プ ロ グ ラ ム |
1.(a)ドゥルコー・ソルト ハンガリー参加作品 <ピアノのための“チャンス”> |
ピアノ・中野 洋子 |
(b)ナトコ・デフチッチ ユーゴ参加作品 <ピアノのための“コラチ”> |
ピアノ・中野 洋子 |
2.ラーング・イストヴァーン ハンガリー参加作品 <オーボエとピアノのための“イムプルシオーニ”> |
オーボエ・原田 知篤 ピアノ・窪田 隆 |
5.伊東 英直 <ヴァイオリンとピアノのための“COESSE”> |
ヴァイオリン・伊藤 美枝 ピアノ・久保 春代 |
4.藤田 耕平 <ヴァイオリンとピアノのための「庭」> |
ヴァイオリン 東 健三 ピアノ 藤田 耕平 |
5.松葉 良 <ヴァイオリンとチェロのための“コンポジション”> (a)前奏曲とパスピエ (b)二つのコンポジション |
ヴァイオリン 鳩山 寛 チェロ 山崎 悳裕 |
6.山岸 磨夫 <ピアノトリオのための“乱”> |
ヴァイオリン 初鹿野 司 チェロ 服部 善夫 ピアノ 笠間 春子 |
7.塚谷 晃弘 <ヴァイオリンとピアノのための作品> |
ヴァイオリン 鳩山 寛 ピアノ 横山 悦子 |
8.石 井 五 郎 <中原中也“サーカス”口上,歌,クラリネット,打楽器のために> |
バリトン 友竹 正則 クラリネット 船橋 忠雄 打楽器 針生 淳 |
――全 曲 初 演―― |
曲目解説 田村 進
1.(a)ドゥルコー・ソルト;ピアノのための“チャンス”
ドゥルコー(ハンガリーでは日本と同様,姓を先に書く)は1934年生まれのハンガリーの作曲家で,ブダペスト音楽アカデミーでF.ファルカシュに作曲を学び,その後イタリアでペトラッシにも学んでいる。彼は内外から注目されている代表的な中堅作曲家で,管乾楽曲「ハンガリー・ラプソディ」(1965)のように,強烈な劇的表現と豊かな音色に特徴がある。
彼は室内楽もたくさん書いているが,最近はセリエルの手法を独自に駆使して,こういう特徴を更にきわだたせている。この曲は1974年に出版されたもので,こういう彼の作風がはっきりと見られる。
(b)ナトコ・デフチッチ;ピアノのための“コラチ”
デフチッチは1914年生まれのユーゴスラヴィアの作曲家で,ザグレプ音楽アカデミーのピアノ科を卒業後,作曲も学んだ。現在,作曲家及び同校の教授として活躍している。ユーゴでは西欧の新技法と結びついた前衛的作曲家,例えばサカッチ,デトーニ,ケレメンなどが主流を占めているが,他方伝統的な手法に基づいて現代的感覚を求めている作曲家も多く,その指導的位置を占めている人がデフチッチである。彼は特に室内楽やピアノ曲のような小曲で繊細な味を出している。
この曲は1965年の作。“コラチ”とは舞踏の意味で,5曲からなる舞踏組曲だが,今夜はその中から3曲だけ選んで演奉する。
第1曲; | 最初の曲で,奇怪な踊りと名付けられた7/8拍子の曲,演奏時間は約1分半。 |
第2曲; | 3番目の曲で,軽快な踊りと名付けられた2/4拍子の曲,約1分。 |
第3曲; | 最後の曲で,乱れた踊りと名付けられた3/4拍子の曲,約1分半。 |
2.ラーング・イストプァーン;オーボエとピアノのための“イムプルシオーニ”
ラーングは1933年生まれのハンガリーの作曲家で,ブダペスト音楽アカデミーでJ・ヴィスキとF・サボーに作曲を学んだ。1958年以降西欧の新技法を吸収しながら独自の音楽を書き,内外から注目されている代表的な作曲家で,現在は国立人形劇場の音楽監督もつとめている。
彼はハンガリーの詩人ユーゼフの詩による「室内カンタータ」(1962)やファシズムの犠牲者に捧げた管弦楽「葬送音楽」(1969)などのように古典的な構成や手法も取入れながら現代的な感覚をもつ鋭い作品を書いている。
この曲ははじめはオーボエと室内楽のために書いたが,同時にオーボエとピアノ用にも編曲し1970年に出版した。“イムプルシオーニ”(衝撃)という題名が示すように,鋭角的な音の響きを求めた作品で,原曲は6つの部分に分かれているが,今回はそのうち4曲を選んで演奉する。第1曲目はイムペトウォーソ4/4拍子で激情的な速い曲。第2曲目はコン・フォコ3/4拍子で,クラスタ一昔を含むピアノの重厚な響きのうえに刻みこむようなリズムと旋律が火花のようにうちだされている曲。第3曲目はアパショナート・コン・モト。ずっしりとしたピアノの響きのうえにオーボエが自由に情熱的に奏される曲。第4曲目はカルモ(穏やかに)で,静かな鋭いオーボエの音を主体にした曲。
3.伊東英直;ヴァイオリンとピアノのための“COESSE”
伊東は1933年福島で生まれ,作曲を松平頼則に学んだ。1953年毎日音楽コンクール作曲部門室内楽曲に入賞,1956年以降グループ20・5同人としてもピアノ曲や室内楽を発表してきた。1965年に発表したフルートとピアノのための「アポカリプス」(黙示)は注目され,1973年にガッツェローニのフルート,カニーノのピアノで再演されてソニー・レコードにも収録されている。
この曲で彼はデリッサンドやピアノのクラスター音の効果を求めながら,力強くダイナミックに曲をもりあげている。現代的な鋭い感覚をみなぎらせた技巧的な作品である。作曲者はこの曲について,「“COESSE”とは共存の意味で,2つの相対立するものが,そのまま相対立しながら,しかも協力し影響しあって存在していくことで,このヴァイオリンとピアノのために選ばれた」と述べている。
4.藤田耕平;ヴァイオリンとピアノのための「庭」
藤田は1945年横浜で生まれ,1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には「ギター,クラリネット,ピアノのための秋の歌」,「フルート,ヴィオラ,ギターのための音楽第2番」,「ヴァイオリンとピアノのためのインプロヴィゼーション」,「弦楽四重奉曲」,「二つのフルートのための秋」,舞踊付帯音楽「祈り」,「かんたん」などがある。
彼は音の積み重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し,個性的な作品を書いているが,この曲にもそういう彼の深い探究心が感じられる。
この曲について作曲者は次のように述べている。「今,私は横浜の三渓園の近くに住んでいて,時々,その中を散策することがある。“庭”は“秋の歌”シリーズの中にあるもので,そこでは主として,音色の多様性ということが考慮されている」
5.松葉 良;ヴァイオリンとチェロのための“コンポジション”
(a)前奏曲とパスピエ (b)二つのコンポジション
松葉は1919年東京で生まれ,1940年青山学院大学卒業後,日大芸術科で学び,作曲を池内友次郎と貴島清彦に師事した。立軌会々貝として画壇においても活躍し,詩情に富む色彩豊かな作品を画いている。彼はヨーロッパの古典的伝統に根をおろしながらも,大胆に現代的な技法をとり入れて,独特の風格をもつ抒情性豊かな音楽的表現をつくりだしている。主要作品には弦楽のための「詩曲」,「主題と変容」,交響詩曲「心象風景」,「ピアノのための古典組曲」,「オーボエのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとヴィオラのためのパルティータ」,「オーボエとクラリネットのための作品」のほか劇音楽,バレエ,映画音楽などがある。
彼はこれまで現代的感覚をもつ“響き”をどううちだし,どう発展させていくかという課題に取組み,当初はセリエルの手法を使ってオーボエやクラリネットにそれを追求した。1976年1月に発表した「無伴奉ヴァイオリンのための古典的パルティータ」では古典的手法で弦楽器にそれを求めたのだが,今回のこの曲ではいわばこれまでの手法を集約し,ヴァイオリンとチェロという2つの弦楽器の重層的な響きを通して,新しい音世界を獲得している。
曲は2つに分かれている。前半はバロックスタイルのプレリュードとパスピェで,かなり古典的スタイルを追求し,後半は前半の要素から一つのセリエルを導き出し,それを現代的に展開して前半と対比させている。
6.山岸磨夫;ピアノトリオのための“乱”
山岸は1933年東京で生まれ,1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交響曲「えんぶり」,交響的変容「かるら」,オペラ「ゆや」,交声曲「夕鴨」,「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」,「フルート,ヴァイオリン,ギターのトリオ」,「ギターとフルートのための2つの律と気」(昭和50年度武井賞受賞),「フルート四重奏曲」のほか,合唱曲「神楽歌」,混声合唱のための浄瑠璃「胸割」など多くの合唱曲がある。このように彼は日本の題材にイメージを求め,平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いている。
この曲について作曲者は,「ヴァイオリン,チェロ,ピアノのための“乱”全体は序,破,急の構成になっており,ピアノが奏されると,ヴァイオリン,チェロはその背景を変えていく一種の変奏曲の形であるが,あくまでも主題的な変奏ではない。乱にはとくに意味はなく,一種のイメージである。私の頭の中には阿波の人形浄瑠璃の舞台転換の妙技を思出すのだが‥‥‥」と述べている。
7.塚谷晃弘;ヴァイオリンとピアノのための作品
塚谷は1919年東京に生まれ,1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが,戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し,それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。交響組曲「祭典」が1950年NHK佳作賞,またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及び個人〉を受けている。主要作品には「クラリネット・ソナタ」,バレエ曲「現代の神話」,「弦楽と打楽器のための組曲」,「フルート・ソロのための4つの小品」,「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」のほか能に基く室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され,2,3の作品がしばしば演奉されているが,最近では「金管のための音楽」(1971)がルーマニアでも演奏された。
この曲について作曲者は,「この曲の素材は雅楽にヒントを得た。この曲はピアノが旋律を提示しそれをヴァイオリンが受けて展開するというようなものではない。
音型やモチーフをピアノとヴァイオリンが互いにやりとりすることなく,それぞれ独立した存在として異なった役割を果しながら一つの造形に達していく。自由な1楽章形式で書いた」と述べている。
8.石井五郎;中原中也“サーカス”口上,歌,クラリネット,打楽器のために
石井は1903年秋田に生まれ,山田耕筰や成田為三に作曲を学び,昭和4年頃から作品を発表している。昭和5年,日本で最初の作曲家連盟が15人で結成されたとき,彼はその1人として名を連らねている。昭和14年の毎日コンクールでは彼の「田園舞曲」が第2位,・15年には「交響的序曲」が第1位に入選し,その後彼の作品は多くの注目をあびてきた。このような日本の草分け的な作曲家のなかで,彼のように現在でも積極的な作曲活動を進めている人は数少ない。作品には管弦楽や室内楽などがあるが,とくに声楽曲では日本語の持味を生かした詩をとりあげ,鋭い表現をもつ独自の作品を書いている。最近作には「津軽の万言詩による三曲」,「弟英六との告別」などがある。
この曲は石井が少年時代に木下サーカスなどの曲馬団にとりつかれ,前口上付きの空中ブランコに胸を躍らせ,むやみに騒ぐ観衆の様子も面白かった頃のイメージに基づいて書かれている。中原中也の詩は短いので,これに作曲者自身が書いた口上を付け,更にサーカス楽団がよく使ったクラリネットも配して曲全体の雰囲気をもりあげている。
田村 一郎