5.二枚旦の呈味成分


 次に,これらのエキス成分がどのように味に関与しているかについて,鴻
巣らが行った研究を紹介する。
 彼ら25、26)は,多くの人々に好まれるホタテガイの呈味成分を明らかにするための研究として,エキスの詳細な分析を行っている。その結果を表12に示す。

表12 ホタテガイ閉殻筋のエキス成分 (mg/100g)
   アミノ酸: 遊離型 結合型         ヌクレオチドと関連物質
タウリン 784    アデニル酸 172             
アスパラギン酸 4    11    イノシン 14             
トレオニン 16    2    ヒポキサンチン 2             
セリン 8    4   
グルタミン酸 140    16          4級アンモニウム塩基:
プロリン 51    6    TMAO 20             
グルリン 1925    9    TMA 10             
アラニン 256    6    グリシンベタイン 339             
シスチン 8    16    ホマリン 79             
バリン 8    4    トリゴネリン 32             
シスタチオニン 4   
メチオニン 3    1         有機酸:
イソロイシン 2    1    コハク酸 10             
ロイシン 3    2   
チロシン -    1            糖:
フェニルアラニン 2    2    グリコーゲン 4890             
β‐アラニン 2    2   
β‐アミノイソ酪酸 3           無機イオン:
オルニチン 1    Na+ 73             
ヒスチジン 2    K+ 218             
リシン 5    2    Cl+ 95             
アルギニン 323 PO.3- 213             




  まず,窒素成分のうち遊離アミノ酸では,数種のアミノ酸に著しく偏るという特異なパターンを示している。すなわち,グリシン,タウリン,アルギニン,アラニン,グルタミン酸が多く,これら5種のアミノ酸だけで全遊離アミノ酸量の97%に達している。一方,結合型アミノ酸は全般的に少なく,ペプチド成分はエキス中にあまP存在しないことがわかる。ヌクレオチドとその関連物質としてはAMPが多く,貝煮の特徴を示している。4級アンモニタム塩基としてはグリシンベタイン,ホマリンが多量検出されている。無窒素成分のうち,アサリなどではコハク酸がうま味成分としてあげられているが,ホタテガイ中には10mg含まれているだけである。無機イオンでは細胞内の主要イオンであるK+とPO43-が多く,細胞外の主要イオンであるNa+やCl-は比較的少ないようである。さらに,マガキなどの二枚見では,グリコーゲンが美妹な時期に含量が増すことが知られているが,ホタテガイ中にもかなりの含量が示されている。

 以上の分析から,ホタテガイエキスの組成がどの程度明らかにされたかを知るため,窒素成分について測定された各成分から窒素量を計算したエキス窒素に対する百分率を求めている。その結果全成分の合計は96%となり,エキス組成はほぼ解明されたと判断している。


 また,彼らは10名からなるパネルを用い,詳細な分析値を基に調製したホタテガイ合成エキスの味が天然エキスの味を再現しているか杏かを調べたところ,合成エキスは天然エキスに沈べ,こく,とろみ及びまろやかさに劣り,味が単純で奥行きが不足し,全体的にまとまりを欠くが,ホタテガイ様の味はかなり良く再現していると評価している。加えて,ホタテガイエキス成分の呈味上の意義を調べる目的で,オミションテストを3点比較法で行っている。その結果を要約すると次のようになる。1)グリシンは,ホタテガイの味の一つの特徴である強い甘味に大きく寄与するとともに,総合的なおいしさの向上に役立っている。 2)アラニンはグリシンよりはるかに弱いが甘味に寄与している。3)アルギニンは,苦味を呈するアミノ酸であるが,ホタテガイに苦味を与えず,むしろ嗜好性を簸める役割を担う。4)グルタミン酸とアデニル酸は,うま味を与えると同時に,味の持続性,複雑さ,こくなどを強め,嗜好性を高める役割を果たしている。5)Na+,K+およびCl-も妹の持続性,復姓さ,こく,まろやかさなどを強める効果を持つが,なかでもCl-の効果が顕著である。6)多量に存在するグリコーゲンは,味の持続性,複雑さ,こく,まろやかさなどを強め,とろりとした濃厚感を出させ天然感を増大させるのに役立つ。

 二枚貝における呈殊有効成分を詳細に研究した例は,上記のハタテガイ以外になく,今後多くの二枚貝について検討する必要がある。