6.おわりに



 わが国におけるこの分野の研究は,食品化学的観点から,ホタテガイ閉殻筋中の遊離アミノ酸をはじめとする各種エキス成分を詳細に分析し,呈味有効成分をほぼ完全に解明した上記のような例があるが,マガキ,ハマグリ,アサリ,マシジミなどの他の二枚貝では閉殻筋や軟体部中の遊離アミノ酸,核酸関連物質,有機酸など特定の成分または成分群について調べた断片的な研究が多く,D-アミノ酸,ベタイン類,グリコーゲンなど多種類の成分を同一試料を用いて分析した例は少ないのが現状である。さらに,これまでのエキス成分に関する研究は,季節,年齢,雌雄,環境水などの自然環境要因や生理要因の変動を無視し,ある一時点における成分組成を明らかにしたにすぎない。

 今後は,食品化学的な研究にとどまらず,二枚貝の生理・生態をおさえたうえで,エキス成分の生体中の動態を捉える総合的な研究が望まれる。このような研究によって得られる知見は,二枚貝類の環境適応機溝の解明に通ずるばかりでなく,生存可能な人為的環境操作によってエキス成分の著しい増加も期待され,より美味で付加価値を伴う水産物が得られる可能性をひめている