島の南西の入り江に面して人口700人ほどの
ヌーチャヌルス族(旧ヌートカ族)というインディアンの村があり、
そこが彼らの発進基地であります。
この地域、あるいは村そのものを指してアホーザットと呼んでいます。
ぼくはその村と入り江を挟んで対岸にあるアホーザットジェネラルストアhttp://www.ahousat.com/の私有地で、ハミングバードホステルという宿屋をやっているのです。
ちなみに商売をやっている土地と建物が売りに出されちゃいました。
ピンチです(涙)。
ところで、去年12月の中頃から、この海域のアサリ漁が始まりました。
といっても一回の漁期は4日間で、2週に一回くらい、
解禁日があったり無かったりします。
漁として参加するにはイロイロと制約があるのですが、
自家用として潮干狩りをする分には、
酋長の許可があればべつに問題はなく、
酋長も「掘ってエエよ」と言ってくれてるので、
漁と漁の間の潮干狩りにピクニック気分で同行することにいたしました。
お呼びがかかったのは、おりしも氷雨降るクリスマスの夜でした。
「ゆき、ホッケーの練習に行かないか?」 お隣のインディアンが誘いに来ました。
ホッケー?さすがカナダだな。やったことはないけど承諾しました。
「はい、これホッケーのスティック。それからバケツにランタンね」
え?
バケツにランタンって。それにこれでっかい熊手じゃないですか。
「だから練習に行くんだよ。お前、潮干狩りに行きたいって言ってただろ」
あの、もう夜8時だし、真っ暗で冷たい雨が降ってますけど……。
「カッパ着ればいいじゃん」 えええええ?
ピクニック気分のつもりが、とんでもないことになってしまいました。
カッパを用意している間に、風もびゅんびゅん吹きはじめました。
こ、これってもしかして「嵐」ていうんじゃ?
インディアンはお構いなく漁業用のオープンボートのエンジンをかけています。
仕方なく乗り込みました。
30分くらい土砂降りの冷たい雨にうたれながら船に乗ったでしょうか。
突然、真っ暗闇のビーチにザザザッと音を立てながら船ごと乗り上げました。
インディアンは碇を投げるや飛び降りて、すぐさまその場を掘りはじめます。
ビーチはかなりでかい岩もごろごろ転がっている砂利砂利ビーチです。
彼がその粗いビーチにざくりと熊手を一掻きすると、
お、おおお!殻長5cm級のアサリ様が
10個も15個も転がり出てきました。
で、でかい。すごい! ぼくも飛び降りて一掻きします。
やはり5cm級のが5~6個出てきました。面白い!
しばらくは寒さも忘れて夢中になりました。
ランタンの明かりの届く範囲を一生懸命掘っていきます。
インディアンは一掻きごとに「ホーリーシット(聖なるうんこ)」などと騒いでいます。
見るとあっという間に20リットル入りのバケツが山盛り一杯です。えええっ?
なんちゅう速さじゃ。
ぼくだって必死に掘っているのにまだバケツに半分も溜まっていません。
だいいちこのくそ寒いのにインディアンは決して手袋など着用しないので、ぼくも仕方なく素手でやっているため、すでに手がカチカチに凍えています。
雨はいよいよみぞれに変わってきました。顔に当たるみぞれがいたいです。
それにしても、いつまでやるつもりなのか見当もつきません。
もう顔から流れ落ちている液体が、みぞれが溶けた物なのか涙なのか鼻水なのかよだれなのかよく分かんなくなってきました。
きっと全部の集合体です。 とにかく夢中で掘りました。6cm級のがどどどっと出てくることもあります。
しかし、ランタンの明かりが届く範囲を除けば真の暗闇。
みぞれ混じりの真冬のカナダの暴風雨。
一体自分が何処で何をやっているのかだんだん判断が出来なくなってきました。
潮干狩りをしているのか、遭難をしているのか、
もはやぼくの中では区別がつきません。
ときどきピンク色のちびシャコなんぞが出てくると、おっ、て思って我に返るけど、も、ホント、いつまでやるつもりやねん。
ざくざく掘っていると、3cmくらいのウナギの稚魚みたいのが出てきました。
「これ、ウナギに見えるんですけど」
と言うと、インディアンは
「だってウナギだもんね」と普通に答えたので、たぶんウナギなんだと思います。
そうか、ウナギってこんなところで繁殖してるのね。
なんて、よけいなことやってる暇はありません。
とにかく掘ります、拾います。
潮が満ちてどーっと水が流れ込んでくるまで涙の潮干狩りは続きました。
あっという間にビーチが水没します。
その間隙を縫って、インディアンはバケツ一杯の牡蠣をパパパッと拾ってました。
20cmもあるのがごろごろ「転がって」いるんです。
帰り道は、マジ、ボートが転覆するかと思いました。
収穫はぼくがやっとバケツに一杯ちょっと、
インディアンは山盛り3倍、重さにして70kgは掘っていました。
こ、この暴風雨の中、恐るべし。
安全な入り江の中にまで来ると、インディアンが言いました。
「お前、初めてなのに見どころあるじゃん」
はあ、どうも。
意地はって一生懸命がんばったからな。
それにしても、この圧倒的な収穫量の差は、悔しい。
しかしまさかこのあと、このインディアンの潮干狩り超人師匠から、
興が乗るたび真冬の暴風雨を衝いての鬼の潮干狩り特訓に
連れ出されることになろうとは……。
インディアン、普段は超怠け者なのにあなどれません。
一日一人平均50~60kgは掘ってきます。師匠なんか調子いいと100kg近くいきます。
熊手で普通に掘ってるだけなんですけどね。
ぼくはしょせん自家用なのですが、どんなにがんばっても今のところ彼らの半分も掘れません。
冬のカナダの真っ暗闇の暴風雨の中、さんざんつらい思いして半分くらいしか掘れないと、けっこう精神的にこたえます。
なぜだ? くそ、日本男児として、必ずやつらを破ってやる!
それはさておき、次はインディアンのアサリ漁の模様をレポートします。
つづく。
P.S.
今日、インディアンにウニのすっごいポイントを教えて貰っちゃいました。
凄いです、ムラサキウニの大群で海底がほとんど見えませんでした。
しかも本体の直径が最低でも15cm超です。
20cm級のもいっぱいでした、棘の部分抜かしてです。
ウニバカうまです!
さらに、今日お隣のあさりの集積所を覗くと見慣れぬコンテナがいっぱい。
どうやら今年は、子持ち昆布(数の子)のバイヤーもやるようです。
去年4月にインディアンに貰ったのがまだ冷凍庫にあります。
今年はとんでもない量にお目にかかることになりそうです。
出来れば数の子ポイントもGETしよう。
今日はウニの他にいろいろ不思議な貝系生物をインディアンが捕って食っていたのですが、惜しいことにカメラを持っていくのを忘れてしまいました。
明日のアサリ集積所の様子は、ばっちり撮りたいと思っています。
アサリ集積所の裏方を手伝わされてしまったので、原稿を書くヒマがありませんでした。
今日は漁業監視官がインディアンの不正がないか立ち会い検査をしています。
みな拳銃を下げているので、銃の写真を撮らせてくれと頼んだのですが、却下されました。
アサリは主に砂利ビーチで掘ります。
周りに20cmくらいある牡蠣がごろごろ転がっています。
このレポートはHummingbird International Hostelのユキ様より頂いています。
2002/02/25 by Yuki
前略 ハミングバードホステルより 全19回