolaとPianoのための幻想曲」、「弦楽四重奏曲」、「8Violaのための詩曲」、「彼方からの風景-Harpのために」、「CelloとPianoのとために(♯2)」、「ピアノのための譚詩曲」、M・Sqo.Pfのための「枯野」このほか歌曲「黄泉のくに歌」(詩・花輪莞爾)、および「酒呑童子」(詩・花輪莞爾)、などがある。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
 『この曲は、稀にみる繊細な音色感を持つ。すばらしい打楽器奏者、安江佐和子さんのリサイタル〈6月21日〉のために書いたもので、今夜が初演となる。初めての打楽器の音楽を佐和子さんからの多くの教示によりどうやら書きあげることが出来たことと、協演者に、披女の親友である優れたヴイオラ奏者、武井直子さんを得たことにも感謝している。
 構想は、折口信夫の「死者の書」のイメージを核として置いた。一人の皇子の魂が、当麻路山中の墓穴より甦えり、二上山頂に像として現われ、或る郎女の魂に激しく働きかけ、ついに一幅の彩画-山越しの阿弥陀像-を作りあげるというもの。ヴィオラは主として皇子の世界を中心に、ヴィブラフォンは主として郎女の世界を中心にして、二つの魂がさまざまな空間で揺れ動きながら、交差し絡み合って行くことを思いつつ書き、全体は、死者の魂の覚醒に始まる序から、結ばれた魂が、完成された彩画のみ残して消え去る結尾まで、五つの連続した章から成る。』


6.山岸磨夫・オーボエ・ヴァイオリン・ピアノのためのトリオ  ―夜の詩―

 山岸は1933年東京で生まれ、1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交声曲「夕鶴」、「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」、「フルートとギターのための気と律」(昭和50年度武井賞受賞)、「弦楽四重奏Ⅰ」「Ⅱ」、「ヴィオラとピアノのための変容Ⅰ」、「変容Ⅱ」のほか、合唱曲「白鳥帰行」、オペラ「温羅の砦」、「交響曲Ⅰ」、「管弦楽のための変容」、「二台のピアノとオーケストラのための協奏曲」「管弦楽のための前奏曲」などを書き上げ演奏されている。彼は日本の題材にイメージを求め、平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行っている。現在、作陽音楽大学教授。

 彼はこの曲について、次のようにのべている。
 『奈良県の二上山は、古代の飛鳥に都があった頃の悲劇の人、大津皇子の墓が今も山頂雄岳にある。又、二上山の西側に古代の貴人達の奥津城も点在している。
 二上山には、幾度となく登り、眺めたが、そのたびに新たな感動を呼び起こす。夜の帳、荒ぶる魂を鎮める願いをこめてひたひたと歩む葬列。そんなイメージを思ってみた。』


7.藤田耕平・一樹-

 藤田は1945年横浜で生まれ、1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。
 彼は音の積重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し、個性的な作品を書いている。ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴイオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1、2位なしの3位に入賞している。「黙示」は1985年2月サンフランシスコでの現代音楽週間で演奏されると共に、NHK・FMより放送された。また、オーボエ・オンドマルトノ・弦楽合奏のための「時は、雨のように‥…・」が、1996年春にNHK・FMより放送された。

 彼はこの曲について次のようにのべている。
 『題名は、詩人リルケの『時祷詩集』の次の一節から採られています。
 …あなたの樹の梢でひかりがさわぎあらゆるものを多彩に空虚に変える。…』
                              (生野幸吉訳)

田村 一郎