4.種々の要因によるエキス成分含量の変動


ここでは種々の要因による遊離アミノ酸含量の変動を中心に述べる。

4-1.測定部位(遊離アミノ酸含量の比較)
 鴻巣ら21)がアカガイについて調べた結果を図3に示す。組織により遊離アミノ酸総量が大きく異なり,閉殻筋や足筋に比べると外套筋,鰓および内臓部では低い。違錐アミノ敦の組成も組織により違いがみられ,タウリンやβ-アラニン含量に大きな差が認められる。魚類において,タウリンは普通肉に比して血合肉や心臓に多いが,アカガイでも心臓はタウリンに富んでいる.また,血リンパのアミノ酸組成は含量的に極めて低いが,筋肉部(主な可食部)の組成と類似しており,興味がもたれる。



4-2.環境水の塩分濃度(遊離アミノ酸含量の変動)
 鴻巣ら21)の研究を紹介する。彼らはタイラギを50~150%の数段階の濃度の海水中で24時間飼育し,生存個体の血リンパを含む諸組織の遊離アミノ酸含量を測定した。結果の一部(組織は閉穀筋,鰓と血リンパ,海水濃度は3段階,成分は主なもの)を図4に示す。

 タイラギは75~125%海水中で生存可能な狭塩性動物と判断している。また,遊離アミノ酸の変動では海水濃度の変化に対応して閉殻筋と鰓ではタウリンが増減し,閉殻筋ではグリシン,β-アラニン,アラニンも変動している。一方,血リンパでは他の組織とは逆の変動を示している。これは遊離アミノ酸が低張海水では組織から血リンパ中に放出され,高張海水では血リンパから組織へ吸収されるためと考えられる。これらより,上記成分の生理的意義は細胞内浸透圧調節にあると思われる。

 二枚貝の遊離アミノ酸の研究は,浸透圧調節因子としての生理化学的な役割を解明する目的で行われているが,大きく変動する成分がグリシン,β-アラニン,アラニンなどの甘妹アミノ酸である点は食品化学的見地からも注目される。





4-3・嫌気的条件.(遊離アミノ酸の変動)
 水産二枚貝が嫌気的条件に曝されると,エキス成分の一部に大きな影響を与える。すなわち,二枚貝では嫌気的解糖の代謝産物としてアラニン,アラノピン,コハク酸,プロピオン酸などが蓄積することが知られている 22)。近年,著者ら 23)はチョウセンハマグリを好気的および嫌気的条件下で飼育し,飼育環境条件の違いによる遊離アミノ酸含量の比較を行った。その結果の一部を表11に示す。

 遊離アミノ酸はグルタミン酸,グリシン,アラニン,アルギニンの含有量の多いアミノ酸の変動が大きく,嫌気的条件下で大幅な増加を示した。嬢気的条件により呈妹有効成分として重要なアミノ酸が増加することは極めて異味深い。

表11 好気的および嫌気的条件下で飼育したチョウセンハマグリの遊離アミノ酸含量の比較(mg/100g)
好気的条件 嫌気的条件
タウリン 884.9      742.3     
アスパラギン酸 68.3      67.8     
トレオニン 18.7      25.9     
セリン 15.8      17.7     
グルタミン酸 225.8      339.1     
プロリン 60.4      11.9     
グリシン 75.2      133.5     
アラニン 265.0      649.3     
シスチン 1.4      1.5     
バリン 6.1      16.6     
メオチニン 2.0      2.4     
イソロイシン 5.3      10.2     
ロイシン 8.2      14.8     
チロリン 9.9      17.4     
フェニルアラニン 9.6      11.7     
トリプトファン 5.2      3.8     
ヒスチジン 11.0      12.0     
リシン 11.2      15.6     
アルギニン 106.6      136.1     
遊離アミノ酸 1790.6      2229.6     



4-4.季節変化(遊離アミノ酸の変化)
 SakaguchiとMurata 24)は伊勢湾産の養殖マガキエキス窒素および遊離アミノ酸含量の周年変動を調べ,次のような興味ある結果を得ている。すなわち,グルタミン酸,アラニン,グリシン,プロリンなどの呈味性アミノ酸の含量が比較的多く,いずれも冬から早春に最大値を示し,夏季に最小になることを報じている。また,エキス窒素量も上記アミノ酸と同様の季節変動を示した。夏季にマガキを食用と供しない理由は,呈味成分の含量が少ないためであるとしている。なお,遊離アミノ酸以外にも季節変動を示す成分(3-6参照)は多く,生殖周期との関連性など生理科学的観点に立脚する研究についても今後検討する必要があろう。