プ ロ グ ラ ム |
1.H.M.グレツキ・「4つのプレリュード」 |
ピアノ・中野洋子 |
2.イィジー コレルト・「All Blues for double bass and piano」 |
コントラバス・溝入敬三 ピアノ・志村 泉 |
3.山岸 磨夫・「メゾソプラノとピアノのために―小歌―」 |
メゾソプラノ・山口克枝 ピアノ・柳井和泉 |
4.藤田 耕平・「紅梅図」 |
フルート湯本洋司 ギター・原 善伸 十七弦・馬場信子 |
5.安生 慶・「風の軌跡」-Ⅲ- -ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのために- |
ヴァイオリン・田口美里 ヴィオラ・赤坂智子 チェロ・石川祐治 |
6.寺 内 園 生・「Wild」 |
ヴァイオリン・工藤由紀子 |
7.伊藤 隆太・「Duetto for Shakuhachi and 17Gen No.13.2001」 |
尺八・三橋貴風 十七弦・菊地悌子 |
曲目解説 田村 進
まず最初に、ちらしではW.ルトスワフスキの「2つの練習曲」を予定していたが、主催者の都合で、これを他の作品に変更したことを心からお詫び申上げ、御許し頂きたい。
「プレゼンテーション」も1968年以来、海外の準会員も含めて、会員の初演曲をほぼ毎年発表し、今回で第31回を迎えた。まさに21世紀幕あけの会である。
1.H.M.グレツキ・「4つのプレリュード」
ヘンリク・ミコワイ・グレツキ(1933~)はポーランドの代表的な作曲家で、交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」が90年代にCDで広まるにつれ、日本でも広く知られるようになった。彼は1955-60年、カトヴィツェ音楽大学でシャベルスキに作曲を学んだが、在学中から彼の作品は注目され、1958年の「碑文」や「シンフォニア“1959”」は国際現代音楽祭「ワルシャワの秋」で演奏された。
このピアノのための「4つのプレリュード」は作品1で1955年の作。強烈な音と繊細な音、速度や強弱の変化や構成に特異性をもつ彼固有のスタイルが、既にこの作品に見られる。演奏時間は8分。
Ⅰ | モルト・アジタート。ゆれ動くようなトッカータ風の曲を力強く終えて、歌謡的な曲となり、これをしめくくって、アンダンテとなり、冒頭を再現して力強く終える。 |
Ⅱ | レントーレチタティーヴォ。4つの書からなるマズルカ風のモチーフを低音部の7度の和音が微妙に色どり、悲しい歌を思わせる。 |
Ⅲ | アレグロ・スケルツアンド。速いスケルツオの曲。休みなく、次のⅣに入っていく。 |
Ⅳ | モルト・アレグロ・クワジ・プレスト、“ほとんどブレストに近いきわめて急速なアレグロ”の16分音符の旋律からなる巧妙なエチュードのような曲。 |
2.イィジー コレルト・「All Blues for double bass and piano」
イイジー コレルトは1943年プラハで生まれ、ブルノ音楽院でコントラバスを学び1968年卒業。その後ヤナーチェック音楽アカデミーで作曲をアロイス・ピノスなどに学び、1984年にはダルムシュタットの夏期講習にも参加した。1991年からプラハ音楽アカデミーで作曲理論を教えている。彼の作品は交響曲や室内楽などすべて器楽で占められている。「私はリズムの可能性の発展に興味があり、アフリカの民間伝承の打楽器奏者達の音楽、ガムラン、ジャズ音楽の中から着想を得て、それらのインスピレーションを現代音楽の全ての可能な手法で混合する。この私の作風を“ポリスティル”と呼ぶことができる。」と書いている。そして、今回の作品については「この基本主題は、ジャズトランペット奏者マイルス デイビスの“オールブルース”の彼自身の即興演奏からきている」と述べている。
3.山岸磨夫・「メゾソプラノとピアノのために-小歌-」
山岸は1933年東京で生まれ、1957年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カブリチオとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。主要作品には交声曲「夕鴨」、「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」、「フルートとギターのための気と律」(昭和50年度武井賞受賞)、「弦楽四重奏Ⅰ」「Ⅱ」、「ヴィオラとピアノのための変容Ⅰ」、「変容Ⅱ」のほか、合唱曲「白鳥帰行」、オペラ「温羅の砦」、「交響曲Ⅰ」、「管弦楽のための変容」、「二台のピアノとオーケストラのための協奏曲」「管弦楽のための前奏曲」などを書き上げ演奏されている。彼は日本の題材にイメージを求め、平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行っている。現在、くらしき作陽大学音楽学部教授。彼はこの曲について、次のようにのべている。
-小歌一室町時代に庶民から歌われた、閑吟集や隆達小歌のなかから、率直な愛と官能的にも感じられる歌五つを素材に、構成的な歌とした。
4.藤田耕平・「紅梅図」
藤田は1945年横浜で生まれ、1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。
彼は音の積重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し、個性的な作品を書いている。ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴィオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1、2位なしの3位に入賞している。「黙示」は1985年2月サンフランシスコでの現代音楽週間で演奏されると共に、NHK・FMより放送された。また、オーボエ・オンドマルトノ・弦楽合奏のための「時は、雨のように……」が、1996年春に、ピアノのための「Faraway」が2000年春に、それぞれNHK・FMより放送された。
彼はこの曲について次のようにのべている。
『今年6月、梅林で有名な庭園を散策しました。季節でなかったために、その見事さは、庭木の合間に幻影として垣間見るにとどまりました。私の中の、梅の花に象徴される日本的な世界がいくらかでも表出されるよう、今回は、あえて邦楽器を含んだ異質の楽器の組み合わせを用いましたが、十七絃については、伝統にこだわらない姿勢で創作しています。』
5.安生 慶・「風の軌跡」-Ⅲ- -ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのために-
安生は1935年東京に生まれ、成城学園より桐朋学園音楽科に進み、管楽器を専攻。卒業後、作曲を棚瀬正氏に師事。日本現代音楽協会会員。
主要作品には「風影―二胡とオーケストラのために、ViolinとPianoのための挽歌」、「彩画-ViolaとPianoのための幻想曲」、「弦楽四重奏曲」、「8Violaのための詩曲」、「彼方からの風景-Harpのために」、「CelloとPianoとのために(#2)」・「ピアノのための譚詩曲」、M・Sqo.Pfのための「枯野」このはか歌曲「黄泉のくに歌」(詩・花輪莞爾)、および「酒呑童子」(詩・花輪莞爾)、などがある。
彼はこの曲について次のようにのべている。『風の棲む空間。この、境界も判然としていない、軽やかに何処へにも流れこみ、時には全てを覆いつくすような、形態も時間も全く自由な世界を追ってみたい。夫々、異なる次元から生れた風の空間が出会い、からみ、ぶつかりあって交流し、やがてまた分離、拡散してゆく軌跡を、三つの弦楽器を通じて描くことが出来れば、と思っている。』
6.寺内園生・「Wild」
ピアノを中野洋子と伊達純に、作曲と和声を寺内昭、川井学に学ぶ。
寺内は1959年千葉に生まれ、高校卒業後渡独し、マリアフンク女史に作曲法を学んだ。代表作には、既出版のピアノ曲集「氷の城・イリュージョン」「めざめ・静かな風」「斑鳩」のほか、子供の為のピアノ小曲集として、「メルヘンの国」「小さな夢」「遊園地・宇宙船」(音楽之友社)「動物の大行進」(音楽の友社・CDフォンテック)「ピアノでひこうグリムのお話」(東京音楽社)「マザーグース」(全音・CDフォンテック)などデリケートな感覚と想像力豊かな抒情的作品がある。
ヴァイオリン・ソロ曲「アクティヴ」は、1999年2月にNHK・FMより放送された。
日本作曲家協議会会員及び音楽文化協議会会員。
作曲者はこの曲について次のようにのべている。
『この曲を通じて、野生に生きるものの強さ、気高さ、しなやかさ、美しさ、そして真撃な生き様を描きたく思いました。』
7.伊藤隆太・「Duetto for Shakuhachi and 17Gen No.13,2001」
伊藤は1922年、広島県呉市に生まれた。東京大学医学部を卒業し、かたわら作曲を池内友次郎、諸井三郎、高田三郎に学んだ。第19回目本音楽コンクール管弦楽作曲部門で第1位ののち、筝曲の分析から邦楽器の作品も書き、芸術祭、米国現音コンクールなど計12の賞を受けた。プレゼンテーションにも第18回以後、意欲的な作品を発表している。今回の曲について作曲者は次のように述べている。
『Adaglo Grave-Moderato
Allegretto-Grave-Moderato-Adagio
楽章2行になると思います』
田村 一郎