プレゼンテーションそのⅩⅩⅩⅢ(33回)現代の作品


2003年11月8日(土)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会
後援:在日チェコ共和国大使館





プ ロ グ ラ ム
1.スタンコ・ホルヴアート・「3つのピアノ作品」:オスティナート、エテュードーインヴェンション、ジョコーソ
ピアノ・中野 洋子
2.イィジー コレルト・「TOMTOMIA」
打楽器・大熊理津子
3.寺 内 園 生・「Elegy」
ギター・稲垣 稔
4.安 生   慶・「風の軌跡-V-」―VioinとViolaのために―
ヴァイオリン・新井 瑞穂
ヴィオラ・井上 典子
5.藤 田 耕 平・「A Snow Fairy(雪女)」-日本の民話から-
ピアノ連弾・枝崎 美葉
内田 真理
6.伊 藤 隆 太・「Duetto for Shakuhachi and 17gen No.12,2000」
尺八・三橋 貴風
十七絃・菊地 悌子
7.(故)山岸磨夫・「オーボエのためにー二つの情景<樹々のなかで、海辺にて>-」
オーボエ・原田 知篤


曲目解説 田村 進

「プレゼンテーション」も1968年以来、海外の準会員も含めて、会員の初演曲をほぼ毎年発表し、今回で第33回を迎え
た。しかし、昨年の12月23日、会員の山岸磨夫氏が急逝した。毎回注目される新作を東京など各地で発表し、創作意欲
旺盛な時だっただけに惜しみても余りあることであった。
 今回は昨年、原田知篤氏によって演奏され絶筆となった作品を、追悼演奏として上演させて頂くことにしたい。


1.スタンコ・ホルヴァート・3つのピアノ作品:オスティナート、エテュード―インヴェンション、ジョコーソ

ホルヴアートStanko Horvatは旧ユーゴスラヴィアのクロアチア共和国の作曲家・教師で、1930年ザグレブで生まれた。ザグレブ音楽院でシューレックに作曲を学んで56年卒業後、パリとベルリン電子音楽スタジオで前衛的技法を学んだ。
 61年から母校で作曲を教え、81年まで音楽学部長のほか、クロアチア作曲家同盟議長、ザグレブ音楽ピェンナーレの芸術監督(85-89年)をつとめた。
 彼は「ピアノ協奏曲」(1967年作曲)のように形式は古典的だが、奏法や表現に現代的感覚をもつ作曲家として注目されてきた。
 この3つの作品は「ピアノのためのエテュード集」(Cantus,2002,Zagreb)中の全17曲から選んだもの。
このエテュード集は5人のクロアチアの作曲家によって書かれており、音楽作品の内容を的確に表現できる技巧を求めている。
 もちろん、これらは単なるエテュード(練習曲)ではなく、それぞれ作曲家の個性が見られる作品となっている。
 なお、この曲集の入手に当たっては、ザグレブのスロボダン・エレゾヴィチ教授と早稲田大学の伊東一郎教授の世話になった。記してここに謝意を表したい。

1.オスティナートOSTINATO ある一定の音型を、楽曲全体を通じて、たえず繰り返す、作曲上の手法。
2.エテュードーインヴェンションETUDE-INVENTIONインヴェンションは“創意”というような意味で、一つの主題をもとにして、曲を対位法的に作り出す方法。
3.ジョコーソGIOCOSO“おどけて”というような意味の発想標語。


2.イィジー コレルト・TOMTOMIA

 イィジー コレルトは1943年プラハで生まれ、ブルノ音楽院でコントラバスを学び1968年卒業。
その後ヤナーチェック音楽アカデミーで作曲をアロイス・ピノスなどに学び、1991年からプラハ音楽アカデミーで作曲理論を教えている。彼の作品は交響曲や室内楽などすべて器楽で占められている。「私はリズムの可能性の発展に興味があり、アフリカの民間伝承の打楽器奏者達の音楽、ガムラン、ジャズ音楽の中から着想を得て、それらのインスピレーションを現代音楽の全ての可能な手法で混合する。この私の作風を“ポリスティル”と呼ぶことができる。」と書いており、一昨年はコントラバスとピアノのための「オール・ブルース」を初演し、昨年はマリンバのための音楽を発表した。


3.寺内園生・「Elegy」「Pure」

 ピアノを中野洋子と伊達純に、作曲と和声を寺内昭、川井学に学ぶ。
 寺内は1959年千葉に生まれ、高校卒業後渡独し、マリアフンク女史に作曲法を学んだ。代表作には、既出版のピアノ曲集「氷の城・イリュージョン」「めざめ・静かな風」「斑鳩」のほか、子供の為のピアノ小曲集として、「メルヘンの国」「小さな夢」「遊園地・宇宙船」(音楽之友社)「動物の大行進」(音楽の友社・CDフォンテック)「ピアノでひこうグリムのお話」(東京音楽社)「マザーグース」(全音・CDフォンテック)などデリケートな感覚と想像力豊かな抒情的作品がある。
 ヴァイオリン・ソロ曲「アクティヴ」は、1999年2月にNHK・FMより放送された。
 日本作曲家協議会会員及び音楽文化協議会会員。

 作曲者はこの曲について次のようにのべている。
 『「Elegy」では、哀しみの中にもひと筋の希望の光を求めていく様を、又「Pure」では、心の素直さ、純粋で一途な気持ちなどをイメージして曲を書きました。』


4.安生 慶・「風の軌跡-V-」-ViolinとViolaのために-

 安生は1935年東京に生まれ、成城学園より桐朋学園音楽科に進み、管楽器を専攻。卒業後、作曲を棚瀬正氏に師事。日本現代音楽協会会員。
 主要作品には「風影一二胡とオーケストラのために、ViolinとPianoのための挽歌」、「彩画-ViolaとPianoのための幻想曲」、「弦楽四重奏曲」、「8Violaのための詩曲」、「彼方からの風景-Harpのために」、「CelloとPianoとのために(#2)」・「ピアノのための譚詩曲」、M.Sop.Pfのための「枯野」このほか歌曲「黄泉のくに歌」(詩・花輪莞爾)、および「酒呑童子」(詩・花輪莞爾)、などがある。

 彼はこの曲について次のようにのべている。 
 『異なる次元に存在していた風の空間が、近づいたり、離れたりしながら、次第に互いの存在に感応して、からまり、ぶつかり、結びついたり、と変化を見せて進む。
 終りは、再び遠い次元へと別れながらもどこか、互いに響き合えるという気持を残しつつ、消えてゆく。』


5.藤田耕平・「A Snow Fairy(雪女)」一日本の民話から-

 藤田は1945年横浜で生まれ、1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。
 彼は音の積重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し、個性的な作品を書いている。
ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴィオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1、2位なしの3位に入賞している。「黙示」は1985年2月サンフランシスコでの現代音楽週間で演奏されると共に、NHK・FMより放送された。また、オーボエ・オンドマルトノ・弦楽合奏のための「時は、雨のように……」が1996年春に、ピアノのための「Far away」が2000年春に、それぞれNHK・FMより放送された。なお、ピアノのための「風の道」が、今年12月、プラハで開かれる「日本=チェコ交流2003」で演奏される。

 彼はこの曲について次のようにのべている。
 『清澄で幻想的なこの民話を、ストーリーは追わず、雪、足音、風、春の光・l・のイメージで表わしました。』


6.伊藤隆太・「Duetto for Shakuhachi and 17gen No.12,2000」

 伊藤は1922年、広島県呉市に生まれた。東京大学医学部を卒業し、かたわら作曲を池内友次郎、諸井三郎、高田三郎に学んだ。第19回日本音楽コンクール管弦楽作曲部門で第1位ののち、撃曲の分析から邦楽器の作品も書き、芸術祭、米国現音コンクールなど計12の賞を受けた。プレゼンテーションにも第18回以後、意欲的な作品を発表している。
 今回は都合により、2000年に発表した作品を上演することにした。

 この曲について作曲者は次のように述べている。
 『箏曲を分析する機会に恵まれて半世紀たった。分かる範囲で、さまざまな形の作品を書き続けてきた。プレゼンテーションに参加できるようになって、「尺八と17絃の二重奏を書きながら、自分なりの考え方ができてきた。11曲目から、その中から方法を選んで構成するようになった。』


7.(故)山岸磨夫・「オーボエのために一二つの情景<樹々のなかで、海辺にて>-」

 山岸は1933年東京で生まれ、2002年倉敷で他界した。1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カブリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交声曲「夕鴨」、「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」、「フルートとギターのための気と律」(昭和50年度武井賞受賞)、「弦楽四重奏「Ⅰ」「Ⅱ」、「ヴィオラとピアノのための変容I」、「変容Ⅱ」のほか、合唱曲「白鳥帰行」、オペラ「温羅の砦」、「交響曲I」、「管弦楽のための変容」、「二台のピアノとオーケトラのための協奏曲」「管弦楽のための前奏曲」などを書き上げ演奏されている。彼は日本の題材にイメージを求め、平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行った。長い間、くらしき作陽大学音楽学部で作曲と理論の教授をつとめていた。

 彼はこの曲について、次のようにのべている。
 『この作品についての言葉はとくにありませんが、自画像の一つとして考えました。』

田村 一郎