プレゼンテーションそのⅩⅣ(14回)現代の作品


1983年1月19日(水)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会






プ ロ グ ラ ム
1.J.オルクシニク
  ポーランド参加作品 <ヴァイオリンとピアノのためのゼクヴェンツ>
ヴァイオリン・恵藤 久美子
ピアノ・中野 洋子
2.石井 五郎  <秋 風 語> <日記>
バリトン、レジェ・村田 健司
ピアノ・平尾 はるな
5.山岸 磨夫  <無伴奉チェロのための二章>
チェロ・松 下 修 也
4.松葉 良
  <オンドマルトノとフルート・オーボエ・バスーンのための作品 ”浄化“>
オンドマルトノ・原田 節
フルート・大竹 泰夫
オーボエ・原田 知篤
バスーン・加藤 洋男
5.石井 基斐  <幻聴>
打楽器・菅原 淳
コントラバス・永島 義男
6.塚谷 晃弘  <ヴァイオリンソロのための音楽>
ヴァイオリン・小林 健次
7.藤田 耕平  <7奏者のための“黙示”>
 横浜ノネット
フルート・大竹泰夫 オーボエ・原田知篤 クラリネット・金元
1st.ヴァイオリン・西川玲子 2nd・ヴァイオリン・杉浦由紀子
 ヴィオラ・神田幸彦 チェロ・斎藤章一

曲目解説  田村 進
1.ヨアヒム・オルクシニク;ヴァイオリンとピアノのためのゼクヴェンツ

 オルグシニク(1927~)はコスチシヌで生まれ,ワルシャワ音楽院で作曲をシェリゴフスキに学んだ。1960~64年は作曲の傍ら音楽雑誌記者,1965~70年はワルシャワ放送局の音楽部長,現在はAA音楽出版の編集長となっている。主要作品にはバリトンと管弦楽のための「抒情歌」(1965),第2弦楽四重奏曲(1968),フルート,クラリネット,チェロ,ピアノのための「音楽」(1980)など声楽曲や室内楽曲が多い。

 この曲は1976年の作で,曲は4つの部分に分かれているが,曲想や演奏はそれぞれ性格が異なっている。小節線がないので,あるていど演奉者達の自由な演奏に任せられているが,ヴァイオリニストとピアニストはこの曲の内的構成と相互関係を把握して演奏することが要求されている。大体の演奏時間も指定されている。全体は下記の4曲で構成されているが,演奏は最ノト限2曲,順序も演奏者の好みに任せられている。なお曲名のゼクヴェンツとは反復進行,つまり,ひとつの短い楽句を同じ音型でくりかえすことを意味することばである。

              1.Veloce 速く(約2分20秒)
              2.Assonato 非常に眠く(約4分20秒)
              3.Con moto 動きをもって(約1分10秒)
              4.Espansivo 情緒豊かに(約2分50秒)
2.石 井 五 郎;秋 風 語,日 記

 石井五郎は1903年秋田に生まれ1978年に他界した。舞踊家の故石井漠は実兄,作曲家の石井欽と石井真木は彼の甥,石井基斐は彼の子供というように,その一族には芸術家が多い。
 彼は東京の大成中学卒業後,山田耕筰や成田為三に作曲を学び,昭和4年頃から作品を発表した。昭和5年,日本で最初の作曲家連盟が15人で結成されたとき,彼はその1人として名を連らねた。昭和13年パリに留学して作曲を学び,昭和14年の毎日コンクールでは彼の「田園舞曲」が第2位,15年には「交響的序曲」が第1位に入選した。その後彼の作品は多くの注目をあびた。作品には管弦楽や室内楽などがあるが,とくに声楽曲では日本語の持味を生かした詩をとりあげ,鋭い表現をもつ独自の作品を残した。
 特に戦後は,彼にとって,日本語のもつ躍動的な生命力と美しさを生かした歌曲を書きたい,書かねばならない,そういう意欲に燃えた日々であったと言ってよい。

晩年の代表作には「草野心平の詩による蛙の歌」(1971),「津軽の万言詩による三曲」(1973),「弟英六との告別」(1974),「三つの歌曲」(1976),「サーカス」(1976)などがある。

 彼は音楽文化協議会の設立にも中心的役割を果した一人であった。したがって,この「プレゼンテーション」では,彼の作品を未発表あるいは既発表であるとを問わず,今後引続きとりあげる予定である。

 今回は2曲とりあげた。この「秋風語」と「日記」は1970年10月に丹羽勝海氏(ピアノ伴奏・藤田耕平)によって初演された。
3.山 岸 磨 夫;無伴奏チェロのための二章

 山岸は1933年東京で生まれ1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだし1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交声曲「夕鴫」,「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」,「フルート,ヴァイオリン,ギターのトリオ」,「フルートとギターのための気と律」(昭和50年度武井賞受賞),「弦楽四重奉曲Ⅰ」,「Ⅱ」,「ピアノトリオのための”乱”」,「ヴィオラとピアノのための変容Ⅰ」,「変容Ⅱ」のほか,合唱曲「白鳥帰行」,オペラ「温羅の砦」,「美作民謡による交響曲」などを書き上演されている。彼は日本の題材にイメージを求め,平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」は昨年ハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行なっている。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
「言葉を伴わない,平曲の様な音楽を書いてみたいという衝動にかられながら,琵琶以外の楽器では考えられないとも思ってしまう。然し,チェロで平曲の世界を見るのではなく,これに比べ得る世界を垣間見ることが出来たらと思いつつこの曲を考えてみた。静かな,そして激しい,二つの口説になればと思っている。」
4.松葉 良;オンドマルトノとフルート・オーボエ・バスーンのための作品「浄化」

 松葉は1919年東京で生まれ1940年青山学院大学卒業後,日大芸術科で学び,作曲を池内友次郎と貴島清彦に師事した。立軌会々貝として画壇においても活躍し,詩情に富む色彩豊かな作品は広く注目されている。彼はヨーロッパの古典的伝統に根をおろしながらも,大胆に現代的な技法をとり入れて,独特の風格をもつ抒情性豊かな音楽的表現をつくりだしている。主要作品には絃楽のための「詩曲」,「主題と変容」,交響詩曲「心象風景」,交響詩曲「祈りの叫び」(NHK委嘱),「弦三重奏曲」,「オーボエのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとヴィオラのためのパルティータ」,「ヴァイオリンとチェロのための“コンポジション”」,「無伴奏チェロのための作品第1番」のほか劇音楽,バレエ,映画音楽などがある。

 なおオンドマルトノはフランスのモリス・マルトノ(1898~)が発明した電子鍵盤楽器で1928年に公開。音は3つのスピーカーから発せられ,この組合わせで様々な音色を作る。しかし単旋律しか弾けない。音域は5オクターブから7オクターブ。

 作曲者はこの曲について,「この曲はオンドマルトノの持つ神秘的な音色を考えて一つのモチーフを設定し,そのモチーフによるメタモルフォーゼともいえるものです。その響きはマイルドでオンドマルトノの特性が発揮できればと願っております」と述べている。
5.石井 基斐;幻聴

 作曲者はこの曲については何も述べていない。
6.塚谷 晃弘;ヴァイオリンソロのための音楽

 塚谷は1919年東京に生まれ,1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学びピアノ曲を発表したが,戦後1949年に清瀬保二や松平頼則らと共に「新作曲派協会」を結成し,それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。交響組曲「祭典」が1950年NHK佳作賞,またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及び個人)を受けている。主要作品には「クラリネットソナタ」,バレエ曲「現代の神話」,「弦楽と打楽器のための組曲」,「フルート・ソロのための4つの小品」,「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」,「コントラバスのための三章」(昨年8月,イギリスのマントーにおける国際コントラバス大会で演奏された)のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され,2,3の作品がしばしば演奏されている。

 この曲について作曲者は次のように述べている。
「この曲はヴァイオリンソロの技法をゆたかに問いつめたも
のである。全一楽章。」
7.藤田 耕平;7奏者のための「黙示」

 藤田は1945年横浜で生まれ,1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には「二つのフルートのための秋」,舞踊付帯音楽「祈り」,「かんたん」,ヴァイオリンとオーボエのために書いた「雅歌」,2台のピアノのための「八百屋お七の舞台への音楽」などがある。
 彼は音の積み重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し,個性的な作品を書いている。ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴィオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1,2位なしの3位に入賞している。

 作曲者は今回の曲について「この曲は,日本原爆詩集に収められている津田欣二詩『骨片のような雪がふる』による男声合唱曲の対になるように書かれています。文学上のテキストによって自分がどの位遠くまで行けるか,一度はやってみようと思っていたことです。全体は5つの部分から成っています。」と述べている。
 作曲家協議会会員。

田村 一郎