プレゼンテーションそのⅥ(6回)現代の作品


1974年10月16日(水)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会





プ ロ グ ラ ム
1.C.シュミット
  東独参加作品 <ヴァイオリンとピアノのためのソナタ>
ヴァイオリン 草薙 嵯峨子
ピアノ 笠間 春子
2.A.ボザイ
    ハンガリー参加作品 <オーボエとピアノのためのソナタ>
オーボエ 原田 知篤
ピアノ 上洲 伶以子
5.山岸 磨夫
   <フルート,ヴァイオリン,ギターのトリオ> Ⅰ沓(とう) Ⅱ沙(さ)
フルート 湯川 和雄
ヴァイオリン 草薙 嵯峨子
ギター 芳志戸 幹雄
4.石井 基斐
    <NOSTALGIE 二つの声と友竹辰の詩他による>
友竹 正則
滝沢 三重子
5.松葉 良   <オーボエとクラリネットのための作品>
オーボエ 原田 知篤
クラリネット 横川 晴児
6.(a)N.デフチッチ (b)R.ラディツァ
    ユーゴ参加作品 <ピアノのための作品>
ピアノ 中野 洋子
7.藤田耕平  <オーボエのための三章>
オーボエ 原田 知篤
8.塚谷 晃弘    <提琴のためのファンタシア>
ヴァイオリン 小林 健次
ピアノ/タムタム 小林 浩子
9.石 井 五 郎   <弟英六との告別>
バリトン 友竹 正則
打楽器 佐藤 英彦
その他
全曲初演

曲目解説   田村一郎
1.クリストフリード・シュミット; ヴァイオリンとピアノのためのソナタ

 グリストフリード・シュミット Christfried Schmidtは1932年生まれのドイツ民主共和国の作曲家。ライプチッヒ音楽院でオルガンと作曲を学び,教会音楽家及び作曲家として活動している。独自の現代的手法による彼の作品は国内だけでなく西欧からもしだいに注目されている。ピアノ協奏曲や金管五重奉曲は国内でもよく演奏されているが,このほかにも交響曲や室内楽曲などがあり,「合唱とオルガンのためのミサ」は1971年西独ニュルンベルグのコンクールで,また「イントロイトス」は昨年ポーランドのコンクールで入賞した。

 このヴァイオリン・ソナタは今回のプレゼンテーションのために書かれ,3つの楽章からなっている。各楽章とも現代的技法を駆使し,微分音なども使って起伏に富む表現を精緻な構成のなかで作りだしている。

           第1楽章 アニマート Animato
           第2楽章 レント・モルト Lento molto
           第3楽章 モデラート Moderato
2.アティラ・ボザイ;オーボエとピアノのための2章 作品18

 ボザイ Attila Bozayは1939年生まれのハンガリーの作曲家。ブダペスト音楽院でファルカスに作曲を学んだ。披はバルトークやコダーイの亜流に堕さず,セリエルの手法など現代的手法をとり入れながら個性的な音楽を書いて注目を浴び,1964年以来彼の作品は世界各国で演奉されている。

 この曲は(Two Movements)という題名が示すように2つの楽章からなっており,1970年に作曲された。第1楽章のハルガトーはリズムにとらわれずゆったりと歌うParlandoふうの曲,第2楽章のセベシュSebesは舞曲にみられるような正確で速いテンポの曲を意味している。これは19世紀ハンガリーの芸術音楽や民族音楽を思わせる名称だが,この曲の素材はそれとは直接関係がない。両楽章ともある音型ないしは音群が2つの楽器によってカノンふうに構成されている。だがこのカノンは第1楽章ではピアノがオーボエの音型をそのままくり返すのではなく,それを変形して奏し,曲全体が変奏曲ふうにすすめられている。第2楽章はオーボエ,ピアノの高音部と低音部によって3声のカノンふうに構成されている。しかも曲は3つの部分にわかれ,最後の部分は最初の部分を再現するという形式をとっている。

 なお,この曲はハインツ・ホリガーに捧げられ,1971年ユーゴのザグレブ現代音楽祭で初演された。演奏時間は約6分ぐらいの曲である。

     第1楽章 ハルガトー
           パルランド,ルパート・マ・トランキロ
     第2楽章 セベシュ Sebes
           プレスト・マ・ノントロッポ
5.山岸磨夫;フルート,ヴァイオリン,ギターのトリオ

 山岸は1933年東京で生まれ,1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチオとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交響曲「えんぶり」,交響的変容「かるら」,オペラ「ゆや」,交声曲「夕鴨」,「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」などがあり,日本の題材にイメージを求め,平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いている。

 この曲は沓と沙という2つの部分にわかれている。沓は交わるという意味をもち,沙は砂のように細かく砕けることを意味する言葉だが,この題意は曲の内容とは直接関係がなく,彼はこれをいわば発想用語として用いている。最初の沓では3つの楽器のひびきがとけあうように構成されており,第2の沙では3つの楽器のモチーフもひびきも相互に切離されている。
4.石井基斐;NOSTALGIE 二つの声と友竹辰の詩他による

 彼女は国立音楽大学を卒業し,作曲を江崎健次郎に学んだ。主要作品には「金管三重奉曲」,ヴォカリーゼ嚆ぶ」,「打楽器とオーボエのための“LIGHT!……end”」などがある。

 この曲について作曲者は,「センチメンタルなものではなく自分自身の中にある極めて主観的な心情の表現であり,第三者がこの曲を聞いて感じて戴くものがあれば幸いです。友竹辰(正則)の詩は,今までに作られた詩ではなく,この曲によるイメージによってつけて頂いた詩です」とのべている。
5.松葉 良; オーボエとクラリネットのための作品

 松葉は1919年東京で生まれ,1940年青山学院大学卒業後,日大芸術科で学び,作曲を池内友次郎と貴島清彦に師事した。立軌会々貝として画壇においても活躍し,詩情に富む色彩豊かな作品を向いている。彼はヨーロッパの古典的伝統に根をおろしながら現代的な技法をとり入れ,独特の音楽的表現をつくりだしているが,このような作風は役の画風にも通じるものがある。主要作品には,弦楽のための「詩曲」,「主題と変容」,交響詩曲「心象風景」,「ピアノのための古典組曲」,「オーボエのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとヴィオラのためのパルティータ」のほか劇音楽,バレエ,映画音楽などがある。

 この曲は昨年発表した「オーボエのためのパルティータ」をさらに展開させようとして書かれたものであり,セリエルの手法を使っているが厳格なものではない。彼はこの曲について,「スカルラッティのフーガの主題6個の音とプラスαであり,その点,古典的であると同時に現代的なものが表現できればと思っています」と語っている。
6.(a)ナトコ・デフチッチ;小組曲

 デフチッチは1914年生まれのユーゴスラヴィアの作曲家。ザグレブ音楽アカデミーのピアノ科を卒業後,作曲も学んだ。現在,作他家および同校の作曲科教授として活躍している。交響曲や室内楽など多くの作品を書いているが,このピアノのための小組曲Mikro-Suiteは1965年の作である。Ostinato,Forte,Arpeggiato,Quasi una Cadenzaの4つの部分にわかれているが,演奏時間は3分ぐらいの短い曲である。
  (b)ルーペン・ラディツァ; ピアノ小品 第3番

 ラディツァRuben Radicaは1931年生まれのユーゴスラヴィアの作曲家。ザグレブ音楽アカデミーで作曲と指揮を学んだ。彼は室内楽やピアノ曲などを害いているが,その鋭い前衛的な手法が注目を浴び,現代ユーゴ作曲界の中堅的な存在になっている。このピアノ小品Nr.3は偶然性の手法によって書かれており,1968年ミュンヘンで出版された。楽譜は8枚に分けて印刷され,それをすべて途切れなく演奏しなければならないが,その順序は演奏者の選択に任せられている。しかも曲中の拍節,アタック,テンポ,デュナーミクも一部を除いて演奏者の好むように弾くよう指定されている。
7.藤田耕平;オーボエのための3章

 藤田は1945年横浜で生まれ,1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。はじめ丹羽勝海や古沢淑子らと共に活動して歌曲「3つのMiのために」や「蛇の花嫁」などを書いたが,その後器楽などで詩的情緒をもつ清新な作品を書いている。主要作品には,「ギター,クラリネット,ピアノのための秋の歌」,「フルート,ヴィオラ,ギターのための音楽第2番」,「ヴァイオリンとピアノのためのインプロヴィゼーション」,「弦楽四重奏軸」がある。

 この曲は,彼の楽想を凝縮したかたちで表現した3分ぐらいの短い曲である。
8.塚谷晃弘;提琴のためのファンタシア

 塚谷は1919年東京に生まれ,1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが,戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し,それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。交響組曲「祭典」が1950年NHK佳作賞,またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞〈団体及び個人)を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」,バレエ曲「現代の神話」,「弦楽と打楽器のための組曲」,「フルート・ソロのための4つの小品」,「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」のほか能に基く室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした役の現代的表現は海外からも注目され,2,3の作品がしばしば演奏されている。

 この曲は,昨年このプレゼンテーションで発表したものを,その後作曲者が何回も手を加えて改作したものである。今回のための新作を手がけているさなかに作曲者が急病になったため当初の予定を変更して,この曲を上演することにした。よろしく御諒承頂きたい。
9.石井五郎;弟英六との告別

 石井は1903年秋田に生まれ,山田耕筰や成田為三に作曲を,学び,昭和4年頃から作品を発表している。昭和5年日本で最初の作曲家連盟が15人で結成されたとき,彼はその1人として名を連らねている。昭和14年の毎日コンクールでは彼の「田園舞曲」が第2位,15年には「交響的序曲」が第1位に入選し,その後彼の作品は多くの注目をあびてきた。このような日本の草分け的な作曲家のなかで,彼のように現在でも積極的な作曲活動を進めている人は数少ない。作品には管弦楽や室内楽などがあるが,とくに声楽曲では日本語の持味を生かした詩をとりあげ,鋭い表現をもつ独自の作品を書いている。

 この曲は,自作の詩によって書かれている。詩は一昨年世を去った弟の告別式の席上で作曲者自身が語ったものを整理して作られた。子供時代の想出を感じたままに述べているこの詩句には,告別式のジメジメした空気とはちがった何か明るいものがただよっているが,この音楽についても彼は「つとめて明るい曲にと志向しました」と言っている。

田村 一郎