プレゼンテーションそのⅩⅩⅥ(26回)現代の作品


1996年1月26日(金)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会






プ ロ グ ラ ム
1・W・ルトスワフスキ・「舞踏前奏曲
クラリネット・二宮和子
ピアノ・中野洋子
2・藤田耕平・ピアノのための「回廊」
ピアノ・中野洋子
3・寺内園生・「Active」
ヴァイオリン・植村 薫
4・安生 慶・チェロとピアノのための“Legendo”
ピアノ・雨田のぶ子
チェロ・雨田光弘
5・山岸磨夫・ソプラノ・フルート・ピアノのためのトリオ―琉針―
ソプラノ・佐々木典子
フルート・西畑正三
ピアノ・落合 敦
6・伊藤隆太・「Duetto No.8 alla Aki e Setsugetsuka(雪月花)」
尺八・三橋貴風
十七紘・菊地悌子
7・(故)塚谷晃弘・オーボエ・ソロのための1・「Gのための頌」2・「採蓮花歌」
オーボエ・原田知篤

 曲目解説  田村 進(東京音楽大学教授)

 「プレゼンテーション」も1968年以来、海外の準会員も含めて、会員の初演曲をほぼ毎年発表し、今回で第26回を迎えた。しかし、昨年の10月13日、全員の塚谷晃弘氏が急逝した。毎回注目される新作を書き、創作意欲に燃えていた時だっただけに惜しみても余りあることであった。今回は、原田知篤氏に献呈され、本会では未発表の曲を同氏の御好意で、追悼演奏として、上演させて頂くこととなった。合の代表である松葉良は、立軌会合員として画壇の重鎮的な存在となって活動しているが、プログラムの表紙の絵は、今回のコンサートのために描いたものであり、今後も毎回描くことになっている。
 1.W.ルトスワフスキ・「舞踏前奏曲」

 ヴイトルト・ルトスワフスキWitold Lutoslawski(1913~1994)は20世紀が生んだポーランドの偉大な作曲家である。1993年11月、第9回「京都賞」受賞と講演のため来日したが、94年2月、惜しくもワルシャワで急逝した。彼の作品は、1984年、89年、95年のプレゼンテーションで演奏されたが、本日の曲もこの不世出の巨匠の思い出のために取上げた。
 彼は今世紀ポーランドの苦難と激動の時代を生き抜き、独創的手法で新しい音楽を切拓いた。“偶然の対位法”によるユニークな音響、現代的技法を生かした和声とリズムは他の追随を許さない。彼の音楽には、自然な流れがあり、構成は端正で理論的、表現は繊細華麗でディナミック、音色は豊かで多彩であり、交響曲、協奏曲、室内楽曲など各分野で傑作を残した。この曲は、1954年に作曲された。彼は50年代に民謡と結びついた器楽曲や歌曲を書いているが、ハーモニーや音色では調性に捉われない現代的語法を追求した。この曲でもリズムやメロディの扱いにユニークな手法がうかがえる。
 曲は5つの部分からなり、演奏時間は約7分と記されている。
アレグロ・モルト
  2/4拍子で始まるが、拍子は絶えず変化し、しかも両楽器の異なった拍子を重ね合せた手法なので、躍動的なリズムをもつ曲となっている。メロディーも短2度や3度の音程によるものが多い。このようなリズムとメロディーの特徴は他の4曲にもほぼ共通して見られる。
アンダンテイーノ
  活力に溢れたゆっくりとした曲。
アレグロ・ジョコーソ(速く、おどけて)
  異なった拍子の重ね合せによるリズムの変化と両楽器のスタッカートが効果的な曲。
アンダンテ
  短3度と半音程の組合せによるピアノの低音部のメロディーで始まる表情豊かな曲。
アレグロ・モルト
  これまでのリズムとメロディーの手法を集約したような生き生きとした曲。

2.藤田耕平・ピアノのための「回廊」

 藤田は1945年横浜で生まれ、1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には、2台のピアノのための「八百屋お七の舞台への音楽」、七奏者のための「黙示」、管弦楽のための「星の刻」などがある。
 彼は音の積重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し、個性的な作品を書いている。
ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴイオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1、2位なしの3位に入賞している。「黙示」は1985年2月サンフランシスコでの現代音楽週間で演奏されると共に、NHK・FMより放送された。

 作曲者は今回の曲について次のように述べている。
 「以前、京都・金閣寺を数年続けて訪れたことがあります。順路にそって進むと、見る者のどのような位置からも、建物と池と樹々の織りなす図式に、この庭園を築いた人物の眼差しを感じます。あたかも「樹々の回廊」を歩むかのように・・・・・・。」
3.寺内園生・「Active」

 ピアノを中野洋子と伊達純に、作曲と和声を寺内昭、川井学に学ぶ。
 寺内は1959年千葉に生まれ、高校卒業後渡独し、マリアフンク女史に作曲法を学んだ。代表作には、既出版のピアノ曲集「水の城・イリュージョン」「めざめ・静かな風」「斑鳩」のほか、子供の為のピアノ小曲集として、「メルヘンの団」「小さな夢」「遊園地・宇宙船」(音楽之友社)「動物の大行進」(音楽の友社・CDフォンテック)「ピアノでひこうグリムのお話」〈東京音楽社)「マザーグース」(全音・CDフォンテック〉 などデリケートな感覚と想像力豊かな抒情的作品がある。
 日本作曲家協議会会員及び音楽文化協議会会員。

 作曲者はこの曲について次のようにのべている。
 「Activeは、行動的 積極的というような意味に訳されますが、この曲では、活発な行動というよりも、精神性の積極的な様をイメージして書きました。」
4.安生 慶・チェロとピアノのための“Legendo”

 安生は1935年東京に生まれ、成城学園より桐朋学陶音楽科に進み、管楽器を専攻。卒業後、作曲を棚瀬正氏に師事。日本現代音楽協会全員。
 主要作品には「風影一二胡とオーケストラのために、ViolinとPianoのための挽歌」、「彩画-ViolaとPianoのための幻想曲」、「弦楽四重奏曲」、「8Violaのための詩曲」、「彼方からの風景-Harpのために」、「CelloとPianoのために(♯2)」、「ピアノのための諾詩曲」、M・Sqo.Pfのための「枯野」このほか歌曲「黄泉のくに歌」(詩・花輪莞爾〉、および「酒呑童子」(詩・花輪莞爾)、などがある。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
 「チェロとピアノによる物語風の作品で、モノローグ(チェロsolo〉、プロローグ(ピアノ)、エピソード、モノローグ(ピアノ)、エピソード、プロローグ、モノローグ、
と7つの部分がややアーチ形を作るように連続している。
 チェロの独り言で始まるが、二つの楽器のついたり、離れたりの関係が進むなかで、いつのまにか物語が織り上げられて行くようにと思っている。」
5.山岸磨夫・ソプラノ・フルート・ピアノのためのトリオ ―琉歌―

 山岸は1933年東京で生まれ、1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交声曲「夕鶴」、「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」、「フルートとギターのための気と律」〈昭和50年度武井嘗受賞)、「弦楽四重奏曲Ⅰ」、「Ⅱ」、「ヴィオラとピアノのための変容I」、「変容Ⅱ」のほか、合唱曲「白鳥帰行」、オペラ「温羅の砦」、「美作民謡こよる交響曲」、「交響曲美作Ⅱ」「管弦楽のための変容」、「二台のピアノとオーケストラのための協奏曲」などを書き上げ上演されている。彼は日本の題材にイメージを求め、平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作清軌を行っている。現在、作陽音楽大学教授。

 披はこの曲について、次のようにのべている
 「昔、大学を出て中学校の音楽の教員をしていた時、御指導いただいた、故見里朝慶先生の名著『琉歌の研究』のなかから数首の歌を選び、新しい調べとした。古くから琉球に歌い継がれてきたなかの、男女の愛を歌ったものは、何と秘めやかで悲しく、そして美しいことだろう。」
6・伊藤隆太・「Duetto No.8 alla Aki e Setsugetsuka(雪月花)」

 伊藤は1922年、広島児呉市に生まれた。求京大学医学部を卒業し、かたわら作曲を池内友次郎、諸井三郎、高田三郎に学んだ。第19日本音楽コンクール管弦楽作曲部門で第1位ののち、琴曲の分析から邦楽器の作品も書き、芸術祭、米国現代コンクールなど計12の賞を受けた。
プレゼンテーションにも第18回以後、意欲的な作品を発表している。

 今回の曲について作曲者は次のようにのべている。
 「秋から春に至る季節感を三部構成の器楽曲にした。素材の取扱い方は吉沢検校『古今組・秋の曲、新古今組・雪月花』を出発点とした。これら2曲の前弾きは『楽筝譜』にある曲を思わせる。吉沢検校は萩野検校に琵琶と秘曲を習って薫陶を受け、これらの2曲では自由に筝曲化した。『楽筝譜』の古い譜面にある曲は平安貴族の『管絃の遊び』に用いられ、これらを基準にして即興的な取扱を加えたと考えられている。原型は唐から伝わった『大唐師・孫賓譜』にみられ、平安末期の『仁智要録、類筝治要の撥合せ半帖』に残っている。
 これらの古典的な譜面を五線譜に解読したのは山口庄司氏である。吉沢検校は当時の新しい手法を加えて筝組歌を作曲した。作曲者は、さらに新しい構成と展開の器楽曲を目指した。」
7・(故)塚谷晃弘・オーボエ・ソロのための1・「Gのための頌」2・「採蓮花歌」

 塚谷晃弘氏は1995年10月13[1急逝した。1968年、この「プレゼンテーション」の創設に力を姦し、それ以来、多くの傑作を残してきた。
 彼は1919年東京で生まれ、1942年東京大学を卒業。在学中から諸井三郎に作曲を学ぶ。戦後1949年に「新作曲派協会」に参加。1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及個人)を受けている。主要作品には「弦楽と打楽器のための組曲」、「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」、「コントラバスのための三章」(1981年8月〉のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした披の現代的表現は海外からも注目され、2、3の作品がしばしば演奏されている。

 今夜演奏される第1曲〈Gのための頒〉 と第2曲 〈採蓮花歌〉 は原田知篤氏の依嘱により1973年に作曲され、同氏に献呈された。初演は、1974年1月、東京文化会館小ホールで行われた。

 作曲者はこの曲について、次のように述べている。
 「第1曲はGの音を中心に展開しつつ、ひとつの抽象模様を企図したもの。第2曲は、西川満氏のエキゾティックな“華麗島”(台湾)の情趣を描いた〈採蓮花歌〉に感銘を得て作曲した。」

田村 一郎