原田 節(ハラダ タカシ) 小澤BSO最後のツアーは奇異なほど因縁だらけの旅だった。
CARNEGIE HALL :
photo by Hiroshi Yoshimura
オンド・マルトノは1928年、パリのオペラ座で創作者モリス・マリトノによっ て初めて公開演奏された電子楽器です。
CARNEGIE HALL
:photo by Yasuhiko Gotoh
オンドとは電波の意、以来機械と人間と の見事な調和を実現した唯一無二の楽器として多くの愛好家に恵まれ、また様々なジャンルで、雲の上から聴こえてくる様なその非現実的でありながらどこか人間臭い表現力と音楽性でもって、たくさんの人々を魅了し続けています。
THEATRE DES CHAMPS-ELYSEES
:photo by Yasuhiko Gotoh
楽器の発表から20年程を経てクーセヴィツキーの委嘱により作曲されたオリヴ ィエ・メシアンのトゥランガリラ交響曲は、今回の小澤征爾指揮ボストン交響楽 団との演奏会ツアーとのルートと全く同じく、まず49年ボストン、シンフォニ ー・ホール(ウィーン楽友協会、コンセルトヘボウと並び称される世界の音響の良い三大ホールの一つ)に於いてバーンスタイン指揮のボストン響で初演、次い でニューヨークのカーネギー、そしてソリストのイヴォンヌ・ロリオとジネッ ト・マルトノ以外のメンバーは変わりましたがフランス、ドイツと続けて演奏さ れました。それから半世紀を経た今でも、オンドにとって最も重要なレパートリ ーであることに変わりはなく、音楽的にも技術的にもオンディストたちに難題と 発見を提供する至高の作品であり続けています。
ボストンでのポスター
:photo by Yasuhiko Gotoh
BOSTON,THE SYMPHONY HALL
:photo by Yasuhiko Gotoh
ボストン、シンフォニーホール外観
:photo by Yasuhiko Gotoh
ボストン、シンフォニーホール、
リハーサル
:photo by Yasuhiko Gotoh
ボストン、シンフォニーホール正面
:photo by Yasuhiko Gotoh
CARNEGIE HALL
:photo by Yasuhiko Gotoh
1973年秋からの音楽監督小澤BSOのコンビとしては最後のツアーになる今回プ ログラムに選ばれたのは、マーラーの二番<復活>と私の参加させていただいた メシアン。
パリではもう一つ、エッフェル塔の下でのパリ管と合同での2000年を祝うパリ市主催の野外無料コンサート(ベートーヴェン第九など)もあり、流石 にタフなアメリカのオーケストラのメンバーも...と思いきや、家族連れで短い オフの日を思う存分満喫する姿に、過度に神経質になっていた私は何やら教えら れる思いでした。
ケルン 野外巨大スクリーンでの
生中継のアナウンス
:photo by Yasuhiko Gotoh
日を追う毎に親しく声をかけてきてくださるメンバーにどんな にか勇気づけられたことでしょう。
67年に録音された小澤トロント響でのトゥランガリラのアルバムの印象が強す ぎたのか、また私がこれがオンドだと意識して初めて生で聴いた演奏会が78年の パリ・シャンゼリゼ劇場での小澤パリ管だったせいか、今回も異様なまでに霊感 溢れるタクトのマエストロ小澤の得意曲で、随分と御振りになっていらっしゃる のかと思っていたら、意外に何とその78年のパリ以来とのこと。
ケルン リハーサル
:photo by Yasuhiko Gotoh
22年前、電子楽 器とは全く気付かせない程の人間的でハートフルな表現力に驚き、自分の恩師と なったジャンヌ・ロリオさんの楽屋に駆け込んで教えを乞うたあの時と同じステ ージに立つ。
シャンゼリゼ劇場外観
:photo by Yasuhiko Gotoh
パリには何度か呼んで頂いているけれどシャンゼリゼ劇場に対する 思いは事の他特別なものがあり、しかもその時と同じマエストロ小澤にアメリカ 屈指ビックファイヴの一つボストン響、ピアノのソロは今や公演の度にその才能 を見せつけ世界中に名声を轟かせる超売れっ子のピエール=ロラン・エマール (彼は本当に優しい気の細やかな紳士で今回も色々助けてもらいました)、舞台に役者が揃い72年前オンド・マルトノが初めて聴衆の前で音を響かせたの と同じ5月のパリで公演できるのです。やっとこの場所に帰って来たのです。
カーネギーホール
売り切れのポスター
:photo by Yasuhiko Gotoh
カーネギーホール外観
:photo by Yasuhiko Gotoh
カーネギーホール楽屋
:photo by Yasuhiko Gotoh
Pierre-Laurent Aimard,pianist
:photo by Yasuhiko Gotoh
カーネギーホールのステージ
:photo by Yasuhiko Gotoh
MAESTRO SEIJI OZAWA
AT THE TYPICAL KOLNER BISTRO
:photo by Yasuhiko Gotoh
こうして呼び込まれるように、吸い込まれるようにセイジ(誰もが親しみを込 めてそう呼ぶので、せめてここだけでも使わせて下さい)の魔法の指揮棒にひっ ぱられて夢のような演奏をしている自分を不思議そうにもう一人の自分がにっこ り眺めています。
ケルン 終演直後 です
:photo by Yasuhiko Gotoh
本人が参加しているのに過剰な表現は避けるべきでしょうが、 各地でのとてつもない感動と興奮の嵐、すでにレパートリーとして定着した巨大 なこの作品の演奏の歴史に全く異例な程に輝く光を放ったことは間違いありませ ん。
KOLNER PHILHARMONIE
:photo by Yasuhiko Gotoh
カーネギーやケルンのトリエンナーレでももっともっとたくさんのエピソー ドがあるのですが、それらはまた別の機会に譲りましょう。
ケルン、フィルハーモニー外観
:photo by Yasuhiko Gotoh
ケルン大聖堂前の野外生中継用のスクリーン
:photo by Yasuhiko Gotoh
最後にモリス・マルトノの残した言葉を私の座右の銘として付け加えさせてい ただきます。「芸術とは自分自身の言葉を見つけだす事である。」
原田節様
パリでは本当にすばらしい演奏を聴かしていただき、また君の生徒で本当に感じの良い小嶋さんともお会いすることが できてよい時間を過ごしました。
ケルンの演奏もさぞかし素晴らしいものだったのだろうと思います。
フランスの批評がさぞかし名言を送ったでしょうから、僕が書くのも なんですが、これまで聞いた君の演奏の中でもトップクラスだったと思いま す。
英語で「Steel The Show」という表現がありますが、演奏が白熱するにつれ、今回はマルトノが注目をさらったのではないでしょうか。
小沢さんは、この曲をあたかも2台のソロ楽器のためのコンチェルトの ように演奏して、いつもソロ楽器が輝くようにオーケストラを誘導して いたと思います。
ケルン演奏風景
:photo by WDR
ケルン演奏風景
:photo by WDR
ボストンの奏者が、技術的な面で曲をこなすのにまったく不安がないものだか ら、 音のバランスとか、間とか、もう1つ高い次元のことに演奏中の注意を 向けることができるようでした。
他のオーケストラと比べると、個々の場面で、アインザッツのタイミングがもう 少しだけ 正確、ということになるのですが、それが重なっていくと、最終的には 圧倒的な演奏の力を生むようです。
エマールとの掛け合いも、この間のN響の時よりもずっと良くなってましたね。
この間は、エマールはもちろんブリリアントでしたが、「私は自分のことで 精一杯です。
原田さんの方は、どうぞよろしくお願いします。」 というところが少しあったのに、今度は、室内楽のように演奏して、 マルトノとの音の重なりやコントラストを工夫することに本当に喜びを 感じているようでした。
小沢さんの演奏は、「この曲の新しいビジョンを見出す」といったことを狙っ たもの ではなかったと思うけれど、ともかく正確な演奏をしよう、技術的に高い次元 の ものを実現しようと、心がけたことが、聴衆にこの曲の「音」の体験をパーフ ェクト に味あわせることができたのだと思います。
これまでの、どの演奏でも聴かれなかったのは、この演奏にあった「白熱」 です。
演奏会の途中で、会場の温度がどんどん高くなってきて、本当にメシアンの 表現している熱帯の世界のただなかにいるような気がしました。
このまま、最後までいったら、会場がメルトダウンするのではないかという気 さえ したほどです。
ケルン演奏風景
:photo by WDR
ケルンカーテンコール
:photo by WDR
最近はイタリア語もうまくなったので、この間も、トスカーナの小さな町であ った 日本研究者の集まりで、10分くらいイタリア語のスピーチをしましたが、 そうしたら、イタリア語で日本経済のことを話せる人が少ないためか、ナポリとベネチアの大学から秋に招待が来ました。
どちらもすばらしい町ですから、行くのが楽しみです。
その他、秋にはリヨンとウィーンからも招待があります。
こちらの方は、フランス語とドイツ語でできたらいいなと思っています。
また、お会いするのを楽しみにしています。
竹森俊平(慶應義塾大学経済学部教授、ミラノ在住)
転載許可済
転載許可済
2000年 | ツアー日程 | |
小澤征爾指揮ボストン交響楽団 メシアン トゥランガリラ交響曲 Seiji Ozawa with Boston Symphony Orchestra ,Messiaen Turangalila Symphonie |
4月28日13:30 ボストン・シンフォニー・ホール Boston Symphony Hall |
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小澤征爾指揮ボストン交響楽団 メシアン トゥランガリラ交響曲 Seiji Ozawa with Boston Symphony Orchestra ,Messiaen Turangalila Symphonie |
4月29日20:00 ニューヨーク・カーネギー・ホール Carnegie Hall |
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小澤征爾指揮ボストン交響楽団 メシアン トゥランガリラ交響曲 Seiji Ozawa with Boston Symphony Orchestra ,Messiaen Turangalila Symphonie |
5月3日20:30 パリ・シャンゼリゼ劇場 Theatre des Champs-Elysee |
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小澤征爾指揮ボストン交響楽団 メシアン トゥランガリラ交響曲 Seiji Ozawa with Boston Symphony Orchestra ,Messiaen Turangalila Symphonie |
5月7日20:00 ケルン・フィルハーモニー・ホール Kolner Philharmonie |