プレゼンテーションそのⅩⅩⅡ(22回)現代の作品


1992年1月27日(金)
東京文化会館小ホール
主催:音楽文化協議会






プ ロ グ ラ ム
1.ユリウシュ・ウチュク・ピアノのための4つの小品
ピアノ・中野洋子
2.ノルベルト・クズニク・小品集
ピアノ・中野洋子
3.中野洋子・4つの小さな歌
ソプラノ・古沢浩子
ピアノ・中野洋子
4.塚谷晃弘・シンバルを伴うオーボエ・ソロのための音楽
オーボエ・原田知篤
5.山岸磨夫・ギターのための-5つのターラー
ギター・芳志戸幹雄
6.寺内園生・ハープ・打楽器の為の「ハトホルの巫女・ムティリディス」
ハープ・木村莱莉
7.伊藤隆太・Duetto N.4 per Shakuhachi e 17 Gen alla Mushinone
尺八・三橋貴風
十七弦・菊地悌子
8.藤田耕平・三重奏曲
フルート・大竹泰夫
ヴァイオリン・本田淑美
ヴィオラ・神田幸彦
 
曲目解説  田村 進(東京音楽大学教授)
1.ユリウシュ・ウチュク・ピアノのための4っの小品

 ウチュクは1927年生まれのポーランドの作曲家で、クラクフ音楽院でヴィェホヴィチに学んだ。
その後、パリでブーランジェにも学び、バレエ、交響曲、室内楽など各分野の作品を書き、スイスなど内外で多くの賞を得た。特にオラトリオ「アッシジの聖フランチェスコ」(1976)は注目された。この曲は1957年の作で、1978年に出版された。曲は4つの部分からなり、彼固有の色彩的できめのこまかい作風がすでに見られる作品である。演奏時間の指定は約5分。

Ⅰ テネラメンテ(やさしく)
Ⅱ ルジンガンド(こびるように)
Ⅲ カンタービレ・エレジーアコ(悲歌ふうに)
Ⅳ フェローチェ(荒々しく)
2.ノルベルト・クズニク・小品集

クズニクは1946年生まれのポーランドの作曲家で、ワルシャワ音楽院でドブロヴォルスキに学んだ。その後、オランダやウィーンでも研鑽を重ね、主として現代曲のオルガニストとしても活躍している。作品はオルガン曲、声楽曲、室内楽が多く、楽器や声の不自然な取扱いを排除して明快な音を求めている。この曲はピアノ用又はチェンバロ用の作品で、1980年に出版された。曲は3つの部分からなり、演奏時間約6分35秒と指定されている。

Ⅰプレスト オスティナート風の音型で構成されているが、強弱やリズムの変化に富む曲。
Ⅱ レント 2分30秒と指定されたおおらかな曲
Ⅲ プレスト ポーランド語で「ルトニヤ」(揆弦楽器のリュートのこと)と記され、いかにもリュートの演奏を思わせるような曲。
3.中野洋子・4つの小さな歌(雪・さびしき野辺・亀・猫)

 作曲者の中野は、ピアニストとして、また当協会の演奏会メンバーとして、活動しているが、作曲も手がけているので、今回、いわば特別出品というかたちで発表して頂くことになった。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
 『今回私のつたない小さな作品に発表の場を与えて下さったプレゼンテーションの皆様の御好意に心から感謝いたします。折々に心に残った詩を音にしたもので、「雪」は三好達治の詩によるもの、「さびしき野辺」は立原道造の詩によるもの、「亀」「猫」は萩原朔太郎の詩によるものです。』
4.塚谷晃弘・シンバルを伴うオーボエ・ソロのための音楽

 塚谷は1919年東京に生まれ、1942年東京大学を卒業した。在学中から諸井三郎について作曲を学ぶ。戦後1949年に「新作曲派協会」に参加、それ以来現在まで室内楽を中心に多くの作品を書いている。またその他の作品が1959年と61年に芸術祭奨励賞(団体及個人)を受けている。主要作品には「弦楽と打楽器のための組曲」、「ヴァイオリン・ソロのためのファンタジア」、「コントラバスのための三章」(1981年8月)のほか能に基づく室内オペラなどがある。日本の伝統を生かした彼の現代的表現は海外からも注目され、2、3の作品がしばしば演奏されている。

 この曲について作曲者は次のようにのべている。
 『オーボエ・ソロ奏者が、自らシンバルを、間を以て奏しつつ演奏することによって、一種の相乗効果があり、独特の幻想的なイメージを造形するように工夫して作曲された。
1991年夏の作で、枠組は数年前にできていたので、厳密にいえば、改訂初演である。』
5.山岸磨夫・ギターのための―5つのターラ―

 山岸は1933年東京で生まれ、1957年東京芸術大学作曲家を卒業した。作曲は下総皖一に学んだ。1961年の「シンフォニア」と1962年の「カプリチォとパッサカリア」は毎日コンクールの管弦楽部門で入賞している。「主要作品には交声曲「夕鶴」、「ヴァイオリンとピアノのための2つの詠」、「フルートとギターのための気と律」(昭和50年度武井賞受賞)、「弦楽四重奏曲Ⅰ」、「Ⅱ」、「ピアノトリオのための“乱”」、「ヴィオラとピアノのための変容Ⅰ」、「変容Ⅱ」のはか、合唱曲「白鳥帰行」、オペラ「温羅の砦」、「美作民謡による交響曲」、「交響曲美作Ⅱ」「管弦楽のための変容」、「管弦楽のための-序、破、急-」などを書き上演されている。彼は日本の題材にイメージを求め、平易で伝統的な手法を用いながら現代的でユニークな味をもつ作品を書いているが「フルートとギターのための気と律」はハンガリーにおいて演奏されるなど盛んな創作活動を行っている。現在、作陽音楽大学教授。

 彼はこの曲について、次のようにのべている。
 『この曲は一つのモチーフを、ある時はシムポリックに、又、時にはオスティナートとして、五っの世界を考えてみました。ギターの持つ様々な味わいを思いながら・・・(ターラは屋の意)。』
6.寺内園生・ハープ・打楽器の為の「ハトホルの巫女・ムティリディス」

 ピアノを中野洋子と伊達純に、作曲と和声を寺内昭、川井学に学ぶ。
 寺内は1959年千葉に生まれ、高校卒業後渡独し、マリアフンク女史に作曲法を学んだ。代表作には、既出版のピアノ曲集「氷の城・イリュージョン」「めざめ・静かな風」「斑鳩」のはか、子供の為のピアノ小曲集として、「メルヘンの国」「小さな夢」「遊園地・宇宙船」(音楽之友社出版)「ピアノでひこうグリムのお話」「ピアノでひこうアンデルセンのお話」(東京音楽社出版)「マザーグース」(全音)どデリケートな感覚と想像力豊かな抒情的作品がある。
 日本作曲家協議会会員及び音楽文化協議会会員。
 作曲者はこの曲について次のようにのべている。

『エジプトの古い記述に書かれていた「ハトホルの巫女ムティリディス」という名から、一人の若く美しい、活き活きとした女性(架空の)をイメージし、ハープの持つ古風で優雅な響きと、それとは対照的な原始的・野性的な魅力とを曲に折りこめたらと願って作曲いたしました。ハトホル神については、いろいろな解説がなされますが、一般的には愛と舞踊・音楽を司る女神とされています。』
7.伊藤隆太・Duetto N.4 per Shakuhachi e 17 Gen alla Mushinone

 伊藤は1922年、広島県呉市に生れた。東京大学医学部を卒業し、かたわら作曲を池内友次郎、諸井三郎、高田三郎に学んだ。第19回目本音楽コンクール管弦楽作曲部門で第1位ののち、等曲の分析から邦楽器の作品も書き、芸術祭、米国現代コンクールなど計12の賞を受けた。プレゼンテーションにも第18回以後、意欲的な作品を発表している。

 今回の曲について作曲者は次のようにのべている。
 『地唄「虫の音」の楽式と素材を拡大して二重奏にした。地唄は安永年問(1772-81)名古屋の藤尾勾当の作曲。勾当は謡曲「鈴虫」の台本を使った京歌物「虫の音」の歌詞を作って三絃用の「物語曲」を作曲した。この曲を25年前、山田流・中田博之師に教わった。「死んだ友人の亡霊と阿倍野で、秋の夜に対話するうちに夜が明け、目前には尾花のみあった」という物語。歌物から手事物へ移行する楽式をもち、音型は長唄、歌舞伎にも使われた。』
8.藤田耕平・三重奏

 藤田は1945年横浜で生まれ、1970年東京芸術大学作曲科を卒業した。作曲は池内友次郎と諸井誠に学んだ。主要作品には、2台のピアノのための「八百屋お七の舞台への音楽」、七奏者のための「黙示」、管弦楽のための「屋の刻」などがある。
 彼は音の積重ねや淡々と流れる旋律のひびきの中に微妙な音色の変化を追求し、個性的な作品を書いている。ソプラノとピアノのための「白鳥」は1979年のヴィオッティ国際音楽コンクール作曲部門で1、2位なしの3位入賞している。「黙示」は1985年2月サンフランシスコでの現代音楽週間で演奏されると共に、NHK・FMより放送された。

 作曲者は今回の曲について、次のように述べている。
 『今回の作品は、特に作品の背景となる副題を持ちませんが、私がそれぞれ好きな3つの楽器の組み合せを、オーソドックスな手法で追ってみました。』

田村 一郎