プレゼンテーションそのⅤ(5回)現代の作品


1973年11月26日(月)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会






<プログラム>
1.アンジェイ・ドボルウォルスキ ANDRZEJ DOBROWOLSKl
  ポーランド参加作品 <マグネチックテープとオーボエのための音楽>
オーボエ 原田 知篤
2.テュドール・チョルテア TUDOR CLORTEA
   ルーマニア参加作品 <マラムーレス民謡による四つの舞曲>
                     1.クリスマス・キャロル
                     2.ホラ
                     3.歎きの歌
                     4.バルバテスクの踊り
ピアノ 中野 洋子
5・寺原 伸夫 NOBUO TERAHARA
       <絃楽四重奉曲>日本民謡による五章
                  1.子守歌 2.手まり歌 3.草刈り歌
                  4.遊び歌 5.シャシャゴ
新星日本弦楽四重奏団
4.山岸 磨夫 MAO YAMAGISHI
          フルートとギターのための<気><律>
フルート 湯川 和雄
ギター 芳志戸 幹雄
5.松葉 良 RYO MATSUBA
    <無伴奏オーボエのためのパルティータ>
          Ⅰ前奏曲   Ⅱメヌエット a.ドウブル b.ドウブル
オーボエ 原田 知篤
6・石井 基斐 MOTOHI ISHII   <LIGHT!‥‥‥end>
フルート 峰岸 壮-
バーカッション他 定成 庸二
7.塚谷 晃弘 AKIHIRO TSUKATANl   <提琴のためのファンタシア>
ヴァイオリン 小林 健次
ピアノ/タムタム(助奏)藤田 耕平
8.藤田 耕平 KOHEI FUJITA   <弦楽四重委曲>
新星日本弦楽四重奏団
9.石井 五郎 GORO ISHII   <津軽の方言詩による三曲>
                    1.独自  2.雑魚釣  3.夜露
バリトン 友竹 正則
ピアノ 和田 則彦
10.マンフレッド・シューベルト MANFRED SCHUBERT
         東独参加作品 <木管五重奏曲>  Ⅰ.Ⅱ.Ⅲ.
フルート 湯川 和雄
オーボエ 三島 武義
クラリネット 山本 洋志
バスーン 堂坂 清高
ホルン 笠松 長久
――全曲初演――

曲目解説   田村 一郎
アンジェイ・ドプロヴォルスキ  Andzej Dobrowolski

 1921年生まれのポーランドの作曲家。クラクフ音楽院でマラウスキに作曲と理論を学ぶ。現在ワルシャワ音楽院の教授で作曲と理論を教え,最近までポーランド作曲家同盟の書記長をつとめるなど作曲家としてだけでなく実務面でも活動している。代表作には「オーケストラのための音楽」のほか各種の室内楽があり,具象音楽や電子音楽も多く,鋭い表現をもつ前衛的な手法を用いている。
 本日演奏される作品は1965年に作曲したもので,ある一定の高さをもつクラスター,高さが不確定な一種の打音,この打音の連続,それから残響,こういう4つの音素材にオーボエのソロが加わって形作られている。彼は左右にスピーカーをおいて,それぞれちがった音響を出させ,その中間にオーボエソリストが位置して演奏するように仕組んでいる。本日はこの4つの音素材については,ワルシャワ放送局電子音楽スタジオであらかじめ製作し録音したものを使用する。演奏時間は9分。秒刻みに演奏の指示が厳密になされており,ソリストは当然のことながらこれにシンクロナイズさせねばならないうえに,技巧的な演奏も要求される。
テュドール・チョルテア  Tudor Ciortea

 1903年生まれのルーマニアの作曲家。クルジュ音楽院でピアノを修めたのち,パリでデュカやブーランジェに作曲を学ぶ。戦後はブカレスト音楽院で理論を教え,作曲家同盟副議長もつとめた。主要作品には「交響組曲」のほか室内楽などピアノを主体にしたものが多く,ルーマニア民謡を素材にして現代的感覚をもつ作品を多く残している。
 この「ピアノのためのマラムーレシュの4つの歌」は1967年に出版されている。マラムーレシュはルーマニアの西北部にある地方で,メリスマ的旋律による哀愁をおびた歌,激しく力強い踊りなど他の地方とは全くちがった独特の歌と踊りをもつところで知られている。チョルテアはこの地方の歌と踊りを素材にして民謡のもつエネルギーと雰囲気を現代的な手法でみごとに再創造している。曲は次の4つの部分にわかれている。

       1.Colindvariat(クリスマス・キャロル)
       2.Hora Lunga(ホラ)
       3.Bocet(欺きの歌)
       4.Joc barbatesc(バルバテスタの踊り)

 1はいろいろなクリスマス・キャロルを素材にしたもの。この地方のキャロルは教会調や古い民族的旋律を使い,拍子も変化にとんでいる。
 2は古くからある有名な踊りである。3は葬式のときに死者の親類の女性か,またはごく親しい友人が家や道路などで語るように歌う歎きの歌で,これを Bocet といい,この地方に古いものが残っている。歌詞はほぼ即興的だがマラムーレシュ地方ではあるていど型がきまっている。4は舞曲で,この地方のものは旋律も単純で短く刻むような早いリズムをもち,歌はその問を縫うようにしてヘテロフォニックに歌われる。
マンフレッド・シューベルト  Manfred Schubert

 1937年生まれのドイツ民主共和国(東ドイツ)の作曲家。現在東ベルリン市に住み,作曲家及びベルリーナー・ツァイトウンクの批評家としても活躍している。ベルリン大学で音楽教育学を学んだのち,ドイツ芸術アカデミーで Rudolf Wagner-Regeny に作曲を学ぶ。これまで管弦楽曲,室内楽曲,声楽曲等多数の作品を書き,ドイツ民主共和国の中堅作曲家として高く評価されている。主要作品には舞曲(1966年プラーハの春祭賞),弦楽狂詩曲(1969年ドイツ民主共和国賞),ラーゲル四重奏曲(1971年ベッヒャー銀賞)などのほか交響組曲,協奏曲,ピアノソナタがある。
 フルート,クラリネット,オーボエ,ホルン,バスーンのための五重奉曲「モメンツ・ムジコー moments musicaux」は1967年の夏作曲された。シューベルトはこの曲について次のようにのべている。「私は非常にちがった響きと音色をもつ木管五重奏を,以前から書いてみたいと思っていた。この曲は3つの楽章にわかれているが,それほどきっちりしたものではなく,比較的自由に書き,リズムにも変化をもたせている。第1楽章では各パートの音型とひびきの変化によってクライマックスを形作り,朗唱的でたっぷりと歌う第2楽章ではスケルツォふうの部分を投入して対称の効果をあげた。そしてフィナーレでは力動的なエネルギーをしだいに高めるように書いた。私は有名なフランツ・シューベルトの「楽興の時 moments musicaux」のようなものを描こうとしたのではなく,あるていど色彩的な生き生きとした音楽的瞬間を創りだしたいと思ったのだ。」
 曲は3つの楽章にわかれている。
          1.フリッシュ Frisch(元気よく)
          2.ゲメヒリヒ Gemaechlich(静かに)
          3.ベヴェークト Bewegt(生き生きと)
〔追 記〕なお現在,東・西ドイツ,ハンガリー,ユーゴスラヴィア,ルーマニア,ポーランド,チェコスロバキヤから多くの新作がこの会に寄せられている。次回以降これらの作品を上演する予定である。

田村 一郎